第31話 再会

 お待たせしました。これからペースを戻したい…!


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 セーマは暗闇の中で目を覚ます。


「あれは…あの時の白いアストレア?」


 白いアストレアが宇宙を駆ける。その先ではカークスが放つスラスターの光が星のように輝いていた。


「あの大群の中に突っ込むのか!?そんなまさか…」


 ビームのがアストレアに押し寄せる。


(こんな弾幕見たことが無い!こんなの避けようがないし、受けるとアストレアでも間違いなく吹き飛ばされる!)


 アストレアはうつ伏せの様な姿勢のままビームに突っ込む。シールドを機体の正面で斜めにして構え、スラスター全開の超高速飛行だった。


 ビームとアストレアがついに衝突する。


(シールドでビームを逸らして、速度を保ったまま進み続けている…!ビームの光で視界もほぼ無いはずなのに、怖くないの!?)


 セーマはさらに異常を目撃する。


「ビームが当たる前に曲がってる…?」


 シールドに当たる筈のビームは、シールドに到達する直前でその進路を変えていた。


(何が起こっているんだ!?こんなこと…僕は奇跡を見ているのか?)


 ビームを抜けたアストレアに数機のカークスが立ちはだかる。


「あれは…カーテナ?いや、少し形が違う。持っているのも普通の実体剣だ…ちょっと古いけど。その周りにいる機体は…見たことないな。カーテナっぽい機体の周りにいるからケイロンかと思ったけど違うし…なんだろう、あのカークス」


 セーマが考え込んでいると、カーテナらしき機体がアストレアに斬りかかった。


「アストレアとあの機体は敵対してる?一体なんで…」


 アストレアがビームライフルを構える。そして放たれたビームは、まるで霧のように細かいものだった。その霧のようなビームをカーテナに似た機体は回避したが、その近くにいた機体に直撃する。


「ビームを拡散させて面での制圧力を高めているのか?でもそれじゃあ火力はかなり低いはず…カークスを撃破するなんてできるはず…」


 ビームが当たった機体のスラスター付近が小さな爆発を起こし、煙を上げる。


「そうか!ビームを機体の全面にあてて機体の熱を上げさせてるんだ。機体の熱に弱い所は熱に耐えれなくなるから、相手の耐熱性能と冷却システムによってはそれで無力化できるのか…」


 白いアストレアはカーテナらしき機体から距離を取る。カーテナらしき機体がビームライフルを撃つが、アストレアに当たることは無い。


 セーマはその追いかけっこを必死に目で追いかけたが、アストレアが光ったかと思うと、突然視界が暗転した。


「この、光は…?」


 ―――――

 ―――

 ―


『ハッチ・・・開けられ・・・・』


『はい。・・しているのか、まだ・・・・・・・』


『急げ!シルト様が・・・・・・・・・・・・・!』



(なんだ?誰かいるのか?)


 セーマは頭を振ってぼんやりとしている意識を覚醒させる。


(そうか…僕は敵に捕まったんだ。だからここは敵の戦艦の中で、敵がコックピットを開けようとしているのか)



『状況はどうだ?』


『シルト様!未だコックピットハッチを開けることはできず…』



(もう僕は戦えない。コックピットハッチを素直に開けよう)



 セーマはコックピットハッチを開いた。続いて目に飛び込んできた光景に、セーマは目を見開く。


「っ!あなたは……」


 どうやらその人物もセーマに気付いたらしい。


「君は……」


 ―――――

 ―――

 ―


 セーマは敵艦の中にある一室で軟禁されていた。


 檻に入れられているわけでもなく、普通の部屋だった。


(敵のパイロットだっていうのに、扱いが良い…あの人のおかげなのかな)


