第25話 運命は止まらない
ナグルファの乗組員は交代制ではあるが自由時間を与えられた。
セーマは特にしたいことが浮かばなかったのでイザヤの街をぶらぶらと散歩することにした。
「バルホールとは雰囲気が違うなあ。所々古そうな家がある…イザヤの伝統的な家なのかな、でもどこか懐かしいような…」
セーマがそうやって街を観察しながら歩き続けていると、あまり目立たない場所にひっそりと存在する本屋を見つけた。
(そういえば、前買った本はもう読んだんだった)
そう思ったセーマは本屋の中に入り、何か面白そうな本は無いかと本を物色する。その後三冊の本を買ったセーマは、軽い足取りで本屋の出口へ向かう。その時、セーマは人とぶつかりそうになってしまった。
「ごめんなさい!ちょっと気が抜けてて……ん?」
「いや、大丈夫だ。こちらも少し考え事をしていてな。!君は…」
「ミカさん…ですか?」
「驚いたな。私のことを知っていたのか?」
「いえ、名前だけです。ミカさんだと思ったのは、なんだかそのような気がして…」
セーマは本当はアイシャから色々教えられているが、容姿などは聞いていなかったためそう答えた。
「勘、というわけか」
「はい…」
「…いい勘をしているな、大事にした方が良い。……こんな場所で立ち話もなんだ、外に出てから話をしよう」
そう言ってミカは本屋を後にする。セーマはミカに付いて行った。
―――――
―――
―
「なるほど。君はあのアストレアのパイロットなのか」
セーマとミカは個室がある飲食店で話していた。
「はい。セーマ・バランサと言います。模擬戦ではありがとうございました。ミカさんもすごく強くて…すごくいい経験になりました」
「そうか。だが模擬戦はセーマが勝ったんだ。もっと堂々としてもいいんだぞ」
「いえ、あの時勝てたのはクティスさんや…味方がいたからなので。それにとてもギリギリの戦いでした。あれで威張ることなんてできません」
「セーマ……君は謙虚だな。君のような人だけだったら戦争は起きなかっただろうな」
ミカは少し寂しそうな眼をして、手に持ったコップを傾けてのどを潤す。
「どうでしょう…僕みたいな人ばかりだったら、きっとバルホール帝国や、イザヤのような国はできてないと思います。この建物も、今食べている料理も、さっき買った本も。そんな世界、きっとつらいですよ。…それに、僕は今戦っている。きっと、ミカさんの言うような世界になっても何か小競り合いが起きたら僕はそれを何とかしようとするでしょう。そして今みたいに闘うことになったら、きっと取り返しがつかなくなる。そして、もしどんどん規模が大きくなっていったら…戦争に発展するかもしれません」
「そうか……そういえば、君はどうして戦おうと思ったんだ?」
ミカはセーマを真っ直ぐと見る。セーマはその眼に見られると、隠し事ができないような気がした。
「僕は…ニベ公国にいたんですけど、そこにガルドラ連邦のカークスが侵攻してきて。僕は見つけたアストレアで追い払おうと…守ろうと思ったんです」
「立派だな。でも、その後ニベ公国軍が来たんだろう?ニベ公国軍にアストレアを預けて、君は戦わない…そんな選択だってできたはずだ。君はまだ子供で、戦争に参加する必要はない」
「でも…僕だってニベ公国民で、僕の故郷を守りたかったんです。それに、ミカさんもアイシャも多分僕より幼い時に戦っているでしょう?」
「それも勘か?だが、そうだな。私もアイシャも君より幼い時に戦っているだろう。だが、私たちには立場がある。私は父さんについていくような形で初めて宇宙に上がった。イザヤの国では、国を治める者はカークスに乗れないといけない。護身の意味でもな。そして私は父さんに言ったんだ。『私も乗りたい!』とな。当時の私にもカークスに乗る才能があった。父さんよりもうまく乗れたし、カークスパイロットたちに付いて行くこともできた」
ミカは少し俯いた。昔を思い出しているのだろうとセーマは思った。
「それは…すごいですね」
「聞いたぞ?初めてで、それも地上でアストレアを動かしただけじゃなく、二機のカークスを戦闘不能にしたうえ、一機追い払ったらしいじゃないか。むしろ君の方がすごいと思うぞ」
「いや、あれはアストレアがすごいんですよ。多分アストレアが僕の操縦をかなりサポートしてくれたんだと思います」
「サポート…アストレアには操縦補助システムかAIでも搭載してるのか?」
「詳しいことは分かりません。シュリさんは…機体の整備をしてくれる人には生体認証をしたのかと聞かれたこともありました。僕以外の誰も操縦できないからって。でも僕は…アストレアには、意思があると思っているんです」
「意思…ふむ。意思のあるカークスは初耳だが、カークスの生体認証やサポートシステムの技術はイザヤが作ったと聞く。もし気になるなら、イザヤのメインの基地の開発部にでも持っていくと良い。何かわかるかもしれん」
「わかりました、ありがとうございます」
「ああ。…もしかして君が今も戦っているのは、アストレアが君にしか動かせないからか?」
「いえ、確かにそれもちょっとあるんですけど…僕が戦うのは、戦争を終わらせたいからですよ。戦争が続いたら、僕の国みたいに侵攻される国が増えるかもしれない。それは誰でも嫌でしょう?僕は幸運なことにアストレアがいる。だったら、僕も戦うことで戦争を終わらせることができるかもしれない。そう思ったんです……なんて、綺麗事かもしれないですね。加えて言うなら、家族に楽をさせてあげられるのと、僕がアストレアを手放したくなかったからです」
「手放したくなかった?」
「はい。最初、アストレアは地面に埋まっていたんです。それを僕が見つけたんですけど……なんだか、運命のようなものを感じたんです」
「そうか……もし、これから戦っていく内に耐えられなくなったら、その時は遠慮なく私を頼れ。君は戦争に関わらないことができたはずだからな。家族のことも心配しなくて良い。私が何とかする」
「わかりました。もしそうなったら頼りますね」
「ああ。本当は君を戦わせたくないんだがな…」
セーマの耳には後半部分が聞こえなかった。
「何か言いました?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ。」
その後セーマは断ろうとしたが、ミカが全額払ってその店を出たのだった。
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