第11話 変化の前兆

『その機体…モートか?舐められたものだな』


『勝敗は機体で決まらねえ!』


(僕は何を…?そうだ。今は戦闘中で)


『惜しいな。もっと優れた機体であれば、もう少し戦えただろうに』


『くそっ!傷一つつかないのか…』


(アストレアがもう一機現れて…オピスさんがやられて…それで…)


『終わりだ』


 アレスの乗るモートが腰のあたりで真っ二つにされる。


「アレスさん!」


 セーマは意識が覚醒し、思わず叫ぶ。アストレアのスラスターを全開にすると敵機へと迫る。


『やはり来るか!アストレアのパイロット!』


 敵機は余裕をもって迎撃のためにビームハルバードを構える。その時、セーマの乗るアストレアのセンサーが味方の接近を検知した。


『助太刀するぞ、セーマ!アレス!』


「ビスカスさん!フログさん!」


 願ってもないことだった。彼らは自分たちの仕事をこなした後、セーマ達の状況を見て駆けつけてくれたようだ。


『増援…潮時か。まあ私たちの仕事は一応果たせただろう』


 通信の向こうからつぶやきが漏れる。が、セーマの耳に届くことは無かった。


『また会おう。その機体に乗る限り、私たちは再び会うだろうからな』


 そう言い残すと、敵のアストレアとその仲間と思しき敵機が撤退していく。周りを見れば戦争の音は遠くなっていた。どうやらニベ公国の軍は逃げていく敵に対し、これ以上の追撃はリスクが大きいと判断したようだ。最初の半分ほどになった敵の艦隊が遠目に見えた。


 ―――――

 ―――

 ―


 セーマは扉を開くと、中にいる人物に声を掛けた。


「アレスさん、大丈夫ですか?」


「おー、セーマ。見舞いに来てくれたのか?」


「当り前じゃないですか。戦場で助けてくれたんですから」


「気にするなって。俺はあの機体が気になっただけだ」


 アレスさんらしいですね。と言いながらセーマはアレスがいるベッドに近づく。


「そういえばアストレアってビームソード持ってたんだな」


「突然使えるようになったんですよ。使えると分かってたら最初から使ってます」


「それもそうだな」


 そう言ってアレスは笑い、真顔になってこう続けた。


「ところでセーマ、あの機体何だったと思う?」


 真剣な話に、セーマも笑みを消して答える。


「分かりません。アストレアに似ていたとは思うんですが…」


「だよな。だけどあいつはシールドを持ってなかったぜ。それに見た目も少し違う。セーマが発掘した機体と似た機体を敵が持ってるってのも妙じゃねえか?」


「でも本当に何もわからないですよ?それこそあの機体のパイロットに聞くしかないんじゃないですか?」


「だよな~」


アレスもそう思っていたのか、笑いながらそう言った。セーマはその発言によって少し空気が軽くなったように感じた。


 その後しばらく雑談をし、ふとセーマは時計を見た。そろそろシュリと約束した時間だろう。そう思ったセーマはアレスに離席することを告げた。


「ではこの辺で失礼しますね。早く戻ってきてくださいよ」


「おう。セーマも俺が戻るまでこの船を頼むぞ」


 ―――――

 ―――

 ―


 セーマはシュリと会う約束をしていたため、格納デッキに足を運んだ。


「シュリさん?呼ばれたので来ましたけど…」


「セーマ君!待ってたよ~。いやあやっぱり本人に聞いた方が早いと思ってさ」


「何のことでしょう?」


「ビームソードとビームライフルのことだよ。今まで見せてもらって無かったからさ、びっくりしちゃった」


 シュリはあくまで笑顔でセーマに話しかけたが、セーマはシュリの言葉になんで教えてくれなかったの?という圧が掛かっている気がした。


「あ…あの武装たちは、戦いの途中で使えるようになったんです…」


「ほんとぉ~?まあいいけど。そんなことよりアストレアのビーム兵器すごいわね。一応見てみたんだけど、出そうと思ったらとんでもない火力出せるんじゃないの?」


「という事は、いじったんですか?」


「いや、いじれなかった。あの技術力は私の腕じゃ足りない、というか妨害されているような感じもあったし。あ、整備というか掃除はしておいたから。そのくらいならできるからね」


 言いたいことが言えたのか、来てくれてありがとね。と言ってシュリはどこかへ歩いて行った。セーマはまだ仕事があるんだろうなと思いつつ、アストレアのコックピットに入る。


「アストレア、機体のデータを見せて」


〈人の存在を確認。マスターと判断。アストレアの一部データを開示します。〉


 セーマは表示されたアストレアのデータを見る。そこには万全の状態のアストレアが表示されており、武装欄にはシールド、ビームソード、ビームライフルが表示されていた。


「なんで最初は表示されてなかったんだ?ビームソードは腕に格納されてたし、ビームライフルだって盾の中にあったのに」


〈回答。ビームソード及びビームライフルを使用するには条件があります。〉


 セーマのつぶやきを質問と受け取ったのか、モニターにそう書かれていた。


 書かれている答えはセーマの知りたかった答えではなかったが、セーマはこれ以上聞いても意味がないだろうと悟り、違う質問をしてみる。


「ほかに隠された武装はないの?」


〈ビームソード、ビームライフル、シールド以外の武器は搭載されておりません。〉


 少しホッとするセーマ。これ以上武装を持っていたらシュリに何を言われるか想像したくなかった。


 ―――――

 ―――

 ―


 セーマがビーサム内を歩いていると、オピスの姿を見かけた。


「オピスさん!」


 その声にオピスは振り向き、セーマの姿を認識する。


「セーマ君。そういえば感謝を伝えれていませんでしたね。あの時はありがとうございます」


 そう言ってオピスは頭を下げる。


「いやいや!感謝を言われる立場じゃないです。あの時だってハルモディアがあんなことになるまで動けませんでしたし。だから顔を上げてください!」


 セーマは手をぶんぶんとしながらそう言った。


「ですがあの時に動いてくれなければ私は今ここに立ってはいないでしょう。目立つ傷も負いませんでしたし」


「そ…そういえば、ハルモディアはこれからどうなるんですか?結構ボロボロだった気がするんですが…」


 素直に感謝を受け取れないセーマが露骨に話題を変えた。そんなセーマにオピスは少し笑い、質問に答える。


「本国から代わりの機体が来ると思います。私の機体は少々特殊で、ニベ公国では直せませんし。バルホール帝国で製造されている機体ですからね」


「バルホール帝国……」


「いい所ですよ?セーマ君は興味がありますか?」


 少し興味が湧いたセーマはオピスからバルホール帝国について聞くのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


シュリの最後の言葉には二つの意味があります。

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