第22話 剣士なのに、エルはまたまた蹴りを放ったのだが!?
(なんだ鍛造魔法とは? 未知の魔法だ……そして、その魔法の使い手はあのローリーだ。ただのコケ脅しではない筈。だったら!)
バスタードソードの柄をギュッと両手で握りしめ、腰を深く落とす。
謎の飛行物体を叩き落とすために飛ぼうと膝へ力を込めた。
「ッ!?」
思わず横へ逃げるように飛び退く。
先ほどまで俺が立っていた地面に火花が上がった。
刹那、再び上空から、何かが物凄いスピードで降り注いでくる。
「チッ!」
舌打ちをしつつ、バックステップで回避。
再度、足元に火花が散る。
(鳥のように空を飛ぶ鉱石だと!? なんだこれは!?)
鉱石の翼の下には魔力で真っ赤に燃える”火矢”が装備されていた。
そいつは一旦翼から分離すると、底から炎を放って、まるで弩(ど)で射られたかのようなスピードで接近してくる。
回避を試みるが、ややタイミングがずれてしまった。
「こんなもの!」
接近してきた火矢へ向けて、バスタードソードを凪ぐ。
刃は火矢を捉え、真っ二つに切り裂く。
瞬間、火矢がカッと光を放った。
「ぐっ!?」
激しい爆風と衝撃が、俺を纏ったエルの体を軽々と吹き飛ばす。
だが背中から受け身を取って、転がり、立ち上がって事なきを得た。
(なるほど。今の爆発は空飛ぶ鉱石が放った火矢が原因か。注意せね――!?)
脇から轟音が聞こえ俺は思わず、飛びの退く。
さっきまでいた所に爆発が起こり、砂柱が上っていた。
俺の少し先、そこには”ゴゴゴッ”と音を立てながら前進してくる奇怪な鉱石の塊があった。
(な、なんだ!? あの大砲のようなものを装備した鉱石は!?)
装備された円筒をこちらへ向け、車輪のようなもので自走する鉱石。
それは走行を止め、円筒から鈍い音を伴いつつ、投石器(スリング)で放たれたかのような速度で、真っ赤な火球を吐き出す。
(あれをまとも食らったらひとたまりも無いぞ!)
危険を感じ再び横へ飛び退く。
火矢の時と同じく、地面は穿たれ、激しい爆風と衝撃波が襲い掛かってきた。
「うふ! 行きなさいホーク!」
岩の上に立つローリーの指示を受けて、空飛ぶ鉱石【ホーク】が翼に火矢を携え、飛来してきた。
三度目の火矢が放たれ、俺は地面の上を踊るように踏んで回避した。
「そこよ、タンク!」
ローリーが叫び、地面に鎮座する円筒を持った鉱石【タンク】が、火球を放った。
思わず丸盾を掲げ、そこへ魔力を集中させる。
「ぐおっ!?」
辛くも丸盾で火球の熱は防げたものの、衝撃のあとは凄まじく、俺は役立たずになった丸盾を投げ捨てた。
だが空飛ぶ鉱石【ホーク】と大砲を持つ鉱石【タンク】の攻撃は止まらない。
俺はただ逃げ惑うばかりであった。
「鎧、さっきの威勢はどうしたのかしら? あははは!」
高台のローリーはまるで勝ち誇ったかのような笑い声を上げている。
呼応するように空の【ホーク】が飛来して火矢を放ち、地上の【タンク】もまた火球を吐き続ける。
(糞っ! どうしたら!?)
久々に俺の中へ焦りが過った。生まれて初めて目にする攻撃パターンに、完全に翻弄されている。
剣で叩ききりたいのは山々。
しかしホークを狙えば、タンクがこちらへ狙いを定めすかさず火球を放ち、軌道を逸らす。その逆もまた然り。
「そらそら踊れ踊れ! あははは!」
今の俺は完全にローリーが出現させた【ホーク】と【タンク】のコンビネーションに成す術がなかった。
詰めかけた観衆も固唾を飲んで、ただ事態がどう転ぶか静観しているのみ。
(このままでは探索許可を取り付けるどこから、観衆へエルの醜態を晒してしまう。しかしどうしたら……)
『鎧さん鎧さん!』
その時、ずっと後ろに下がっていたエルの意思が、頭の中へ直接語り掛けて来た。
『なんでローリーさんはあんな高いところへいるんですかね?』
「済まないが、エル今はそれどころじゃないんだ! 後にしてくれ!」
回避に集中しつつ、解決策模索していた俺に余裕はなく、思わず叫びをあげる。
『ぶぅー……そんな言い方するなら!』
「ッ!?」
突然、視界が揺らぎ、エルの肌を通じて感じていた空気の感覚が消失した。
バスタードソードの重さが手から消え、意識が後退する。
「待て、バカ! 何をするつもりだ!?」
俺から体を取り戻したエルはバスタードソードを投げ捨てた。
「おりやぁぁぁ!」
エルは目前の岩の上で腕を組むローリーへ向けて猛然と駆けてゆく。
すると正面に陣取っていたタンクが火球を放った。
だが火球はエルをすり抜け、後ろで爆発した。
「遅い遅い、おっそーい! そんなへっぽこ弾になんて当たんないよーだ!」
タンクは繰り返し火球を放つが、エルを過るばかり。
火球の速度がエルの脚力に追い付いていなかったのだ。
すると空を旋回し、空飛ぶ鉱石ホークがエルの正面に現れた。
翼の下から火矢を切り離し、エルへ放つ。
「とぉー!」
しかしエルは火矢の到達よりも早く跳躍し、爆風を回避。
更にホークを踏み台にし、更に上へと飛んだ。
「なっ――!?」
高台のローリーは目を見開き、上を仰ぐ。
そこには足を突き出し、空を舞うエルの姿が。
エルの背中で魔力が爆発した。
「ひぃさぁつぅ! エルゥー、ストラァァァイクッ!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
魔力の爆発で勢いづいたエルの蹴りローリーを高台の上から突き落とした。
ローリーは高台の坂から何か"糸"のようなものを巻き込みながら、コロコロと落ちて行く。
「またつまらぬものを蹴ってしまった……ふふん!」
地面へ綺麗に降り立ったエルは誇らしげに薄い胸を張って、鼻を鳴らした
(しかしその程度蹴りではローリーを倒すことは……あれ?)
