第24話 初中層でオークと遭遇したのだが!?
「二日酔いは大丈夫か?」
「はい! ライムちゃんのおかげです」
「ちゅるん」
ライムにすっかり二日酔いの毒気を抜いてもらったエルは迷宮の入り口に来ていた。
岩肌にはめ込まれた茶褐色の扉。
迷宮の入り口で、低層への入り口でもある。
「さぁ、いよいよ今日から中層だ。低層では出会えない強敵が無数に存在する。気を引き締めるように」
「はい!」
エルは元気な返事を返して、手のひらサイズの石板のようなもの【スマジ】を取り出す。
表面へ指を滑らせ、昨日試験だったろローリーが”
途端、スマジから銀の輝きが迸り、エルの足元へ魔方陣を出現させた。
それは素早くエルを飲み込み、姿を消す。
そしてエルは瞬時に岩肌にはめられた巨大な”銀色の二枚扉”の前位に転移していた。
(かつては羊皮紙の巻物を一本消費して”階層跳躍”を行っていたが、今はスマジ一つでできるとは。便利な世の中になったものだ……)
100年の時の流れで世界はとても便利になった。この先、どのような驚くべき技術が開発されるのか。想像すると期待と不安が入り混じる複雑な心境の俺だった。
「さぁ、行こうかエル」
「はい、鎧さん!」
エルは迷うことなく迷宮中層の扉を開いて、踏み込む。
低層よりも暗く、積み上げられたレンガのような壁面が迷宮中層の特徴だった。
「少し寒いですね……」
エルは白い息を吐き、鳥肌を浮かべながら、それでも怯えることなく回廊を進む。
「安心しろ、すぐに温ま……そら、
「GURORO……」
回廊を抜けた石室に、真っ赤な輝きが二つ見える。仄かな闇の中にでっぷりとした巨漢然とした陰影が浮かぶ。
武器には棍棒を持ち、ゴブリンよりも体躯が大きい中層で最もメジャーなモンスター:オークであった。
特にオークは鼻が利き、女に目が無い。
油断してオークの群れに敗れた女性冒険者が、再起不能にまで追い詰められた話はまま聞いている。
「エル、敵は雑魚だろうと油断するな。基本は低層と一緒。如何に”ここで生き残るか”だ」
「はい!
「GUROOO!」
エルに気付いた涎をまき散らし、棍棒を振り上げ、迫る。しかし既に予見していたエルは後ろへ飛び退いて避ける。勢い余ったオークは棍棒を振り落とし、僅かに硬直。
「ヒット!」
「GO!?」
エルはすかさずダガーでオークの肩を突き、
「アウェイ!」
深追いせず、ダガーを抜き後退い。
忌々しそうに視線を移すオークから横へ飛び、視界から逃げた。
「それっ!」
今度は背中を狙ってのヒット&アウェイ。
あわや横に薙がれた棍棒がエルの目前を過り、辛くも直撃を免れる。
エルは繰り返し、オークの死角へ潜り込み、ヒット&アウェイを繰り返す。
力はあれど素早さに乏しいオークの棍棒は空ぶるばかり。
(ヒット&アウェイは完全に理解しているな。そろそろあっちの使い方も教える頃合いか)
「GO!」
ようやく一体オークが仕留められ、魔石に変わった。
「ふぅー……なかなか倒れませんでしたね。流石は中層のオーク……」
エルは額にうっすらと汗を浮かべ、小刻みに白い息を吐きながら、ダガーを腰の鞘へ納める。
攻撃力の低いダガ―で何度も刺突をしたのだから無理はない。
「だったら武器を変えてみよう。ライム!」
「ちゅるん」
「あ、ちょっとライムちゃん!?」
ライムは触手を伸ばし、エルのポケットからスマジを抜き取る。
そして俺が事前に
「わわ! 長くて太い~!」
エルは転送によって、手に収まった“やや刃に反りのある、立派な護拳のついた剣”をみてご満悦な様子だった。
「この剣は“サーベル”だ」
「サーベルっ! 聞いたことありますっ! この刃の独特の反りって、この剣を“切断に特化”させるためのものなんですよね?」
「うむ! よく勉強しているな! 偉いぞ!」
「金属のことでしたらなんでも! はわぁ~ピカピカすべすべぇ~」
と、褒めた途端、サーベルへ頬ずりをしだすエル。
いつか、エルフの特徴である長耳を刃で切ってしまわないか、とても不安である。
「ちなみにこのサーベルは昨晩、合格祝いとしてローリーが送ってくれたものだ。彼女の贋作で、Rエディションという、ヤタハ鍛造所の中でも最高位の製品らしい」
「えー……そこはローリーさんの真作が良かったなぁ……」
「そこはローリーも君の実力を分かったうえで、敢えてそうしたのだろう。ならば、彼女から真作武器を送ってもらえるような、立派な冒険者となるのだな」
「そっか……そうですよね! よぉし! いつかローリーさんから、最っ高の真作武器を貰えるよう頑張るぞぉ!!」
やっぱりエルはローリー同様に、気持ちのいい性格をしている娘だと思った瞬間だった。
同時に実は物凄い名工であるローリーから“武器をただで貰おう”と考えるところは玉に瑕だが……。
「サーベルって意外と重いんですね。でもバスタードソードよりは遥かに軽いかも?」
