第6話 剣士と名乗る割には、全くダメダメなのだが……
「とおーりゃぁー!」
「GYO!」
勢い任せにエルのバスタードソードは一撃の下にゴブリンを切り伏せ、戦利品の魔石へと変えた。
バスタードソードは重さやその鋭さも相まって、攻撃力には事欠かない。
当たればゴブリンなど、確かに一撃必殺。
そんなものを振り回せる位の腕力はエルにあるようだった。
「そおーれぇー!」
しかしエルの斬撃は三回に一回、当たるかどうかだった。
いや、斬撃というにはほど遠く、
(これは……ただ振り回してるだけでは?)
リーチが長い分、振り回しているだけでも十分、最弱のゴブリンにとっては脅威となっているし、事実相手は近づけないでいる。
「とりゃー! それー!」
しかしゴブリンにとって身軽さが数少ない取り柄の一つ。
エルの大ぶりな剣の軌道をかわし、一匹のゴブリンがエルの脇へ回り込む。
「危ない!」
咄嗟に俺は左腕のみソウルリンクを施し、掲げた。
ゴブリンの粗末な短剣とガントレットの間に火花が散る。
「うわっ!?」
するとエルは怯んで足をもつれさせた。
俺は再度ソウルリンクを施し、身体の支配権を得ると、ゴブリンを一刀の下切り伏せる。
「しっかりしろ、敵は未だ残っているぞ!」
「は、はい! とぉーりゃー!」
間合いも何も関係なく、エルは再びバスタードソードを振り回しながら突出した。
「GYO!?」
幸いゴブリンが油断していたためか、エルの一撃は残り3体のゴブリンをまとめて切り裂き、倒す。
これにてゴブリンは全滅。
【戦闘結果:ゴブリン討伐数:8 獲得経験値:40/10,000】
戦績だけを見れば至極十分な結果だった。
「たはー、疲れたぁー!」
エルはバスタードソードを地面へ突き刺して杖にすると、ヘナヘナと地面へ座り込んでしまった。
どうやらこれが彼女の限界のようだった。
今回は結果として戦績は良好だった。
しかしその過程にあまりにも問題が多すぎる。
(参ったな。この調子で経験値10,000を集めるのか? 一体何年かかるんだ?)
頭は無いが、頭が痛い気がした。
どうやら力はあるが、それの生かし方をエルは知らないらしい。
恐らく誰にも教わることなく、我流でここまでやってきたのだろう。
と、エルの能力は十分把握できた。あとはもう一つ気になることがある。
「エル、少し良いか?」
「はぁ、はぁ、な、なんですか?」
息も絶え絶えなエルが応える。
少し可哀そうだが、今は状況把握が最優先。
「君はその……明らかに冒険者初心者だと思うだが、何故上級者向けのバスタードソードなど使っているのだ?」
俺は努めて慎重に聞く。
こうした分相応の武器を持つものは得てして、特別な事情を抱えていることが多い。
例えばこの武器は「家宝」だからとか、「先祖代々一族はこの武器を使っている」とか、「天啓が下って、この武器を使うよう指示された」とか。
そうした本人の意思を無視した事情がままあるからだった。
「それは……」
「それは?」
「大きくて、逞しくて、カッコよかったからです!」
「ああ、そうか、大きくて、逞しくてカッコ……なん、だと……!?」
思わず無い筈の我が耳を疑う。
「街で一目見た瞬間からこの子の虜になっちゃいまして!」
「その、なんだ、金はどうした? これ程の業物ならかなりの額をしただろ?」
「はい、とっても高かったです! だから持って来たお金全部使っちゃいました。まっ、この子を手に入れるためでしたら安い買い物でしたよ」
あっけらかんと答えるエルに、口が無い俺でも開いた口が塞がらなかった。
「でもやっぱりお金に困って、変な冒険者についてってあんなことになっちゃいましたけどね」
あんなこととは恐らく、この間卑劣な冒険者連中に半ば強姦されかけたことのことだろう。
大方“金になる良い狩場がある“とか”手っ取り早く金を手にする方法がある”とか唆されたのだろうと想像する。
田舎から出てきた初心者をそうして騙す卑劣な連中の話は枚挙に暇がない。
「今度から気を付けるんだぞ? うまい話には必ず裏があるものだ」
同じ過ちを繰り返さないよう、俺は少し声を低くし、声に真剣みを込めてエルに言い聞かせた。
「はい、わかってます。だから鎧さんには感謝してるんです。もしあの時鎧さんが来てくれなかった今頃私……」
「もう良い、分かった。この話は終わりにしよう」
「そですね」
「少し休んでいろ。疲れてるんだろ?」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、そうさせて貰いますね」
エルは迷宮の岩壁へ背中を預けて、じっくりと休憩へ入る。
その間に俺はエルから、彼女のステータスへと意識を移した。
(剣の威力を引き出す攻撃力は十分。素早さもエルフらしく今の段階でも十分な程ある。だが、今の戦い方は、エルに合ってはいない。今は何とか切り抜けているが、このままではいずれ取り返しのつかない事態を招きかねない)
エルの特性を生かす迷宮での振る舞い方を模索すべく、彼女が休んでいる間に、衣類を除く、道具を一通り見させてもらうことにした。
初心者らしく、縄に火種、最低限の治療薬、腰にはサブウェポンのダガーも装備していた。
緩そうな性格をしているが、案外基本はきちんと押さえる真面目な子のようだ。
一通り確認を終えた俺は、彼女の持ち物、特性などを総合して今後の方針を固めだす。
(剣の扱いはアレだが、勇敢にゴブリンへ切り込んでいった勢いは良し。度胸は有るのだろう。エルフらしく素早さも高い。だった答えは……)
そしてエルが迷宮で生き残るための一つの答えに行き着いた。
俺はエルの体力が回復するのをじっと待つ。
「お待たせしました。もう大丈夫です!」
やがて体力が回復したエルが立ち上がる。
視界に移るステータス上のスタミナも問題ないことを示している。
「よし、移動しよう」
「はーい」
そして再び俺とエルは迷宮を進んでゆくのだった。
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