第40話 犠牲となったゴーレム



「ホワイトさん見てくださいまし! 遂に完成いたしましたの!」



「ん? なにが完成したって……うわっなんだこれ!?」



 ガコン、ガコン、と謎の音を響かせながらハイドロが俺の部屋まで連れてきたのは、等身大の謎の石像だった。



「あ、あー……もしかしてこれが例のハーピィエルフ様の像ってやつか?」



「そうですの! ハーピィエルフ様のミスリル像・ver1.01ですの!」



「ver1.01ってなんだよ」



 なんかアップデートでもしたんかその像。不具合は解消されましたか……?



「ウゴー!!」



「うわっびっくりした! って、え? なにコイツ、喋るの?」



「デビルアイランドにいたミスリルゴーレムをちとリメイクしたのじゃ」



「型を取り直したルナ」



「マジでやったのかよ」



 以前、ハイドロたちが話していたミスリルゴーレムを加工してハーピィエルフの像にする作戦。

ミスリルゴーレムを溶かしてハーピィエルフの形を模した型に流し込み、見た目がハーピィエルフのゴーレムに生まれ変わらせるという、なんともえげつないやり方である。



「シテ……コワシテ……」



「ああっ! ゴーレムの魂の叫びが聞こえる……! 大丈夫だ、俺がすぐに楽にしてやるからな」



「ダッダメですの! この子は壊させませんの! 復興したら大教会で祀り上げられる運命なんですの! 永遠に」



「いやあまりに不憫すぎる」



 ミスリルゴーレムが何をしたって言うんだ……やはり人間は業が深い。はやく滅びた方が良いかもしれない。



 ……。



 …………。



「第8エリアの敬虔なる隠れハーピィエルフ教の皆様、こんにちは。わたくしは第7エリアの大教会所属、シスター・ハイドロでございますの」



 今日はフレイムとサタンが第8エリアの教会でお遊戯会に参加する日だ。

ハイドロも一度訪問しておきたいとのことで、一緒に連れてきた。



「シスター・ハイドロって、もしかしてあのミス・グレネードの異名を持つ……?」



「第7エリアの鉄砲玉と言われた伝説のシスターじゃ……」



「押収された石像を取り返すために管理局に単身で乗り込んだって聞いたぜ」



「いやあ、照れますの」



「照れますのじゃねえよ」



 別に褒められてないだろ。田舎のイキってるヤンキーみたいな言われようじゃねえか。



「こちらの教会にはハーピィエルフ様の像が押収されずに残されているととある筋から聞いていますの。それは本当ですの?」



「ええ、ウチの教会にあった像は大教会にあるものよりもかなり小さいもんですから、管理局の連中に見つからないように隠しておいたんです」



「今はプリティ☆デビル様たちのおかげで第8エリアが解放されましたので、奥の本堂に飾ってありますよ」



 こちらをチラチラと見ながら話す第8エリアの住民たち。バレてんだよなあ……俺がプリデビやってんの……くっそ恥ずかしい……



「素晴らしいですの! わたくしも今度こそ、あのゴミくそババア……おっと失礼、第7エリア管理局長のモッツアレルからハーピィエルフ様を取り戻してみせますの」



 コイツ、意外と口悪いな。

それにしても、第7エリア管理局の責任者、モッツアレルか。どんなヤツだろう……



 ピコン! ピコン!



「ボウギャーク、出たあ! ボウギャーク、出たあ!」



「なにっ!?」



 プリデビ☆チョーカーから骨伝導的なヤツで脳に直接届く警戒アラーム。

どうやら街にボウギャークが出現したらしい。



「あら、どうかされましたのホワイトさん」



「ああ、どうも街にボウギャークが……」



 ハイドロにボウギャーク出現のため、この場を少し離れると伝えようとしていたとき、教会の扉があわただしく開けられる。



「た、大変だあ! 第7エリアに巨大なハーピィエルフ様が出なすった!」



「な、なんだっt」



「それは本当ですの!?」



 く、食い気味ィ! いやハイドロの気持ちも分からんでもないが。



「ハーピィエルフ様が光臨なされたのですね! わたくしたちも早く向かわなければ! さあ行きましょうホワイトさん!」



「ま、待ってくれハイドロさん、第7エリアにいる隠れ信徒の情報によると、どうやらいきなり出現したハーピィエルフ様は大変お怒りのようで、街中を破壊して回っているらしい」



「街を破壊……? おい、それって」



「ハーピィエルフ様の天罰ですわ!」



 ダメだ、ハーピィエルフを盲信してるハイドロには何を言っても全て肯定的に受け止められてしまうかもしれない。



「ハーピィエルフ様からのお言葉はなにかありませんですの?」



「それが、人間の言葉をお話にはなられておらず、ただひたすらにボウギャーク! ボウギャーク! と叫んでいるとの連絡が入っております」



「ボウギャーク……ぼうぎゃく……やはり、理不尽の限りを尽くす管理局の暴虐に対するお怒りのお言葉ですの」



「いや、それってよおハイドロさん」



 ……ただのボウギャークじゃね?



「こうしては居れませんの! さあホワイトさん! はやくあのプリティ☆なんちゃらに変身して第7エリアまでひとっ飛びですの!」



「頑張ってくださいサン……ホワイトさん!」



「応援してるわ、プリティデビ……ホワイトさん!」



「なあ、あんたらわざとやってんのか? そうだよな?」



「ホワイトよ! ボウギャークが出現したのじゃ!」



「ボウギャークたおすぞー! 第7エリア、れっつごー!」



 お遊戯会に参加していたサタンとフレイムもやってくる。周りに人がいるのに堂々とボウギャークとか言うんじゃないよアンタたち。



「待っててくださいましハーピィエルフ様! 今すぐハイドロがお迎えにあがりますの~!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る