第25話 強敵サイクロプスに出会ってしまったのだが!?
「ふん、ふん、ふん、ふ~ん~♪」
エルは上機嫌に鼻歌混じりに迷宮を進み、
「ちゅる~ん、ちゅる~ん……♪」
肩に乗るライムもエルの鼻歌に乗って体をくねらせる。
迷宮中層探索初日の成果は上々。
しかも剣士としての新たに”切る”技術を獲得したのだから、機嫌が良くなるのも無理はない。
「じゃんじゃんモンスター倒そうねぇ、ライムちゃん。はわ~、ひんやり、きもち~」
ライムに頬刷りをしだす始末。
「しかしエル、あまり油断はするなよ。例えオークが倒せるようになったが、連中は中層のゴブリンだ。忘れないように」
一応釘を指して置いたが「大丈夫ですって!」とエルは自信満々に返す。
(まぁ、良いだろう。ポジティブな姿勢は良いことだ。それにいざとなれば俺が前に出れば良いしな)
「ッ……!」
突然エルは鼻歌を止めた。
長耳がしきりにピクピク震え、翡翠の瞳がキリっと正面の闇を睨みだす。
感覚の無い俺だが、エルの、そして周囲の雰囲気から察しがついた。
「エル」
「分かってます……来ます!」
エルは腰のサーベルへ手を伸ばす。
瞬間、目前の地面が割れた。
「UGOROOO!」
見上げるほどの巨人。
地面の中から現われた巨人は丸太のように太い腕で、岩を払いのける。
奴は最大の特徴である巨大な単眼が、ギロリとエルを睥睨していた。
「エル! サイクロプスだ! こいつは危険だ! 即刻退避!」
しかしエルは俺の言葉に耳を貸さず、サーベルを抜刀した。
「ふふん、良い相手がでてきましたね。確かに私だけじゃ敵いませんね。でも、ライムちゃん!」
「ちゅるん!」
ライムがエルの肩から飛び降りた。
ライムの身体から白銀の輝きを放ちつつ、自ら陽動役を買って出た。
「ちゅるるんー!」
「良いよ、ライムちゃん! そのままひきつけててねぇ!」
「こら、エル!!」
俺の言葉を聞き流し、エルは地面を蹴った。
サイクロプスの巨眼がエルを睨み、丸太のような腕を組んで振り上げる。
「ぢゅるん!」
「UGO!
しかしそんなサイクロプスへライムはいきなり爆破魔法であるドッカンを放って、怯ませる。
その時既にエルはサイクロプスの顔面にまで跳躍し、サーベルの先端は巨眼を狙っていた。
「エルぅーシャイニング……――くっ!?」
寸前でサイクロプスは硬い瞼を閉じ、サーベルの刺突を防ぐ。
衝撃で姿勢を崩すエルだったが、
「だったら!」
背中で小さく魔力を破裂させ身体を押し出す。
勢いで体勢を整え、サイクロプスの閉じられた硬い瞼をステップに、更に上へ飛んだ。
再度、エルの背中で魔力は勢いよく爆ぜた。
「エルゥ―、ストラァァァイク!」
「UGO!!」
エルは得意の飛び蹴りで、サイクロプスの頬を殴打する。
そしてサイクロプスがよろけている隙に、奴に片口へサーベルの刀身を添えていた。
「とりゃぁぁぁ!」
落下を利用しての押切りで、サイクロプスの体を袈裟状に切り付けた。
傷は浅いが、それでもサイクロプスは悲鳴を上げ、確実にダメージになっていると分かった。
(護拳で殴るところを飛び蹴りに変更し、巨大モンスターへの対応とする。なかなかの応用力だな)
「ぢゅるん!」
ライムが再びドッカンを放ち、サイクロプスを岩壁へ叩きつける。
しかしサイクロプスは起き上がり、怒り満ちた咆哮を上げ、ライムへ殴りかかろうと迫る。
「せい! やぁ! とりゃー!」
そんなサイクロプスの足元をエルが素早く何度もサーベルで切り付けていた。
「UGO!?」
サイクロプスの足に蓄積されたダメージが、奴を怯ませる。
(これは……もした倒せるのか? エルがサイクロプスを……?)
