第21話 死闘なのだが!?

「ひやあぁぁぁ!?」


 エルが飛んで避け、さっきまで彼女が立っていた地面が深く穿たれていた。

ローリーが血走った眼で睨み、口元を邪悪に歪ませる。


「うひ、それで良いわ」


「ひやぁっ!?」


 再び、ローリーがエルの目前へゴーレム槌を叩き落し、吹き飛ばす。

やはり当たっていない。



「機工(モード)、ペーパー!」


 ローリーがそう叫ぶと、グッと握られていたゴーレムの腕が扇子のように開いた。


「わわっ!?」


 ゴーレム槌が放つ旋風は、鎧を着ているエルでさえも、紙切れのように吹き飛ばす。


「続けて、シザーズ!」


「エル、身体を捻るんだ!」


 俺の指示に従い宙空でエルが体を捻ると、ゴーレム槌を突き出したローリーが脇をすり抜けてゆく。槌の先端が指を二本に伸ばした、槍のような形状に変化していたのだった。


「あら? 意外とやるじゃない……だったらやっぱりこれねぇ!機工(モード)、ストーン!」


 再びゴーレム槌の先端がグッと握られ、鈍重な槌となり、エルへ振り落とされる。


「ひぃっ!?」


 エルは怯えながらもゴーレム槌をバックステップでかわす。


(あのローリーの武器は厄介だな。槌であり、扇であり、槍でもある。なんでもありか。機工槌ジャンケン、恐るべし!)


「良いわ! 良いわよ! 逃げなさい! ほらほら!」


「ひ、ひー! しぬしぬしぬー! 鎧さん、鎧さん! 私じゃどうもできないですよー! ひぃー!」


 ローリーはゴーレム槌で地面を穿ちながらエルを追い回す。


 そうするローリーの目元は死んでいるが、口元は邪悪な笑みを形作っている。

おそらく、はなから当てる気は無く、怯えるエルの反応を楽しんでいるようだ。


(だったらチャンスは有るはずだ。だから耐えるんだ、根性で耐えるんだエル!)


「それそれそぉーれ!」


「ひーひー! 鎧さん、なんとかしてください! このままじゃ死んじゃいますよー!!」


 エルは泣き叫びながら助けを乞う。

しかし俺はただひたすら、ローリーの動きに着目し続けている。


 ローリーがゴーレム槌を振り上げ、落とす。

そのわずかな隙間の時間。

槌を叩き落したばかりのローリーの足が一瞬地面から離れている。


(ここだ!)


 俺は瞬間的にソウルリンクを発動させ、エルの体を支配した。


「シールドアタック!」


 左腕に括りつけた丸盾へ魔力を浴びせて強化し、ローリーへ向け放つ。


「ーーッ!!」


 ローリーはシールドの直撃を受け、ゴーレム槌を握ったまま、思い切り後ろへ吹っ飛んだ。


(やはりゴーレム槌を穿った瞬間、勢いで一瞬地面から脚が離れている。そこを突けば勝機はある!)


「ライム、バスタードソードだ!」


「ちゅるん」


 脇に控えていたシルバースライムのライムが、荷物の中からバスタードソードを投げ渡す。

片手でそれをキャッチした俺は、そのままローリーへ向け飛び出した。

だがローリーもすぐさま体勢を整え直す。


「シザーズ!」


「ふん!」


 ゴーレム鎚が槍形態となって鋭く突き出されるも、その攻撃をバスタードソードで弾き返す。

 ローリーはすぐさま矛先を引き、素早く横なぎを繰り出してくるが、それもまた想定ずみだった。



 槍の一撃は左腕の丸盾で受け流し、間髪入れずにバスタードソードを振り落す。

ローリーは慌てた様子で後ろへ飛び、俺から距離を置くのだった。


「へぇ、凄いじゃない! てか今戦ってるのエルじゃなくて鎧の方でしょ!」


「ほう、良くわかったな」


 俺はエルの口を借りて答える。


「あたりまえよ。100年前、あんたとは散々戦ったもの。剣筋を見れば分かるわよ。にしても、こんなの反則よ?」


 だがローリーの口調に怒りは感じられない。

明らかに楽しんでいる様子がうかがえる。


「悪いが反則も何も、こっちはさっさとお前から探索許可を貰わねばならんのでな。手段を選んでいる暇はない!」


「そう……分かったわ。そっちがそう来るなら、こっちにも考えがあるわ!」


 ローリーは【機工鎚ジャンケン】を思いきり持ち上げた。


彼女の全身から真っ赤な魔力が湧き出て、ゴーレム鎚に集まってゆく。


「フォースゲートオープン!」


 不思議な呪文と共に赤く燃えるゴーレム鎚で地面を穿つ。

沸き起こる激しい砂嵐。

その中から塔のような岩が隆起してくる。

頂上には腕を組み、俺とエルと睥睨するローリーの姿が。


「防衛軍(ディフェンスフォース)、発進(テイクオフ)!」


 塔の上のローリーが叫ぶ。


「これぞ私が生み出した”鍛造魔法 防衛軍(ディフェンスフォース)! さぁ、蹂躙してあげるわ!」


 砂煙から矢のように”ビュン”と何かが空気を引き裂きながら飛び出てくる。

それは鳥のように翼を持ち、矢のように空を駆ける鉱石だった。


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