第33話 迷宮内都市マグマライザの危機
偉大な賢者たちが迷宮内都市マグマライザへ魔法によって強引に持ち込んだ空は、発生器の役割を果たしている城壁の一部が破壊され消え失せていた。都市のいたるところに設置されていた
そんな迷宮都市を、迷宮深層から現れた”首のない魔竜ロムソの身体”が我が物顔で闊歩していた。
「GUOOO!」
エルに切り落とされた首は、身体から分離して自在に宙を駆け、強靭な顎は建物を次々とかみ砕き、アリの子のように散る、マグマライザの住民を飲み込んでいる。
「KYUOOOO!」
更に厄介なのが、ロムソが無尽蔵に生成する小型竜の存在だった。
逃げ惑う人々に小型竜が飛来し、骨ばかりの顎で噛みつき、魔力を吸収する。
それは全てロムソの頭部と胴体へ流れ込んで、奴へ無尽蔵の力を与えていた。
「ひ、酷い……」
炎に巻かれ、逃げ惑う人々を見て、マグマライザへ帰還したエルが茫然と立ち尽くす。
「あんた自分が何をしでかしたか分かってるの!?」
ローリーは怒りの形相で、一緒についてきた神官の男の胸倉を掴む。
「お、俺じゃない! パーティーメンバーが、あの魔竜の死骸に火を! 俺さえきちんと見ていれば、こんなことには……!」
「あんた、今更言い訳を!」
平手打ちを繰り出そうとしたローリーの腕を、エルがそっと掴んだ。
「ローリーさん、止めましょう。今はそれどころじゃないです」
エルの真剣な声に、ローリーはフンと鼻を鳴らして、神官を投げ捨てた。
「そうね、エルちゃんの云う通りね。今は、ロムソを!」
「はい!」
エルとローリーはそれぞれの武器を手に、迷わず崩壊の一途を辿る迷宮内都市へ駆け出してゆく。
「ひ、ひぃー!」
「たぁーっ!」
エルはバスタードソードを振り、住民へ群がっていた小型竜を切り伏せる。
「早く逃げてください!」
住民は礼をいうのも忘れて、慌てて走り出す。
しかしエルは気にも留めず、どんどん先へ進み、住民へ群がる小型竜を倒し続ける。
だが、その剣筋は精彩を欠いていた。
(やはり体力が回復しきっていないかのか)
俺は少しでもエルの助けになればと、彼女の動きに合わせてバスタードソードを振る。
魔力が減っている分、ソウルリンクの精度はやはり落ちてしまう。
思うように動かない体にいら立ちながらも、それでもエルと俺は懸命に、そして確実に小型竜の撃退を続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ……――ッ!?」
呼吸を整えていたエルへ小型竜が迫る。
急いで剣を構えようとするが、間に合わない。
「ちゅるん!」
その時、エルの目の前へライムが飛び出し、ドッカンで敵を迎撃してくれるのだった。
「あんたも手伝いなさい! あんたの仲間のせいだとしても、あんたにも責任があるのよ!」
「は、はぃ!」
後ろでゴーレム槌を振り回していたローリーに叱咤され、身体を震わせているだけだった神官の男が錫杖を掲げた。
「じ、慈悲深き天に住まいし神よ、我に魔を縛る力を与えたもう……緊縛(ホールド)!」
神官の祈りが天へ通じ、光り輝く糸となって錫杖からあふれ出た。
それは飛来する小型竜を全て拘束し、動きを止める。
「そりゃぁぁぁー!」
飛び上がったローリーは、ゴーレム槌をスイングし、小型竜を次々と打ちのめしてゆく。
「エルちゃん、ここはあたしたちに任せて! 貴方はロムソを!」
「お願いします!」
エルと俺はその場をローリーとライムへ任せて、飛んだ。
住居の屋根を駆け、飛び移り、襲来する小型竜を切り伏せながら、ロムソとの距離を詰めて行く。
ロムソは魔力を求め、この街で最も高い魔力を持つ、ヤタハ鍛造所へ迫っていた。
「行くぞ、エル!」
「はい、鎧さん!」
エルと俺は膝へ力を込め、更に背中で魔力を爆発させて、一気にロムソへ接近した。
「とりゃぁぁぁ!」
バスタードソードでロムソの身体を切り付ける。
しかしその度に奴の首の中に引っかかる俺の
輝く鉄兜は魔力を放出し、瞬時にロムソに付けた傷を再生させる。
「GUOOO!」
遂にロムソの前足がヤタハ鍛造所の壁を突き崩した。
立派な煙突が倒れ、施設が砂の城のように瓦解を始める。
あふれ出る魔力は全て飛来したロムソの頭部が口から吸収し、奴の赤い双眸に更なる輝きを齎していた。
「クソッ、アイツ鍛造所を!」
合流してきたローリーが悔しそうに顔を歪ませていた。
(なにかロムソを止める手段は!?)