エルの成長に驚くと共に、そんな気持ちが沸き起こった。
ライムとの共闘という形なので経験値は半減する。
しかしそれでも4000近い経験値が手に入るのは確実だ。
「UGAAAA!」
「ちゅるん!?」
サイクロプスは片手でライムを掴み、勢いよく投げ捨てた。
それをみたエルは怒り心頭な様子で、高く跳躍し、サーベルを上段に構える。
「ライムちゃんに乱暴するなぁぁぁぁ!」
刹那、エルを見上げるサイクロプスの巨眼が一瞬で真っ赤に染まり、光があふれ出た。
「いかん!」
「わわ!?」
ソウルリンクでエルの体を乗っ取り、背中で魔力を爆発させて更に上へ飛ぶ。
サイクロプスの目から赤い閃光が発射され、迷宮の壁を真っ黒に焦がした。
(いけると思ったが、やはり時期尚早だったか!)
サイクロプスの目からの熱線。
これは奴にとって、命を削る諸刃の刃だ。故にこれを放ちだす前に倒すのが定石であり、今目の前にいるサイクロプスは命を削ってでも、我々を倒したいらしい。
そしてすでにこの状態になってしまえば、未熟なエルが対処するのはほぼ不可能である。
「GAA!」
着地した途端、再びサイクロプスの閃光が迫り、俺は飛び退いて回避する。
サイクロプスは足もとに転がっていた岩を手にする。
奴の持つ莫大な魔力が、周囲の石礫を引き寄せ、凶悪な棍棒を形成するのだった。
「GAA!」
サイクロプスは棍棒を振り回しつつ、目から熱戦を放ち、我々を追いかけ始める。
もはや、こちらから反撃に転じられる間は一切与えられない。
「す、すみません、鎧さん私……」
事態のひっ迫に、後退したエルの意思が声を震わせる。
「仕方あるまい。俺も行けると思ったのだ。お互い様だ。俺に任せろ!」
振り落された棍棒の間を縫い、サーベルを横へ構え、刃の範囲にサイクロプスの足を捉える。
するとサイクロプスは速射光線を放った。
回避行動によって、せっかく詰めた距離が、再び元に戻されてしまう。
(ダメだ。このままでは勝てないどころか、エルとライムに身に危険が……!)
迷宮での基本、それは如何に生き残るか、ということ。
無謀な戦いは挑むべきではない。
俺は踵を返し、走り始めた。
その時、背中に眩い輝きを感じる。
「UGAO……」
サイクロプスの巨眼に魔力が収束し、炎のような輝きを現していた。
これまで見たこともない、激しい輝きに、俺は明確な死を予感する。
(――マズイ、これは避け切れん!?)
「UGAAAA!」
無慈悲に、残酷に、サイクロプスの収束した熱線が向かってくる。
(俺が判断を間違えたばかり、こんな……! すまない、エル……!)
「ちゅるぅぅぅぅん!」
ライムが咆哮を上げた。
鎧である俺さえもカタカタと震わせる強い音圧は、光線発射間際のサイクロプスを仰け反らせた。
瞬間、サイクロプスの目から光線が放たれ、迷宮の天井を盛大に砕き、崩壊へ導いてゆく。
『ライムちゃん! いやぁぁぁー!!』
エルは俺の意識の後ろで悲痛な叫びを上げた。
その間も降り注ぐ瓦礫が我々とサイクロプスの足元にいるライムを分断して行く。
「ちゅ、ちゅるん……」
崩れ行くがれきの中で、ライムは、まるでさよならを言うように身体を振わせる。
そして我々は瓦礫によって、ライムと完全に分断されてしまったのだった。
「ライム、君ってやつは……クッ」
自分の判断の誤りを悔いる。
だが今更、この現実が変わることは無い。
『うっ、うっ、ひっく、ライムちゃん、ううっ……』
エルの意志は悲しみに暮れ、嗚咽を漏らし続ける。
それを俺は黙って聞き続けることしかできなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます