第2話 危機に陥る美少女エルフの剣士を見つけてしまったのだが!?
「な、なんで、こんなことするの!? 何する気なの!?」
彼女は稲穂のように金色に輝くショートボブの頭を振り乱しながら、男性冒険者たちへ必死に訴えかけている。
その種族の特徴である長い耳は恐怖のためかプルプルと震えていた。
この子の種族は"エルフ"とみて間違いない。
「何って、わかってるんだろ? ひひっ!」
若い男の冒険者は、いやらし声音でそう答え、剣を抜いた。
「ひっ!」
冒険者の剣が、エルフの装備していた革の鎧のバンドを断ち切る。
鎧が落ち、彼女の薄い胸を覆う、質素な布の下着が露わとなった。
恐らくはじめて受けただろう辱めに、エルフの少女は顔を真っ赤に染めて、透き通るような白肌の頬へ涙の軌跡を刻む。
そんな彼女を三人の若い男は呼吸を荒げながら見下ろしていた。
「じゃあ、次は下いっちゃう?」
剣士の隣で軽口を叩いたのは斥候。奴はリングダガーを指にかけて、ヒュンヒュン回しながら、彼女へ歩み寄る。
「い、いや! 来ないで!」
「おっと!」
僅かに動いたエルフのつま先が、斥候を蹴り飛ばしそうになった。
「おい、プリス、術よえーぞ」
「あ、そ、そう?」
最後に確認できたのは白い法衣を着て、苦笑いを浮かべているもやしのように細い神官の男。
「なぁ、プリスよぉ。後でお前にもうんと良い想いさせてやっから頼むよ」
「あ、うん……分かった」
彼は祝詞を読み上げ、金の錫杖から神の与えた奇跡を発し、いたいけなエルフの少女から更に自由を奪う。
「あっ! ううっ……」
剣士の剣と斥候のリングダガーが、今度は腰の鎧のバンドを切り裂く。
「なんだよ、下はショーパンかよ」
「俺は結構好きだぜ? 吐いたまんまでぶちこむ方が締りが良くなりそうじゃん?」
「ああ、確かに! ギュッと締め付けてきそうだな。俺、持つかな? へへっ」
「なぁ、プリス、お前はどう思う?」
斥候に聞かれた神官の男は「俺は、良く分かんないな……」と消え入りそうな声で答え、悪辣な二人組はつまらなさそうにエルフへ向き直る。
「うっ、うっ、ひっく……お父さん、お母さん、ルーフ……」
エルフは顔をぐしゃぐしゃにして、涙をこぼす。
そんな彼女の顔を、剣士は無理やり顎を掴んで、向かせた。
「まぁ、君も我々にホイホイついてきたのが運の尽きだったな。世の中、良い人ばっかじゃないって、これで思い知っただろ?」
「うっ、ひっく……」
「さぁて、田舎もんへの社会勉強の仕上げは、実技指導っと!」
「ッ!」
剣士の男はズボンへ手をかける。
――この瞬間を待っていたのだ俺は! この変態鬼畜冒険者がもっとも油断するこの時を!
決して、ちょっとアレなシーンだからと、ギリギリまでのぞいていたわけではないぞ!
「FUGAAAAA!!!」
「うごっ!?」
俺は声なき声を叫びつつ飛び出し、剣士へ激しくタックルを喰らわせる。
奴はお尻を丸出しにしたまま、盛大に前のめりに倒れ込むのだった。
(俺は今や身体はモンスターかもしれない……しかし、いたいけな少女を傷つける卑劣な輩を見過ごすほど、俺の心はモンスターになってはいない!)
「FGAAAAA!」
「リ、リビングアーマーだと!? うがっ――!?」
俺は素手で斥候を殴り飛ばした。
たとえ以前の三分の一能力とはいえ、くそガキどもに屈することはない!