エルはサーベルを片手で振り回して、重さを確かめていた。
「エル、何故オークがなかなか倒れなかったか分かるか?」
「えっと、ダガーの威力が低いから、ダメージが少なくて手間がかかった、ですか?」
「その通りだ。流石に中層では刺突一本で行くのは戦いの長期化に繋がり危険だ。よって、これより君に合ったサーベルを用いた、攻撃方法を伝授することとする!」
「わわ!? それマジですか!? ちまちま刺すんじゃなくって、ズバッと切るような!?」
「ああ、そうだ! いよいよ剣士らしい戦いたができるようになるぞ!」
「いやったぁ! 嬉しいです! ぜひぜひよろしくお願いします!」
「うむ! 元気のある良い返事だ! では少し体を借りるぞ」
ソウルリンクを発動させ、俺はエルから体を借り受ける。
俺はエルの腰へサーベルを装着し、久々に迷宮中層の冷たい空気に胸を躍らせながら、回廊を進んでいった。
【探索(サーチ)】で複数のオークが存在するエリアを探った。
暫く歩けば数体のオークがうろつく石室にたどり着く。
俺は護拳が立派な、サーベルを腰の鞘から抜いた。
「手本を示す。しかし基本はヒット&アウェイだ!」
俺は地を蹴り、一体のオークへ最接近。
奴が気づくが遅い。
「まずは護拳で殴る!」
「GO!?」
素早く護拳をオークの顔へ叩きこみ、怯ませる。その隙に、オークの肩口へ刃を押し当てた。
「そして一気に切り裂く!」
「GUROROR!」
肩から腹まで盛大に切り裂かれたオークが、刺突では想像できないほどの悲鳴を上げた。
だが深追いせず、後退し、距離を置いた。
「す、すっごい……護拳で殴るだなんて……」
「君は拳闘も得意だろ? 君に得意なことと、やりたいことを織り交ぜてみたのだ」
「鎧さん……そこまで私のことを考えて……!」
「闇雲に剣を振り回して空ぶるよりも、相手を怯ませ、刃を当てて確実に剣で添え切り伏せる。後に必ず後退。こんな感じだ」
「なるほど! 基本はヒット&アウェイなんですね!」
「その通りだ。さぁ、やってみよう。今のエルならできるはずだ!」
「了解ですっ!」
エルへ体を返す。
「GOGOOO!」
途端、切り伏せられ怒り狂ったオークがよたよたと迫ってきていた。
エルの体にいい具合に力が入る。
まずは横に飛んで、突進を仕掛けるオークの死角へ潜り込んだ。
再度つま先に力を籠め、最接近。
「エルゥーぱぁーんち!」
「GO!?」
エルが放った護拳がオークの頬を直撃し、怯ませる。
というか、怯むというよりオークは拳の一撃でほぼ戦闘不能状態に陥ったのだが……そこは伏せておくとしよう
「エルゥースラッシュっ!」
「GO!!」
サーベルの刃がオークを鮮やかに切り伏せる。
オークの身体がすぐさま結晶化し、撃破の証である魔石へ変わったのだった。
「うー……」
エルは何故かサーベルの柄をぐっと握りしめて、カタカタと肩を震わせていた。
「エル?」
「うー……やったぁ! なにこれ、凄いんですけど!? なんかようやく剣士って感じ!? わーい、わーい!」
「「「GOOOOO!!!」」」
はしゃぐエルへ仲間をやられて怒ったオークが棍棒を振り上げながら、ドカドカと迫ってきていた。
「はしゃぐのは後だ! 集中しろ!」
「は、はい! すみません……」
「行け、エル!」
「はい、鎧さん!」
エルはオークへ向けて飛んだ。
「もっとだ! もっと護拳を強く、素早く叩き込みオークを怯ませるんだ!」
「は、はい!」
「まだだ! そんなので良いと思っているのか! はい、もう一回!」
「それっ!」
「まだまだまだまだぁっ! 迷宮で死にたいのか、君は!」
「し、死にたくないです!」
「だったらもっと強く叩き込め! 素早く、正確に!」
「はい! ライジングエルぅーすまっしゅ!」
エルに流れる汗と、体温の上昇。
それは体の感覚が無い俺に、熱い思いを滾らせる。
「エルゥームーンライトざぁーん!」
「浅いぞ! それでは刺突と変わらん! 無駄だだ!」
「すみません!」
「もっと力強く、正確に! 大丈夫、今の君ならできる!」
「はい! やります!」
以前のエルでは”つべこべ”言って、すぐに弱音を吐いていただろう。
しかし今のエルは真摯に俺の言葉へ耳を傾け、真摯に取り組んでくれていた。
まぁ、調子に乗って、攻撃をするたび、毎度変わる妙な技名を叫ぶのはどうかと思うが……
「豪熱! エルぱぁぁぁぁんち!……あーんど、エルスラッシュタイフーンっ!」
「良いぞ、良い感じだ! 素晴らしいだ! その調子でもう一本!」
「はい、鎧さん!」
(エルはかなりセンスが良い。きっとこの子なら偉大な冒険者になれる。だからこそ俺はさっさとこの子の下から離れねば。この子の未来のためにも)
【戦闘結果:オーク10体の撃破。累計経験値:4,850/10,000】
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