第34話 誕生! 装甲妖精のエル!

「鎧さん、形変わってますけど!?」


 エルは不思議そうに金属装甲で覆われた自分自身をぺたぺた触る。

 これまで弱点だった脇や首の露出部分は柔軟性のある金属に覆われ完全防護。

エルフの特徴である長い耳も、それに沿う形に鋭いナイフのような装甲で覆われている。

 無骨なマクシミリアン式鎧だった俺は、エルの身体にフィットするスマートな形に変化していた。


「これはエル、君が持っていた真の力が発動した結果だ」


【ソウルリンク】

これは肉体と装備を同化させ、身体能力を極限まで強める力。

だかそれが全てではなかった。

この力の本懐、それは装着者の潜在能力を引き出し、具現化すること。

それこそが生前、俺が獲得した【ソウルリンク】の真の力。


「君が金属へ抱く強い愛情が【金属錬成】の魔法を呼び出し、君をこうして包み込み、変身させた。今の君はただのエルフの剣士ではない。いうならば、そう、これこそ【装甲妖精フルメタルエルフ!」


「うー……」


 エルは何故か脇をギュッと締め、鎧をカタカタと震わせてていた。


「エル……?」


「やったぁー! なにこれなにこれ!? 超カッコ良いんですけど!? ぴかぴか、ひんやりぃ~! あは! すってきぃー! はぁはぁ!」


 エルは子供みたいにはしゃぎ、踊るようにその場でくるくる回る。

 どうやらかなり喜んでいる様子だった。


「感動するのは後にしよう」


「ですね。今は!」


 エルと俺は揃ってロムソへ視線を飛ばす。

奴は相変わらず分離した頭部と胴体で迷宮都市マグマライザを蹂躙していた。


「行くぞ、エル!」


「はい、お兄さん!」


 装甲妖精となったエルの背中で翡翠の魔力が、思い切り爆ぜた。

その圧力は彼女を一気に宙へ押し上げる。

エルは、翡翠の魔力を帯びながら”飛行”を開始した。


すると我々の存在を感知したロムソの眷属が、群れとなって襲い掛かる。


「たぁぁぁーっ!」


「KYOOOO!」


 鮮やかなバスタードソードの軌跡。

輝かしい装甲を纏ったエルは小型竜を、切って、切って、切り伏せる。

先ほどまでの比ではない攻撃手腕に、俺はかつての自分の活躍を主出していた。


(当然だ! 何故ならばエルは俺、俺はエル自身なのだから!)


