第24話 牧場送り



 エール王国、貴族エリア。第8エリア管理局。



「……ではビネーガよ、貴様は管理者を辞めたいと、そういうことだな?」



「はい、ピックルス様。私はボウギャークとしてプリティ☆デビルと戦い、敗れました。そこで気付いたのです。こんな庶民を管理するようなやりかたは間違っていると」



「そうか……」



「あとやはり巨乳は最高だと。貧乳とかいう虚無に囚われていては私は私でなくなってしまいます」



「…………」



「というわけでピックルス様、今までお世話になりました。このビネーガ、まずは己の罪を償うために牢に入り、出所した後は流浪の巨乳写真家として世界中を旅しようと思います。まだ見ぬ巨乳に会うために……」



「……ビネーガよ」



「はい、なんでしょうピックルス様」



「貴様は“牧場”行きだ」



「……へ?」



「連れていけ」



「はっ!」



「ま、待ってくださいピックルス様、牢には入りますが牧場は、牧場だけは勘弁してください!」



「絶壁魂を失った貴様に、未来は無いのだよ」



「くっそおおおおピックルスウウウウ……!!」



 …………バタン。



「やれやれ、巨乳などというおぞましいものに毒された部下に管理を任せていては、ろくなことにならないな」



 コンコン。



「開いておるぞ」



「なんだ、ピックルス。せっかく下に付けてやったビネーガを牧場送りにしてしまったのか」



「こ、これはサイザー様。こんなところまでどうなされたのですか」



「うむ、実はボクの愛しのフレイムたんなんだけどさ」



「フレイムたん」



「なにか?」



「いえなんでも」



「それでフレイムたんなんだけど、どうやらプリティ☆デビルとかいうやつに変身して、ケモ化が進んでしまってさ」



「ああ、私もビネーガからの資料で確認しました。ケモ度マシマシ絶壁娘、やはり良い……」



「あれじゃあただの動物じゃないか。ケモ耳としっぽが生えた女の子ってのが良かったのにさ。はあ、なんか気分冷めちゃったわ。もう追わなくていいから」



「えっあ、はい……」



「それじゃ、引き続き管理よろしく~」



 バタン!



 …………。



「素人は黙っとれ……」



 __ __



「なに? フレイムの連行命令が解除された?」



「うむ、先ほどウェスタ宛に管理局から文が届いてな。正式にウェスタとフレイムを王妃候補から外すとのことじゃった」



 ビネーガを倒して以降、第8エリアの管理局からは何もアクションが無かったが、まさかフレイムを諦める方向に進んでいたとは。

てっきり、第2、第3のビネーガが現れるとばかり思っていた。



「それじゃあ、これでもう二人は安心ってことだな。よかったよかった」



「代わりにこんなものも届いたのじゃ」



「ん? なになに……指名手配、反逆組織プリティデビル、懸賞金5万エル……ってなんだよこれ!」



 サタンに見せられたのは、俺たちの似顔絵と懸賞金がでかでかと載ったチラシだった。



「街の掲示板にこれが貼ってあったのじゃ。どうやら拙者たちはお尋ね者になってしまったようじゃの」



「フレイム、っていうかチューズデーまで載ってるじゃねえか。しかもどう見てもただの犬の絵だし」



 プリデビに変身した俺とサタデーの絵も、正直誰だか分からないレベルの画力で描かれている。



「まあ、これなら当分見つかることはねえだろ」



「そもそも庶民は管理局に不満を持っておるからの。もし見かけても通報するヤツは少ないじゃろうな」



 喫茶ペチカの常連さんなら気付いてると思うけど、ここは街の人の数少ない憩いの場所だ。

むしろ管理局の連中が来ても隠し通してくれる気がする。



「それとな、これは街の連中が噂しておった話なんじゃが……ビネーガが管理局から更迭され、“牧場送り”になったらしい」



「……牧場送り? なんだそれ」



 そういえば、前に市場へ行ったときにも牧場について話しているのを聞いたような気がする。

なんだろう、生キャラメルでも作らされるんだろうか。



「それはルナから説明するルナ」



「説明するるな~!」



 部屋にルナを抱いたフレイムが入って来る。二人は相変わらず仲良しなようだ。



「最近、フレイムはルナとばっかり遊んでて拙者は寂しいのじゃ」



「おい魔王の貫禄どこいった」



 むしろ精神が見た目に合わせてきちゃってるじゃねえか。



「牧場っていうのは、管理局が運営する強制収容所ルナ。重大な犯罪を犯した者や、王国の政治に反対する人なんかが捕まって、ここに連れていかれるんだルナ」



「そこに集めて一体何をやってんだ? 犯罪者用の牢は別であるんだろ?」



「牧場でやっていることは……あんはぴエナジーの生産ルナ」



「あんはぴエナジーって……」



「ボウギャークの動力源、じゃったか」



「フレイムたちが、嫌~な気持ちになったりすると出ちゃうんだって。ウェスタお姉ちゃんが言ってた」



 なるほど、牧場に収容された人たちに何かしらの嫌な作業を強要し、あんはぴエナジーを増やしているってことか。



「おそらく、ビネーガがボウギャークを作り出すときに使っていた謎の小瓶、あれにあんはぴエナジーが使われているはずルナ」



「牧場であんはぴエナジーを増やし、ボウギャ―ク用のアイテムを生産している、という訳じゃな」



「それで、その牧場とやらはどこにあるんだ?」



 そんなものが存在するなら、どうにかして潰しておかなければいけないだろう。



「場所の特定はまだ出来ていないルナ。今、シャドーラット達が頑張って探してくれているルナ」



「見つかるまでは、いったん放置じゃな」



「フレイムも牧場行きたーい!」



「やめとけやめとけ」



「でもデビルアイランドの牧場は楽しいってウェスタお姉ちゃんが言ってたよ」



「なんだ、デビルアイランドにも牧場があんのか」



「ああ、『わくわく! デスベアー牧場』のことじゃな」



「なにそれ」



「デスベアーさん達と触れ合ったり、エサをあげたり出来る所ルナ」



「牧場行きたーい!」



 うん、絶対行かねえわ。

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