第18話 迷宮中層探索許可試験を受験させたいのだが!?
火山の中に設けられた【迷宮内都市マグマライザ】
ここはマグマの熱と、迷宮の闇に支配された世界である。
しかし、生き物は総じて御天道様(おてんとうさま)の光が無ければ生きては行けない。更に昼夜という区切りが無ければ、リズムを崩し、体調不良に陥ってしまう。
そんな迷宮内都市が抱えている潜在的な問題を解決したのが、偉大な力と知恵をもった魔法使いーー賢者たちである。
賢者たちはなんと迷宮都市の周囲を空間ごと切り取り、無理やり外と繋げてしまったのだ。
よってマグマライザは迷宮の中ににあって、迷宮の中にあらず。
外界と変わらず空があり、お天道様が昇っては落ちるを繰り返し、迷宮としへ昼夜のリズムを与えていた。
最も、やはりマグマの発する熱を完全に防ぎ入れず、外界よりは遥かに暑い環境なのは言うまでもない。
「おはようございます、鎧さん!」
そんな賢者たちが無理やり持ち込んだ朝陽を一杯に浴びて、エルは背伸びをするのだった。
「おはよう」
「ライムちゃんもおはよ」
「ちゅるん」
エルに突かれてシルバースライムのライムも満足そうだった。
「うーん、気持ちいい朝! 今日も迷宮探索頑張りましょうね!」
口では元気そうな素振りをみせるエルだが、硬い板の上で、しかも鎧を着たまま寝たことにより、背中の筋肉がカチコチに固まってしまっている。
(やはりいかんな、これは。健康的にも……)
速やかに、できるだけ早くエルをこんな酷い生活から解放しなければ。
考えた末に至った結論。そこへ向かうため、俺は動き出す。
「エル、今後について一つ提案があるのだが」
「なんですか? 急に改まって?」
「今日は”迷宮中層への探索許可試験”を受けに行ってみないか?」
「えっ!? も、もうですか……!?」
エルが驚くのも無理はなかった。なにせこの子はつい先日、冒険者になったばかりの新人なのだから。
マグマライザの迷宮には大きく分けて三つの階層が存在する。
初心者から冒険者歴一年未満の者が探索を行う【高層】
初心者以上ベテラン未満、もっとも分母の数が多い冒険者が潜ることになる【中層】
そしてかつての俺のような、凄腕の冒険者が集う【深層】
以上の三つだ。
これは冒険者ギルドが独自に設定したもので、力不足の冒険者が身の丈に合わない階層へ潜るのを防ぐのを目的がある。
そして、たとえば今のエルのようにこれまで高層を探索していたものが、今後中層へ挑もうとした場合、冒険者ギルドが定期的に開催する"探索許可試験"を受験し、許可を取り付けつる必要がある。
「まだちょっと早くないですかね……?」
恐らく、冒険者生活を始めて、1ヶ月未満であろうエルが、俺の提案へ首を傾げるのは無理からぬことだろう。
「早くはない。これまでの君の戦いを見て、君にはその資格があると俺は考えている」
俺はキッパリとそう言い放つ。
提案した俺がいうのも妙かもしれないが、俺自身も多少は時期尚早であると思っている。
だが、悠長にそんなことをいっている場合ではないのだ。
(次に"許可試験"が実施されるのは3ヶ月も先の話だ。それまで、この子に鎧としてくっついたままでいるのは、よろしく無い……)
くっ付いている期間が長ければ長いほど、エルの危険性は増してしまう。
なるべく早くエルをレベル10にして、俺がこの子を解放すには、今日試験を受けて、パスし、さっさと中層へ向かってしまうことこそべストだと判断したのだった。
「経験値効率を考えた時、これがベストだと考えたんだ。それとも高層でまたミノタウロスと戦ったり、シルバースライムを狩りまくったりしたいか?」
「あー、それはちょっと、遠慮したいかな……」
「だろ? だったら早期に中層へ潜るのが最善だと思うんだ」
「うーん……」
「それに何かあっても俺がついているし、何とかする。安心しろ。許可試験を受からせるは元より、中層でも君のことは俺が責任を持って守る。必ず」
俺にも懸念はある。だがそこは俺はソウルリンクを使って何とかすればいい。
何よりも俺は早くエルを俺から自由の身にしたい。その一心だった。
「鎧さんがそこまで言ってくれるなら……わかりました、受けます!」
長耳がピンと張り詰めた。同意してくれたらしい。
決まったならば全は急げ。
エルは手早く荷物をまとめると、宿屋を飛び出したのだった。
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