 セーマが考えていると、セーマがいる部屋のドアが開く。


「さて、君について色々聞かせてもらえるかな」


 部屋に入ってきたのは軍服を着た大人の男と銀髪の青年。青年はセーマが先程考えていた“あの人”であり、ラバードで出会った兄妹の兄であった。


 セーマと青年、そして軍人の大人は机を挟んで椅子に座った。


「まず、君の名前を聞かせてくれないか」


 青年がそう質問した。


「…セーマ・バランサです」


 青年の隣にいた軍人が口を開く。


「君は何故あのカークスに乗っていた。君はバルホール帝国軍なのか?軍人としてカークスに乗るには些か若い気がするが…」


「僕はバルホール帝国の人間じゃありません。バルホール帝国の人に協力するためにずっと乗ってきました。…あのカークスは僕が見つけたんです」


 青年が真剣な眼差しでセーマを見る。


「そうか…君はあのカークスについてどれだけ知っている?」


「あのカークス…アストレアは、すごい頑丈で…地上でも飛行できるし、AIも高性能で…」


「AI?あのアストレアにはAIが積んであるのか?」


「恐らく…僕が初めて乗った時も助けてくれたんです」


「戦闘補助システム?そんなものが…まあいい。次の質問に素直に答えてくれ。君は戦うことができるか?」


「それは…どういう意味です?」


「どう捉えても構わない。我々と共に戦うでも、バルホールに戻って我々と戦うでも。いや、質問を変えようか。君は人を殺せるか?」


「……僕には無理です。人を殺してしまった時に、光が消えていくのを見たんです。多分、僕が殺してしまった人の魂だったと思います。それを見た瞬間、すごい悲しい気持ちになって……。……僕はもう人を殺したくないんです」


「…仲間が撮った君の戦闘の映像を見させてもらったよ。確実に相手にビームライフルを当てられる場面でも君は撃たなかった。その話が事実で、軍人ではなく君が乗っていたのであれば十分納得できる動きだ」


 青年が立ち上がる。


「…今日は休むといい。君も先程の戦闘で疲労しているだろう」


 青年と軍人はセーマに背を向けると、その場から去っていった。


「ナグルファの皆は今頃何をしてるのかな…」


 ―――――

 ―――

 ―


 あれから丸三日経過した。


 セーマの待遇は変わらず、軍人が訪ねてくることは無い。


 部屋の前には見張りの軍人がおり、ご飯を運んでくるのも軍人だったが、セーマは特に何も思わなかった。ただ、暇な時間ができたためセーマは静かに考え事をするようになった。ナグルファのこと、家族のこと、アストレアのこと。加えてこの戦艦の中にいる人の事…特に銀髪の青年のことを考えていた。


(なんだかあの人が来る気がする。名前は確か…シルトさんだったっけ)


 セーマの部屋に、誰かが訪れたことを伝える電子音が鳴る。


『入るぞ』


 セーマの部屋に銀髪の青年シルトが入ってくる。


「今日は一人なんですね」


「ああ。今日は君と個人的な話がしたいと思っているからな」


「個人的な話…ですか?」


「君にはちょっとした恩がある。それを返しに来たのさ」


「貴方に恩を売った記憶は無いのですが…」


「写真を撮ってくれただろう?」


「それは…恩と呼ぶには小さすぎませんか?」


「君にとってはそうかもしれない。だが価値観は人によって違うものだ。……私はあの時妹と一緒にいただろう?普段こんなことをしているせいで、妹にあまり構ってやれなくてね。そして妹もそれを理解してきたのか、再開しても時間がたてばたつほど悲しい顔をするようになった」


 シルトは一瞬悲しみを帯びた表情でセーマを見たが、すぐに笑みを浮かべる。


「だが、君に写真を撮ってもらった後、私の妹は上機嫌でね。私が戦場に戻る時間になっても、妹は笑顔で送り出してくれたよ。……兄にとって、妹が幸せそうにしているのは何よりも嬉しい。…ちなみに、恐らく妹が上機嫌なのは写真のおかげだ。嬉しそうにじっと見つめていたからね」


「それが恩と言った理由ですか」


「ああ。だがこれ以外にもある。君は前の戦いで私の部下を殺さなかった。確実に殺せた状況でだ。結果的に見逃してもらったような形だな」


「それは…」


 セーマは何も言えなくなり、少し俯いて黙った。その様子を見た青年は間を置いた後、口を開いた。



「…このままだと君はバルホールまで帰ることはできない」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シルト・ハートウェイト


 ガルドラ連邦軍に所属しているアストレアのパイロット。貴族であり、カークス操縦の腕を買われてアストレアに乗ることになった。とてもきれいな銀髪であり、妹と並ぶと幻想的な光景となる。部下からの信頼も厚く、上司と部下という関係を越えているようにも感じられる。

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