無我夢中で俺はロムソへ向けて【
【
*魔力中心点を感知。対象:
――どうやら対処方法はこれ以外なさそうである。
「エル、奴の首の中にある俺の
「鎧さんの鉄兜があいつの中に!?」」
「そうだ。どうやらアレが奴に再生能力を与えているようだ。ならばアレを取り除いてしまえば勝てる筈! というか、俺はその方法以外思いつかん!」
「そうですね。私も何も浮かばないんで、そうしましょうか!」
「ちゅるん!」
と、その時、エルの肩に乗っていたライムが地面へ飛び降りた。
何度も飛び跳ねて、我々へ何かを必死に訴えかけている。
「もしかしてライムちゃん、また囮役を!?」
「ちゅるるん!」
「で、でもぉ……」
俺も俺とて、サイクロプスとの一件があり、ライムへ囮役をお願いしたい気持ちはあるが、戸惑ってしまう。
「大丈夫よ、今回はあたしがついてるから、絶対に危険な目には合わせないわ! 一応、こいつにも頑張ってもらうしね!」
「は、はいぃ! 頑張りますです!」
ローリーとプリスの言葉を受け、俺とエルは決断した。
「ライムちゃん! じゃあロムソの注意をひいてね!」
「ちゅるん!」
「ローリーさんと神官君は小型竜をお願いします! その間に鎧さんと私で、鎧さんの鉄兜を回収してアイツを倒します!」
「わ、わかりました!」
神官の男は勢いよく返事をし、
「きっちりやるのよ! エルちゃんならできる! 必ず!」
「はい! ローリーさん! じゃあ、みんな、行きますよ! 作戦スタァート!」
「ちゅるぅぅぅーーーん!」
そしてライムが誘因の輝きを放ちながら先行した。
「GUO……?」
ライムの気配に気づいたロムソが鍛造所から首を上げ、巨体を向けて来る。
同時に無数の小型竜が飛来してくるのがみえた。
だが小型竜は地上から発射された砲撃で次々と撃ち落とされてゆく。
「いきなさい、ホーク、タンク! 全て撃ち落とすのよ!」
ローリーの指示を受けて翼を持つ鉱石ホークが火矢で、砲筒を持つタンクが砲撃で小型竜を撃ち落としてく。
しかし数は小型竜の方が圧倒的に上。
ローリーが懸命にホークとタンクを操り、撃ち落としても、数は一向に減らず。
「くっ……あたしをなめるなぁぁぁぁ!」
ローリーが気合と共に魔力を解放し、更にホークとタンクを召喚する。
だがそんなローリーへ目掛けて、間隙を縫って一体の小型竜が飛来する。
「ふ、
ローリーの背後から神聖な輝きが迸り、接近する小型竜を焼き尽くす。
「やるじゃない、アンタ」
「い、いやぁ、それほどでも……」
ローリーは彼女の後ろを固めていた、神官の男へ笑みを送り、彼は恐縮そうに後ろ髪を掻く。
バックアップは完璧だった。
故に我々はまっすぐと屋根の上を風のように駆けて、まっすぐとロムソの頭部の死角へ回り込むことに成功する。
そこでロムソの首の中、輝く俺の鉄兜を目視で確認にする。
「飛ぶぞ、エル!」
「はいぃ!」
我々はロムソの頭部に引っかかる鉄兜へ向けて、飛翔した。
ぐんぐん距離が延び、首の中で輝く鉄兜との距離がどんどん縮まってゆく。
「KYUOOOO!!」
その時、脇から小型竜が接近してきた。