「こ、この! いい時に邪魔しやがってぇぇぇぇっ!」
「FGA!?」
ズボンを戻した剣士に背中から切り付けられた。
痛みは感じないものの、衝撃によって怯みが生じる。
「プリス! いまだ、やれぇ!」
「あ、う、うん!」
気が付くと、ずっと剣士と斥候の後ろに隠れ潜んでいた神官の錫杖が淡い輝きを宿していた。
「慈悲深き天に住まいし神よ、我に魔を縛る力を与えたもう……
「FGA!!!」
刹那、一瞬で視界が真っ白に染まった。
腕が、足が、関節が、急にさび付いたかのようの動かなくなる。
変態行為に加担しておきながら、この"プリス"とかいう神官は、相当な神聖術の使い手のようだ。
「そら!」
「おらっ!」
剣士と斥候がそれぞれの武器で切り付けて来た。
鎧に火花が散り、全身へ激しい衝撃が走る。
だが反撃をしようにも、神官のかけた神聖の力の影響で自由に手足が動かせない。
それに動けない理由はもう一つ。
「……!」
俺の後ろではあられもない姿のエルフの少女が地面へぺたりと座って俺のことを見上げていた。どうやら神官の力の矛先が俺に移ったことにより、彼女の拘束が解けたらしい。
「FUGAAAAA!!!」
俺はもはやリビングアーマー。言葉でのコミュニケーションは取れない。
それでもエルフの少女へ"今のうちに逃げろ!"と叫び続ける。
「FGA! FGA!! FGA!」
「――ッ!」
ようやく俺の意図に気付いたのか、エルフの少女が立ち上がる。
瞬間、俺の体がバラバラに砕けた。
脇には剣士のロングソードと、斥候のリングダガーの影。
どうやら、俺は変態剣士と斥候に倒されてしまったらしい。
(糞、こんなところで、俺は……!)
俺はただの鉄くずへ変わり果てた。だが、まだ意識は残されていた。
「さぁて、邪魔者は居なくなったな、へへ」
「そいじゃお愉しみの続きと行こうぜ、エルフちゃん?」
薄れ行く意識の中、剣士と斥候のいやらしい声が聞こえる。
俺はそんな奴らを激しく憎悪した。
後悔、憎しみ、怒り、あらゆる負の感情が俺の中で渦を巻く。
すると、突然薄れ始めていた意識が明瞭さを取り戻す。
(こっちへ来い!)
声は届かない。しかし俺はエルフの少女へ向けて叫んでいた。
(俺を手に取れ!)
俺は叫び続ける。
(俺を使うんだ!)
声が届くはずはない。聞こえるはずもない。
――しかし!
「ッ! わぁぁぁぁ――――っ!」
突然、エルフの少女が飛んだ。
目前の剣士と斥候を突き飛ばし、まっすぐと手を伸ばす。
そして彼女の細い指先が俺に触れた。
瞬間、俺から黒い輝きが噴き出す。それは風となり、渦を巻いて、ただの鉄くずとなった俺を攫い、風の中へ飛ばす。
俺は彼女の細い腕と共になった。
胸、肩、腰、脛、つま先、彼女のあらゆるところへ俺は吸い付き、再び形を成す。
――肉体とのリンクを確認――
視界に浮かんだ頼もしい文字。
(【ソウルリンク!】)
本能のまま、俺は貞操を守って獲得した偉大な力の名前を叫ぶ。
そして俺は久方ぶりに、肉体の重みを感じていた。
「な、なんだ、何が……?」
剣士は唖然と俺を見つめ、
「リビングアーマーが、エルフの身体に!? なんだこれ……!?」
斥候も状況が理解できていないのか目を点にしている。
そんな卑劣漢二人の様子がおかしくて、笑みを浮かべた。
いや正しくは”彼女の口元”が笑みを浮かべた。
「よくもやってくれたな、礼はたっぷりさせてもらう。覚悟するんだな」
エルフの少女に吸着した俺は、彼女の声を借りて、彼らへそう宣言したのだった。
エルフの少女、といった肉体を得たことで、俺が持つ力【ソウルリンク】が発動した。
これは装備と肉体を魔力によって限りなく同化させ、能力を強化するユニークスキルである!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます