第10話 シルバースライムからお礼を受けているだけなのだが!?


「ちゅ……ちゅるるるるぅぅぅぅーーーん!!」


その機にシルバースライムから咆哮と共に、ひと際強い輝きがあふれ出る。

シルバースライムは、瀕死の状態になると、渾身の一撃である無属性の爆発強魔法である“ドッカン”を放つことがある。


「NMOOOOOO!!!」


 ミノタウロスの顔面へドッカンがさく裂し、角をへし折る。

 いよいよ立っているのも困難になったミノタウロスは、地鳴りを伴いながら、大きく尻餅をつく。

 立ち上がろうにもエルに散々傷つけられた足は使い物にならない。


(エル一人では対処できない相手だった。しかし、シルバースライムとの共闘となれば、十分に勝機はある!)


 俺の視界に映るミノタウロスの体力数値は既に限界。


「エル、バスタードソードの使用を許可する。君の一撃、思う存分叩きこめ!」


「わっかりましたぁ!」


 エルは手早くダガーを仕舞い、背中の鞘からバスタードソードを抜いた。

バスタードソードの磨き上げられた刀身へ、たじろぐミノタウロスの姿が映る。


「行くぞ! ソウルリンク!」


 残りの魔力を振り絞り、エルの足に全ての力を注ぎこむ。

エルが膝を曲げて、大きく伸ばせば、彼女の身体が勢いよく飛ぶ。

目下には、驚きこちらを見上げるミノタウロスの姿が。

 エルはバスタードソードを大きく上段に構え、両手で柄を強く握りしめる。

なけなしの魔力がエルの背中で爆発した。


「とぉぉぉりゃぁぁぁ!」


魔力の爆発はくるりと彼女を前転宙返りさせ、その勢いも相まって、バスタードソードは強く、そして鮮やかに振り落された。


「NMOOOOOO--……!」


 頭から真っ二つにされたミノタウロスの悲鳴が響きわたる

真っ二つにされた巨体はすぐさま結晶化を始めた。

ミノタウロスは砕け散り、戦利品である色とりどりの魔石が迷宮の中に舞う。

それはあたかもエルの勝利を祝う花吹雪のように見えるのだった。


「たはぁー、疲れたぁー、もう動けませーん!」


 エルは勢いよく大の字に寝そべった。

 体中は汗まみれで、呼吸も荒く、相当疲れていると伺える。


「良くやったぞ、エル。流石だ」


「えへへ、どーも。でも鎧さんが傍に居て、指示してくれたから勝てたんですよ?」


 俺の労いの言葉に、エルは響きが良く優しい声音で答えてくれた。


「そうか、それならば良かった。とりあえず休むとしよう」


「ですねぇ。ちょっと本気で動けそうにないですよ、ふぅー……」


「ゆっくり休め。いざという時は俺がソウルリンクで君を退避させるから安心してくれ」


「ありがとうございます。あーでもなんかそのぉ……」


何故かエルは頬を真っ赤に染めてもじもじし始めた。


「なんか、すっごく鎧の内側が蒸れちゃってて、少し気持ち悪いです……」


「あ、ああ、そうか……それはすまない……」


 俺が脱げないばかりに、不憫な思いをさせている自覚はあった。この状態になって早数日、ずっとこのままで、水浴びさせできていたいのだから、きっと本人も匂いなどを気にしているに違いない。


「ちゅるん」


 気が付くと共闘したシルバースライムが、ちょこんとエルの脇に現れていた。


「スライムちゃん?」


「ちゅるん!」


突然、大の字に寝そべるエルへシルバースライムが飛びかかった。


「え!? あっ……んんっ!」


 突然、エルが悲鳴を上げ、身をよじる。


「ちゅるちゅるん」


 流体化を始めたシルバースライムは、何故か鎧である俺とエルの間にある僅かな隙間へと流れ込んでゆく。

 流れは早く滑るよう。

しかし羽毛のように柔らかく、優しく、包み込むかのように。


「あ、ちょっと、そこ……あんっ! んん~!」


 頬と耳を真っ赤に染めたエルが喘ぐ。

彼女の心臓がドクドク脈を打ち、体温は上昇の一途。

 流体化したシルバースライムは、エルの胸や、脇、はたまた鎧の下に履いているショートパンツの間にまで潜り込んでゆく。


「だめ、だめだって、スライムちゃん、そんなとこ入っちゃ……あぁんっ!」


「ちゅるん、ちゅるん」


「な、なんで、急にこんなことを……あんっ……で、でもなんか、体があったかくなって、頭がほわほわするぅ……! こ、これぇ、なにぃ……!?」


 スライムの栄養補給として、他生物取り込むというのが上げられる。巨大なスライム属は、人や他の魔物を丸ごと飲み込んで、タンパク質などを魔力へ分解するといった調査報告もあるくらいだ。

故に王都の裕福層の間では、この特性を生かし、小型のスライムを調教して危険度を極端に減らし“風呂”へ入れ、垢をと取ったりしているらしい。


「も、もうぅ、だめぇ……あ、んっ!」


(これは今のエルには必要なことだ。第一俺に呪われてから一回も風呂に入れていないのだ。エルも年頃の女の子。体は常に清潔にしておかねば……)


「はぁ、はぁ、はぁ、そこ、もっとぉ……」


「ちゅるちゅるん!」


(迷宮での心得、常に冷静であれ。紳士たるもの邪念は捨てて、邪念は捨てて……)


「き、来てぇ、スライムちゃ……あくッ!」


(これは洗浄だ。必要なことなんだ! 俺が脱げないエルには必要な……)


「ああ――ッ!……」


(だぁぁぁ! なんでもう、鎧になってからこんなに美味しい場面ばかりに出くわすんだ! なんなんだ、この状況は!?)



【戦闘結果:ジャイアントモンスターミノタウロス1体の撃破。


*協力者が居たため、経験値は半減されます


 累計経験値:2,250/10,000】 レベル7にアップ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る