第28話 エルが全然諦めないのだが!?

「きゃうっ! ま、まだまだぁ……!」


 つま先を思い切り蹴り、彼女は果敢にもホークとタンクへ突き進んでいった。

 倒れたら立ち上がり、また挑む。

その繰り返しだった。

 エルは幾らホークの火矢を受けようと、タンクの砲弾に吹き飛ばされようと、その度に立ち上がり、また立ち向かって行く。

 既にエルの体力は当の昔に限界を迎えていた。


「たぁぁぁーっ!」


 気合のみでホークとタンクへ挑むエル。

確かに今の彼女の技術でも、何体かのホークとタンクを撃破することはできていた。

しかし数は圧倒的にローリーの防衛軍の方が上。

例え撃破しても、エルへ降り注ぐ砲撃の勢いが弱まることは殆ど無かった。


(どうすれば良いんだ? 俺は一体どうしたら?)


「うわぁぁぁーっ!」


(俺が動いてしまえばローリーは訓練を止めてしまう)


「まだま……くっ、あっ!」


(だからといってこのままエルが傷つき続けるの黙ってみてはいられない! でもどうしたら!? 人鋼一体とは、なんなんだ……!)


 そんな俺を他所にエルは、横へ飛びホークの火矢を回避しようとしていた。

しかし、動きが伴っておらず、見事に火矢の一撃を貰ってしまう。


(敵の動きは察知できているも、動きが伴ってはいない? いや、待てよ……これはまさか!?)


 何かピンとくるものがあった俺は、感覚を研ぎ澄ませた。

静かに集中し、周囲とエルの状態へ気を配る。


 僅かに重なったエルの身体。

エルの感覚は確かに接近するホークの魔力を察知していた。

俺の感覚よりも早く、そして位置さえも的確に。


(左前方から、ホーク!)


 俺はエルの身体の反応よりも早く、回避運動のため、右足に力を込めた。

やや遅れ気味だったエルの動きが、俺の動きに引っ張られ、そして――


「や、やったぁ! 避けられたぁ!!」


”ビュン”と横切ってゆくホークを見てエルは成功をかみしめているのだった。


(そうか、そういうことか!)


 ちらりとが崖の上のローリーを盗み見る。

彼女が”俺の動き”に気付いた素振りは見られなかった。


(ローリーは気づいていない。やはり!)


 そんな中、俺は再び足元と腕に、エルの動きを察知する。

試しに彼女に合わせて足元と腕の動きに合わせてみた。


「てぇぇぇい!」


 一気に飛び上がったエルはサーベルでホークを一体切り裂き撃ち落とす。

そして鮮やかに着地した。


 エルは走り出し、俺も合わせて走る。元々エルの脚力は高い。だが俺が合わせることで更なる速度を得た。

 降り注ぐホークの火矢も、タンクの砲撃も、すべてがただすり抜けて行くだけ。


(エルは自分でなんとかしようとする、俺は自分でなんとかしようとしない。つまり、それは! ”俺がエルを信じて、動きを合わせること”! そうすれば俺の力が、彼女に足りない力を補助することとなる!)


 その答えに行き着いた。

エル自身はホークとタンクの動きを魔力探知で把握している。

だが、先ほどまで攻撃を喰らっていたのは、ただ身体が追い付いていないだけ。


(だからこそ俺はエルを信じて力を貸すべきなんだ。だってこれはエルの戦いなのだから!)


 エルの身体を通じて脇にホークの魔力を感じる。

 彼女の体の内側から燃え上がるような感覚が沸いた。

鎧として装着されている俺の表面に浮かぶ、無数の畝が輝きを放った。


(この輝きはまさか……? 今、発動できるのか!?)


「な、なにこれ!? なんで鎧さんがもっとピカピカに!?」


エル自身も、輝きを放つ鎧をみて驚きを隠せないでいる。


「エル、やるぞ」


そう端的に告げる。

エルにとって、この魔法の発動を意識がある中で見るのは初めてのはずだ。


「はい、わかりました!」


しかしエルは、俺が何をしようとしているのか理解した様子で元気に答えてくれた。


「いくぞ」


「はいっ!」


「「魔法剣マジックブレードぉっ!」」


人差し指と中指をサーベルの刀身へ滑らせる。

すると鋼の刃がエメラルド色の輝きを放ち始めた。


「てぇぇぇいっ!」


 エルは飛来した空飛ぶ鉱石:ホークへ、エメラルド色に変化したサーベルを薙いだ。

サーベルの軌跡は、そのまま威力のある魔力として固定され、打ち出され、空にいたホークを三機まとめて撃破する。


「すっごい威力!? でもしかも、この魔法って……!?」


「後できちんと説明をする! だからまずは目の前の敵に集中を!」


「は、はい!」


 俺はエルに合わせて、つま先を蹴った。

エルは風のように疾駆し、翡翠に輝くサーベルで、地上のタンクを、空のホークを次々と撃破してゆく。

 ホークとタンクの攻撃も、エルの精度高い魔力探知と、俺が重なることで得た強力な脚力の前に、ただすり抜けて行くだけ。


(心と身体を重ねる……これこそ”人鋼一体”!)


「これで終いとする!」


「エルゥーダイナミックっ!」


 光輝く魔法剣が、最後のホークを盛大に切り捨てる。

これにてローリーより出された“ホーク&タンクすべての撃破”という課題はクリアとなったのだった。


「たはー、終わったー!」


 全てのホークとタンクを撃墜したエルは、その場へ大の字に倒れ込んだ。


「良くやったぞ、エル! お疲れ……ん?」


「くぅー、かぁー、すぅー……」


「あらあら、いきなりこんなところで寝るなんて、野蛮ねぇ」


 あきれ顔のローリーが、手にしたブランケットをそっとエルの上へかけた。

屈んだ彼女は俺へ骨伝導スピーカーを接続する。


「鎧もお疲れ―」


「ローリー、ありがとう。君のお蔭で我々の”人鋼一体”ができたよ」


「いえいえ、私はストレス解消をさせてもらっただけだから。でもこの子、本当にすごいわね。まさか【魔法剣(マジックブレード)】を発動させるだなんて。まっ、鎧のアシスト付きで、だけどね」


「なんだバレていたのか……」


「でも、ちゃんと人鋼一体ができてたじゃない。あんたはエルちゃんを信じて、装備として、この子を助けてあげるってことがね」


「ありがとう、ローリー。助かった」


「べ、別にあんたのためにやったんじゃないんだからね! 私はそのぉ……エルちゃんの今後のために……」


 やはりローリーは良い奴で、俺がいついなくなっても、エルには良い先輩ができたと確信できた瞬間だった。


「……さぁ、ローリー、エルを運ぶのを手伝ってくれ。なるべく起こしたくないんだ」


「わかったわ」


 俺はエルを起こさないよう薄くソウルリンクを発動させて立ち上がり、ローリーの肩を借りるのだった。


(まさかこの短期間で魔法剣の発動まで漕ぎ着けるとは……)


エルは逸材なのかもしれない。そして生前の俺のような偉大な冒険者……いや、世界の長年の悩みの種である、魔王を倒す者になるのではないだろうか。俺はそう思うのだった。



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