第25話 強制絶壁ランジェリー



「……は? 貧乳になるブラジャー? そんなもん開発してんのかお前」



「ルナが作ったんじゃないルナ! そういう危険な下着が売ってるって街の掲示板に注意書きがあったルナ」



 ルナが『掲示板のお悩みコーナーにこんなのが書いてあったルナ! ヒーローの出番ルナ!』とか言うから何かと思えば、マジで意味が分からない。



「とあるランジェリーショップでブラジャーを買った女性が、翌日それを身に付けた所、なぜかおっぱいが小さくなってしまった、というか完全に平ら、無になってしまったと苦情が寄せられているんだルナ」



「いやさすがに都市伝説とかの類だろ、普通に考えてそんなことあるか……?」



「でもこういった苦情や相談が複数寄せられているルナ。管理局に相談した人もいるみたいだけど、今のマシュマロ林みたいな反応をされて取り合ってもらえなかったらしいルナ」



「う……」



 管理局と同じ扱いするんか? とでも言わんばかりの視線を向けてくるルナから目をそらす。

いやだってよお、そんな、異世界だからっておっぱい小さくするブラとか、あまりにもファンタジーすぎるだろ。てか巨乳にするならまだしも、絶壁にして誰が得するんだよ……。



「……ん? まてよ、そういやビネーガの上司とかいうやつが貧乳好きの巨乳アンチだったとかなんとか、アイツ言ってた気がするな」



 って、そんなまさかな……



「キャアアアアアッ!!」



「な、なんだ!? ウェスタさんか!?」



「更衣室の方から聞こえたルナ!」



 喫茶店の更衣室からウェスタさんの叫び声が聞こえ、俺とルナは慌てて1階に降りて行った。



「ウェスタさん大丈夫ですか!?」



「虫でも出たルナか!?」



 な……まさか、異世界にもいるのか? 名前を呼んではいけないあの虫が……?



「ち、違うの。その、胸が……ちょっと、中に入って来てもらえる?」



「……?」



「入るルナ」



 ガチャッ



「ウェスタさん、いったいなにがあったんで……ッ!?」



「ホワイトさん、ルナちゃん……」



「ウェスタのおっぱいが無くなってるルナ!!」



「ウェスタさんの胸が無くなってるじゃねえか!!」



「いや無くなってはいないと思うけど……」



 そう、なんとウェスタさんのエベレスト・マウンテンが関東平野になってしまっているのだ。しかも、ウェスタさんが身に着けていたのは……



「てかその、ウェスタさんってそんなマイクロビキニみたいな下着付けてるんですね……」



「その下着で喫茶店は無理ルナ」



「ち、違うの! 付ける前はもっと普通のブラだったのよ!」



 ウェスタさんの説明によると、昨日新しく出来たというランジェリーショップに立ち寄り、そこで購入した下着を身に付けたところ、ブラから謎の力が生じ、胸と下着の布面積が減ってしまったという。



「マジかよ……さっきルナが言ってたのと同じじゃねえか!」



「ほ、本当に貧乳になる下着があったなんてルナ……実は自分で言っててもちょっと信じられてなかったルナ」



 おい。



「それにこの下着、なぜだか外せないの……どうなってるのかしら」



「衣服の形をした魔族で、人間族に来てもらってはぴねすエナジーを貰うヤツもいるにはいるんだけどルナ、こんな悪質なタイプは見たことないルナ」



 これじゃあはぴねすエナジーじゃなくてあんはぴエナジーが増えちまうだろうしな……やっぱ管理局の連中の仕業か。



「ウェスタさん、その下着を購入したランジェリーショップっていうのは、どこにオープンしてるんですか?」



「市場通りのひとつ奥の路地に行ったところよ。店名はたしか……“ウォールマート”だったかしら」



 ウォル〇ートのパチモンみたいな名前してんなおい。



「行ってみるルナ! このままじゃ喫茶ペチカが貧乳喫茶ペチペチになってしまうルナ!」



「ならねえよ」



 こうして俺とルナは、謎のランジェリーショップ『ウォールマート』を探すため、街へ繰り出すのであった。



「あれ、そういやサタンは?」



「フレイムと一緒に近所の教会で定期的にやってるお遊戯会に参加しに行ったルナ」



 魔王が教会に遊び行くなよ。



 __ __



「この辺りか……?」



「それっぽいお店は見当たらないルナね」



 ウェスタさんが言っていた路地までやってきたが、ウォールマートはおろか、他の店も見当たらない薄暗い通りだった。



「な、なんかあんまし長居したくないな」



「今にも横から手が伸びてきて誘拐されそうルナ」



「おまっ……! 怖いこと言うなって!」



 いやまあ、引きこもりニート男性だったときはそういう本も読んでたり読んでなかったりしたけどよ。

自分が対象になるって思うとくそ怖いな……今後黒塗りハイ〇ースが出てくる漫画は読まないことにしよう。



「ん、待つルナ」



「な、なんだ? 誘拐犯の魔の手が伸びてきたか?」



「違うルナ。この建物の周囲から、良くないオーラ……あんはぴエナジーを感じるルナ」



 ルナが指さしたのは、今にも倒壊しそうな空き家だ。ここがランジェリーショップにはまったく見えないが。



「なにか、ルナたちの目に留まらないような結界というか、ベールに隠されている感じルナ」



「それって、合言葉的なやつを言わないと入れない店みたいなもんか?」



「そうルナ」



 そんなのお手上げじゃねえか。でもウェスタさんは入れたんだよな? なにか条件があるのか……?



「……巨乳ルナ」



「は?」



「きっと巨乳の人じゃないと入れないようになってるんだルナ」



「お前なに言って……いや、そうか。巨乳の人にあの下着を付けさせるのが目的なのか」



 とはいえ、俺はまあ巨乳とは程遠いし、ルナはそもそもぬいぐるみみたいなもんだし、どうすっかな……。



「あ、そうだ」



「どうしたルナ?」



「ちょっと巨乳の人に心当たりがね」



 ……シャーチク様、呼んでみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る