第30話 再戦! サイクロプス!

(熱線か!)


 横へ飛び退き、真っ赤な熱線を回避。

しかし頭上から別の感覚を感じた。

 エルの膝に力が籠る。俺は彼女に合わせて、膝を曲げ、そして飛んだ。


 地面がサイクロプスが手にする岩の棍棒で砕けた。

だが飛び上がったエルは既に振り落とされた棍棒の上へ降り立つ。

そして再び跳躍。


「GOAAA!」


 サイクロプスは忌々しそうに棍棒を横に薙ぐ。

だが、そこに既にエルの姿は無し。

棍棒が激しく迷宮の壁を叩き、その振動は一瞬サイクロプスの動きを止める。

その隙にエルと俺は奴の背後へ回った。


「ヒットッ!」


 肩口へ添えたサ―ベルの刃が、落下と背中での魔力の爆発で、激しくサイクロプスの背中を切り付ける。


「アウェイ!」


 エルは深追いせず岩のようなサイクロプスの背中を蹴って飛び、距離を置く。

サイクロプスは素早く踵を返し、真っ赤に燃える巨眼を着地したエルへ向けた。

 巨眼の輝きが限界を迎え、赤い熱線が放たれる。

しかも一発ではなく、細かなものが、横殴りの雨のように無数。


「GOROAAAAAA!」


 熱線の乱射は石室の壁を、地面を赤く溶かす。

 エルは正確に熱線の照射位置を特定し、俺が彼女に合わせて回避行動を取る。

降りしきる無数の熱線。

しかしエルと俺は確実に避け続ける。


(だが、このままでは攻撃に転じられない。ここはどうするべきか!?)


「ぢゅるんっ!」


「GOA!?」


 すると傍にいたライムがサイクロプスへドッカンを放った。

不意を突かれたサイクロプスは熱線放射を止め、前のめりに倒れ込む。

そんなサイクロプスの目の前へ、赤い影が現われた。


「そおぉれっ!」


 ローリーがゴーレム槌でサイクロプスの頭部を殴打した。

彼女よりも遥かに巨大なサイクロプスが仰け反る。


「エル、バスタードソードだ!」


「はい、鎧さん!」


エルはサーベルを腰の鞘に収め、スマジを取り出した。

そしてアイテム呼び出しによって、サーベルと、バスタードソードを入れ替える。


「たぁぁぁーッ!」


 バスタードソードを手にしたエルは思い切り地面を蹴って走り出す。

同じ考えだった俺もエルに合わせて、走る。

重なったエルと俺の力は、速度を更に強め、一気にサイクロプスへ突き進む。


「鎧さん!」


「応ッ!」


「(エルッ! クラッシュッ!!)」


 横一閃。

 長大な刀身がサイクロプスの腰を鋭く過った。


「GOOOOO……!」


「またつまらぬモンスターを切ってしまった……なんてねっ!」


 我々が静かに背後に着地すると、サイクロプスの上半身と下半身が僅かにずれる。

そして巨体は一瞬で結晶化し、魔石となって砕け散るのだった。



【戦闘結果:サイクロプス1体の撃破。累計経験値:7,500/10,000】

レベル9にアップ!



(いよいよレベル9か! 10まであと少し!!)


「ちゅるん、ちゅるん!」


「ライムちゃーん!」


 しかしエルは戦闘結果などそっちのけ。

向かってきたシルバースライムのライムをぎゅっと抱きしめ、綺麗な涙を流していた。


「ごめんね、ライムちゃん、一人にしてごめんね。 この間は助けてくれてありがとうね」


「ちゅるん!」


「また一緒に居てくれる?」


「ちゅるんちゅるん!」


「あっ……! も、もう、ライムちゃん、いきなり、そん……んぁ!」


 喜びなのか何なのか、ライムはいつものように俺とエルの間に液体化して流れ込み、彼女の肌の上をするりと滑り続ける。


「はぁ、はぁ……ライム、ちゃん、そこ……んっ!」


「も、もう、いきなりそんなの見せないでよ! ……はぁ……」


 何故かローリーは顔を真っ赤に染めて、モジモジしながら悶えているエルから視線を外すのだった。


(いつまで経ってもこれにはなかなか慣れんな……)


 いつも光景が戻り、俺は安堵を覚える。

そんな中、にわかにエルの背中が震えた。

その感覚は俺へ流れ込み、嫌な予感を沸かせる。


「エル、ライム! 感動の再会の続きは後だ! 何かが来るぞ!」


「た、助けてぇぇぇー!」


 迷宮の奥から男の悲鳴が聞こえた。

闇の中に浮かぶ純白の法衣が激しく揺れ、錫杖がジャラジャラと金音を鳴らす。

どこかで見たことのある細面の男が必死な形相でこちらへ向かってくる。


(あの男は、以前エルを襲おうとしていた冒険者一派の神官……確かプリスとかいう男だったか?)


 そんな奴の背後の迷宮が掘削され、激しい砂煙が舞っていてる。


「GUOOOOOO!」


 激しい咆哮が迷宮へ響き、エルもローリーも、ライムさえも慌てて視線を飛ばす。

必死に逃げ惑う男神官の後ろ。

 そこには迷宮の壁を巨体で無理やり掘削しながら迫る、黄土色をした腐った竜の姿があった。


(あれは……まさか魔竜ロムソ!? まだ生きていたのか!?)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る