「ぢゅるん!」
すると目下にいたライムが、ヤタハ鍛造所からあふれ出るマグマへ向けて、ドッカンを放つ。
ドッカンによってマグマが飛び散り、雨のように小型竜へ降り注ぎ、焼き落としてゆくのだった。
さすがのロムソの首がその場にくぎ付けとなった。
「エル、いまだ!」
エルは再度、背中で魔力を発破させ、浮遊するロムソの頭部の遥か上まで飛んだ。
「喰らえぇぇぇっ!」
エルは落下の速度を利用して、ロムソの首へバスタードソードを叩きこむ。
だが、首に障壁の魔法陣が現われ、剣を弾き返す。
エルは魔方陣をステップに再び上へ飛ぶ。
「だった、これだぁっ!
残りの魔力を全て燃やし、エルは空中で刀身へ指を滑らせた。
翡翠の魔力が迸り、バスタードソードを輝かせる。
「たぁぁぁぁー!」
魔法剣での二度目の攻撃。
魔力によって破壊力を増し、解呪能力もある魔法剣は一撃でロムソの障壁をガラスのように崩壊させた。
エルはそのまま空いた拳を首の中へ叩きこむ。
指先にコツンと、鉄兜が触れる。
エルの腕を覆うガントレットが蒸気を上げ、溶解を始めた。
「鎧さん!?」
驚いたエルは思わず腕を引き抜こうとする。
俺はエルとは逆方向に力を入れ抜かせまいとした。
「大丈夫だ! この程度問題はないし、俺にはそもそも痛みはない! それよりも早く
「うわぁぁぁーー!」
エルは獣のような叫びを上げ、掴んだ鉄兜をロムソの中から引き抜く。
「GUOOOOO!!」
ロムソの頭部が悲鳴を上げ、身体から明らかに力が抜けた。
鉄兜を手にしたエルは、ロムソの表面を蹴り、大きく距離を離す。
そして家屋の屋根の上へスッと降りたつなり、エルは取り戻した鉄兜をみて、驚きを隠せない様子だった。
「この
エルはロムソから抜き去った鉄兜を見てぽつりとつぶやく。
右目の辺りに傷が入り砕けている鉄兜。
「間違いない、俺の鉄兜だ」
忘れもしない自分の鉄兜の特徴を確認でき、俺は自信満々に答えた。
すると何故かエルの身体が僅かに震え、心臓がトクトクと鼓動を放つ。
「どうかしたか?」
「これが鎧さんのってことは、もしかして貴方は……?」
「GUOOO!」
ロムソの咆哮が聞こえ、エルと俺は首を上げる。
鉄兜は取り戻したものの、ロムソはいまだ健在。
「エル、早く鉄兜を装着するんだ!」
「―――わかりました!」
エルは躊躇うことなく右目の箇所が砕けた鉄兜を被る。
胴や腕、足に走る無数の畝が七色の輝きを放ち、燃え上がる。
――全てのパーツが揃いました。【ソウルリンク】を完全解放します――
そんな表示がエルと俺の視界に浮かぶ。
エルと俺の魔力が高まり、膨れ、あふれ出る。
俺から放たれた七色の輝きはエルを包み込み、そして――!!
「これって……?」
エルは何が起こったのか分からず自分の手足をきょろきょろと見渡した。
頬を叩けばカツンと、硬質感のある音が響く。
エルのトレードマークである長耳さえも、鋭いナイフのような装甲で包まれている。
翡翠の輝きを帯びる
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