「ああ、もうむかつく、からみつく!」
高台から地面へ叩き落されたローリーは、まるで何かにがんじがらめにされたが如く、地面の上でもがいていたのだった。
「これは……?」
「ローリーさんあの高台から魔力の糸で、空飛ぶ”ビューン”ってのと、地面を”ゴゴゴッ”ってのを操ってたんです。だから糸の届かないもっと上から、思い切り蹴ってやりました!」
試しにローリーへ向けて【鑑定】を施してみる。
すると確かに彼女の腕から伸びた細い魔力の糸が全身に絡まっていた。
ローリーがもがくたびに、墜落したホークと、ひっくり返ったタンクが主と同じように地面の上でのたうち回っている。
(なるほど……ローリーは操り人形のように、魔力の糸でホークとタンクを操作していたのか。だから、高台を作り、その上に乗っていたのだな)
そして俺さえも把握できなかった真実を、エルはあの激しい戦闘の中、見抜いた。
素直に凄いと感心してしまうのだった。
「とーこーろーでぇーローリーさぁーん。さっきはよーくも怖い目に合わせてくれましたねぇ?」
エルはニタニタ笑いながら、地面でもがくローリーを見下ろす。
「ああ、もう何よ!、止めさすならさっさとやりなさいよ! ああもう、むかつく!」
いら立つローリーを見て、エルはエルフらしからぬ、魔物ような笑みを浮かべた。
「勿論です! ライムちゃん、やっておしまいなさい!」
「ぷりぷりん!」
「え、あ、ちょっと!? きゃっ!?」
エルの指示を受け、流体化しらライムが、ローリーの服の中へ流れ込んだ。
「あ、ちょっと、そんな、あっ! んんっ!」
顔を真っ赤に染めて、地面の上でローリーの小さな体がビクンと跳ねる。
流体化したライムは滑るように、ローリーの服の中を進んでゆく。
「ローリーさぁーん。さっきの元気はどこへいったんですかぁ?」
「そ、そこ、ダメ、んっ……エル、ちゃん、そこ!」
「こちょこちょこちょ~」
「あ、う、くっ! んんっ!」
エルもまたライムと一緒になって、ローリーの色んな所へ指先を這わせていた。
ただくすぐっている、筈なのだが、ローリーは何故かとても良い反応を示す。
必死に声をかみ殺すローリーだったが、意図せず濡れた唇から熱い吐息が漏れた。
健康的な太腿が、もの欲しそうに内側をしきりに擦り合わせている。
「ここの反応が良さそうですねぇ〜」
「だ、だめっ! そこだめっ……ひぁあんっ!」
ライムが中を滑り、エルが指を沿わせる度に、小柄なローリーはビクンビクンと跳ね上がり、顔が真っ赤に染まる。
「やめ、て、もう、そんな……こんな、みんながみてる中で、んっ!」
「じゃあローリーさーん、負けを認めて探索許可くれますかぁ?」
「あ、あげる、あげるから……」
「んー? 聞こえませんねぇ? ほら、もっと大きな声で、元気よく!」
「だから、ふぇ~……、許可あげる! 探索許可あげます! あっ! だ、だから、もう勘弁……あくっ、んんっ……ああーー!」
観衆の男性陣は鬼のローリーの意外な姿に息を荒げ、女性陣は顔を真っ赤に染めて手で口をふさぐ。
(くすぐっているだけなのにローリーは良い反応をするな。しかし見た目は幼子なローリーのこの様子、そこはかとなく見てはいけないものをみているような気がしてならん……むぅ……)
【戦闘結果:探索許可試験官1体の撃破。累計経験値:4,350/10,000】
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