第11話 露天風呂に潜むモノ



「の、のぼせた……水……」



「まだ四半日しか経っておらんぞ。相変わらず軟弱じゃのうホワイトは」



 ダフマから女風呂覗き魔の調査を頼まれた俺たちは、翌日からヘル&レイブンへ通い、1日中風呂に入るという過酷な任務を行なっていた。



「いや、四半日って6時間だぞ……普通に死ぬわ……」



 たしかに引きこもりニート時代、風呂なんてシャワーだけの烏の行水だったけどな。



「それにしても……張り込み始めてから、視線とか……それっぽいのなんも感じないよな……」



「プリデビ☆チョーカーにも反応はないのう」



 ルナに頼んで、プリデビ☆チョーカーに不審者感知センサー的な機能をアップデートで追加してもらったのだが、それも無反応だ。

てかよくそんなサラッと作れるな。ぬいぐるみになっても魔王直属の天才発明家ってことに変わりはないか……いやどっちかっていうとマッドサイエンティストだけどな。



「ふむ、結局、拙者たちは1度もその“誰かに視られてる感じ”というのを経験しておらんからの。一旦、実際に経験した人間に話を聞きに行くべきかもしれん」



「それ……最初に……言って、くれ……」



「そうじゃなー。最初に聞いて回っておけばよかったかもしれんのう。それじゃあ風呂から出たら早速って、ありゃ? どこいったのじゃホワイト?」



「……ブクブクブク」



「ホ、ホワイト~!!」



 ……。



 …………。



 パタパタ。



 あ、風……涼しい……。



「ん……」



「目が覚めたか」



「ああ……ちょっとのぼせちゃっ……てぇ!?」



 気づいたら目の前に、うちわを持ったダンディなオッサンの顔があった。



「嬢ちゃん、長風呂には気を付けな」



「は、はい……」



「ちょっとお父ちゃん! 我が介抱するからあっちいってて!」



「あ、ダフマ……じゃあこの人は」



「あ、ホワイトさん、良かった気が付いて……! この人はお父ちゃ……ゴホン! 我の父上です」



「ダフマの父、ミソクだ。娘が世話になるな」



「い、いえ、むしろいつもお風呂頂いちゃってありがとうございます……」



 やだイケメン。俺がほんまもんのお嬢さんだったら惚れてたわ。



「あれ、そういえばサタンは……?」



「サタンさんは入浴中に覗かれた、という相談があった女性たちから事情を聞くために出かけています。ホワイトさんには悪いことをした、回復するまでゆっくり休むようにと」



 やだこっちもイケメン。向こうが見た目通りの年齢と中身で俺が男であと10才若かったら惚れてたわ。



「それじゃあオレは番台に戻るな。お嬢さん、ごゆっくり」



「はい……」



「まったく父ちゃ……父上は調子が良いんだから」



「お父さんめっちゃ女性客から人気出そうだな」



「そうですねえ。実際モテるんですよあの人。まあそれで色々あって母ちゃ……母上が出てっちゃったんですけど」



 あっそういうタイプね。非モテ童貞ヒキニートの敵じゃねえか。



「話聞いてきたぞ~って、なんじゃホワイト、生きておったか」



「あっサタンさんお帰りなさい。……あんなこと言ってるけど、ホワイトさんが湯船で気失った~! って大騒ぎだったんですよ」



 なんか口は悪いけど人情に厚いジジイみたいだな。いや中身はそうか。魔王って何才なんだろう。



「俺の代わりに行ってもらって悪かったな」



「気にせんでええ。拙者たちは一心同体じゃからな」



「それはそう」



 女体化被害者の会結成してるからな。容疑者はウサギのぬいぐるみ。



「え、もしかしてお二人は既にそういう……」



「なわけねえだろ。その眼帯むしり取って現実をよく見やがれ」



「はぅ……っ!!」



 なんか急に悶絶しだしたぞコイツ。



「ただのご褒美だったようじゃの」



「俺、ダフマがちょっと怖くなってきたぞ」



 こいつ、ただの厨二ではないな?



「それで、女性客から話を聞いてきたんだろ? どうだったんだ?」



「ああ、それなんじゃがな、覗き魔が出現する条件が分かったかもしれん」



 __ __



「ほ、本当に私で大丈夫でしょうか……」



「ええ、むしろウェスタさんでないと無理かと」



「間違いないのじゃ」



 その日の夜、ヘル&レイブン閉店間際の女湯の露天風呂。

1人で露天風呂に入るウェスタさんを、俺とサタンは離れた茂みに隠れて見張っていた。なぜこんな事をしているのかというと……



「まさか、覗き魔出現の条件が“巨乳の若い女の人が1人で露天風呂に入っている時”だとは……」



「それじゃあいくら拙者たちが張っていても出てこないわけじゃ」



 絶壁&微乳ヒーロー、ふたりはプリ☆デビ! やかましいわ。



「まあ、でもたしかにウェスタさんならこの作戦に適任だろうな」



「一般人を巻き込むのは心苦しいんじゃが、仕方ない。あの才能は生かすべきじゃ」



 おっぱい大きいのを才能っていうのもどうかと思うが。ちなみに妹のフレイムはヘル&レイブンの休憩スペースでルナと一緒に眠っている。ダフマと父のミソクさんが見ていてくれるので安心だ。



『ピーッピーッ! 不審者接近! 不審者接近!』



「うわっマジで来たっ!?」



 プリデビ☆チョーカーから警告音が発せられる。ちなみにこちら、相手にバレないよう骨伝導スピーカーとなっております。便利か。



「……ホワイト、あの柵の後ろじゃ」



 ウェスタさんがいる背後の柵をサタンが指さす。あそこに覗き魔が……



「どうやって捕まえる?」



「柵の両側から挟み撃ちじゃ」



「オーケー相棒」



 二手に分かれて柵の後ろに回り込み、そこにいるであろう犯人を挟み撃ちにする。



「今じゃっ!! 犯人確保~!!」



「おらっ観念しろ覗き魔!!」



「なにっ……ブベラッ!?」



「あっ」



 俺のヒザ蹴りとサタンの右ストレートが覗き魔の顔面にクリーンヒットする。



「う、うう……おっぱいが……ない……ガクッ」



 どうやら犯人は気絶したようだ。まったく、最後に暴言吐きやがって。



「ふむ? こやつ、どっかでみたことある顔じゃの……」



「……ん? あっ! こいつ! ボウギャークを操ってた貴族の!」



「ビネーガじゃ!」



 いやなにやってんだよ管理者。

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