 かつて体にしみ込ませた剣の扱い方と技術。

心と身体を真に重ねた我々は、次々と小型竜を撃破して飛行し、ロムソへ接近する。

そんな我々の視界へ、”ヤタハ鍛造所の高い煙突の上へ上り、腕を組んで仁王立ちするローリーの姿が映った。


「ここまでよくもまぁ、マグマライザと鍛造所を壊してくれたわね……この御代は高くつくわよ、ロムソ!」


 ローリーは魔力で炎のように真っ赤に燃えるゴーレム槌【機甲槌ジャンケン】を高く掲げた。


「フォースゲートオープン!……防衛軍(ディフェンスフォース)、全機発進(オールテイクオフ)!」


 ローリーが煙突を叩き、燃え盛る魔力を流し込む。

真っ赤な魔力は瞬時に広大なヤタハ鍛造所に伝播でんぱする。

すると、ロムソによって破壊された施設の残骸が、原料として保管されていた無数の鉱石がカタカタと震えだした。


 ”ビュン”と鍛造所から数えきれないほどの空飛ぶ鉱石【ホーク】が飛び立ち、

”ゴゴゴゴッ”と瓦礫をかき分けながら自走する鉱石【タンク】が、数えきれない程出現した。


「敵をすべて焼き払えッ! 防衛軍!」


「GUOOOO!」


 ローリーの指示を受けてホークが火矢を放ち、タンクが火球を発射する。

降り注ぐ炎の力は飛来する小型竜撃ち落とし、ロムソの身体を激しい火炎で焼き始めた。



「ちゅるん! ちゅるん! ぢゅるんっ!」


 ライムは連続してドッカンをマグマへ向けて放ち、ロムソへ溶岩の雨を降らせる。

ロムソはそのたびに、マグマの雨を浴びて、身もだえている。


一瞬、ライムの魔力の枯渇が心配になったものの――


「ありゃりゃ、ライムちゃん、ちゃっかりヤタハから漏れ出した鉱石なんて食べちゃって、ふふ……」


 ライムはロムソの襲撃によって、倉庫から飛散した鉱石を吸収し魔力へ変換しているらしい。

だからあんなにも連続してドッカンが放てるようだ。


「ローリーさんとライムちゃんにおくれてなるものかぁぁぁぁ!」


 優雅に飛行し、鮮やかな斬撃で小型竜の撃退を続けるエルがそう叫ぶ。


「エル、正面!」


「ッ!?」


「GUOOOO!」


 そんなエルへ向けて、巨大なロムソの頭部が顎を開いて接近してきた。

幾重にも連なる、恐ろしい牙が、装甲妖精と化したエルをかみ砕こうと迫る。

回避しようにも頭部の速度の方が上。


「GUO!?」


 しかしエルを目前にして、頭部の動きが止まった。

頭部は下から放たれる白色の魔力の糸に拘束されていた。


「お、俺だって男だ! やるときはやるんだぁぁぁ!」


 ロムソの頭部を神の奇跡で拘束した神官の男は、錫杖を鳴らしながらフルスイング。

まるで錫杖ごと、ロムソの頭部を投げ飛ばした。

 ロムソの頭部が、首のない胴体へぶつかり、怯んだ。


「エルフさん! 今です!」


 神官はロムソを強く指さす。


「ありがとう、神官君!」


「エル、魔力値最大! 君の全ての力をバスタードソードへ注ぎこむんだ!」


「はい! 魔法剣マジックブレード!」


 エルは光沢を放つ指先で、刀身を素早く撫でた。

鋭く長いバスタードソードが、美しいエメラルド色に輝く。


「わわっ!?」


 刀身からあふれ出た膨大な魔力は周囲の空気をかき乱した。

ロムソに破壊された迷宮都市の瓦礫が風に巻かれて飛び散る。

その勢いはエルの姿勢を崩し、翻弄する。


「制御はまかせろ。そらっ!」


 俺は魔力を解放し、ソウルリンクの精度を高めた。

風を受け流し、光輝くバスタードソードを両手でしっかり握締め、姿勢を安定させる。


「あ、ありがとうございます!」


「我々は人鋼一体! 俺が傍にいる。君を信じる。だからエルは燃やしてくれ。 君の熱き真っ赤な血潮を! その若さを!」


「はい!」


「行くぞ、エルッ!」


「はい!! お兄さんッ!」


 エルと俺は背中で魔力を爆発させ一気に飛んだ。

 

迷宮内都市へエメラルドの光が過るたびに、絶望に沈んでいた住民たちが我々のことを見上げてくる。


「GUOOOO!」


「てやぁっ!」


 ロムソの頭部が吐き出した黒い瘴気が、エルの魔法剣に切り裂かれ、一瞬で霧散する。


「エルフさん! おねがいします!」


神官の男の声が、


「ちゅるーん!」


ライムの咆哮が、


「やっちゃえ、エルちゃーんッ!」


ローリーの声援が響く。


更に迷宮都市に暮らす全ての人からエルへ声援が贈られた。

 皆の声援を受けて、エルと俺はロムソを肉薄する。

そして膨大な魔力を秘めたバスタードソードを高く掲げる。

翡翠の魔力が更にあふれ出て、刀身が長く伸びた。


(俺はエルを信じる!)


(私はお兄さんを信じる!)


「これがエルと!」


「お兄さんとの力だぁぁぁぁ!」


 赤く淀んだ双眸をロムソの頭部が見開く。


「「エルゥー、ストラァァァイクッ!」」


 前転宙返りで勢いを付けた兜割が、ロムソの頭部を、胴体もろとも真っ二つに切り裂いた。

首のない胴体が結晶化を始めて、ボロボロと崩壊を始める。

マグマライザを飛び回っていた小型竜は、シャボン玉のように弾けて消えて行く。


「GUOOOOOOOO!!!」


 最後にロムソの頭部は慟哭を上げて、翡翠の光の中へ溶けて行く。

迷宮内都市マグマライザを蹂躙し続けた、魔竜ロムソの最後を迎え、奴の魔石が赤い雪となって街中に降り注ぐのだった。



【戦闘結果:魔竜ロムソの撃破。累計経験値:20,300/10,000

レベル14にアップ!


 *目標レベルを超えました。鎧の呪いを解除します。



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