第10話 ノゾキマのウワサ


「ふう……良い湯じゃった」



「まさか露天風呂まであるなんてな。異世界も中々やるじゃねえか」



 幸か不幸か、女体に興奮しないことが分かってしまった俺たちは、その後は気兼ねなく風呂を満喫することができた。

湯浴み屋ヘル&レイブンには、通常の浴槽の他に露天風呂、更にはサウナまで揃っていて、普通に日本のスーパー銭湯のような満足度を感じられた。



「ホワイトよ、やはり風呂あがりといえばアレじゃな!」



「ああそうだな! 分かってるじゃねえかサタン!」



「ビールじゃな!」

「コーヒー牛乳だな!」



 …………。



「子供かおぬしは! 酒を飲め酒を! 汗水垂らして働いた後に飲むビールは美味いぞ! 働けクソニート!」



「幼女が酒酒言うんじゃねえよ! あとニートは関係ねえだろ働かなくても美味いもんは美味いんだよ!」



「はい、二人ともこれ良かったら飲んで」



「あ、ウェスタさん、ありがとうございます……これは?」



「アップルサイダーよ。やっぱお風呂上りはこれよね」



「サイダーおいし~!」



 ……コクコク。



「あ、美味い」



「サイダーも良いもんじゃの」



 火照った身体に爽やかなリンゴの香りと炭酸水が染み渡る。うん、やっぱ風呂上りはアップルサイダーだよなあ!



「はあ、しかしどうしたものか……」



「あら? ダフマちゃんなにかあったの?」



「ウェスタさん。実は最近、我の城であるこの店にスパイが出現しているらしいのです」



「ほう、スパイとな?」



「その話、詳しく聞かせてくれないか?」



「ああっそんな、詰め寄って来られては困りますホワイトさん……我の心の臓物が早鐘のように……!!」



「は? えっなに? 俺がなんだって?」



 ダフマが面白そうな話をしてたんで、ちょっと身を乗り出して聞こうとしたらめちゃめちゃ赤面された。



「ホワイトさんは女の子だけど、結構中性的な顔立ちでカッコいいですもんね。ダフマちゃん照れちゃったのね」



「ましゅまろばやし、かっこいい!」



「ほ、ほう……つ、罪な女じゃのう……くくくっ」



「おいそこ笑うな」



 あ、俺の今の顔面評価そんな感じなんだ。くそっ、男のままだったらモテモテだったかもしれないのに……。



「あーもうそれはいいから。ダフマよ、闇の炎に抱かれて消えたくなくば、スパイの件を俺に聞かせろ」



「ほおうっ……!! ホ、ホワイト様の仰せの通りに……!!」



「追撃してどうするんじゃおぬしは」



「は? なにが?」



 その後、何故か急によそよそしくなったダフマから聞いた話によると、ここ最近、ヘル&レイブンを利用した女性客達から、露天風呂に入っているときにどこからか視線を感じる、との話が寄せられているらしい。



「おそらく、管理の手の者が我のような魔族に友好的な人間をあぶり出すために監視や盗聴をしているのかもしれません……」



「まあ、それは怖いわねえ。フレイム、しばらく露天風呂の方に出るのはやめとこうね」



「え~」



「我もスパイがいないか調べたりしてるのですが、連中、中々尻尾を掴ませてくれません」



「フレイムのしっぽならつかめるよ!」



「モフモフじゃな」



 そういうこっちゃねえけどな。



「てかそれ、スパイっていうか……普通にただの変態じゃね? 女風呂にしか出ないんだろ?」



「男湯は父が見張っていますから、そうやすやすと手出しは出来ないでしょう。しかし、我は元々王国に目を付けられているブラックリスター、店に監視スパイが紛れ込んでいても不思議ではない……あっ、ちょ、顔近い……」



「まあそうか……そうかあ?」



「と、というわけで、我が店にいる時間帯に、女湯の露天風呂を見張ってスパイ捜索に協力してくれる人を探そうかと思っていたところです」



 まあ、王国のスパイにしろ、ただの覗きにしろ、もし本当にそんな奴がいるなら探し出して捕まえないと、俺もゆっくり風呂に入れない。



「ふむ、その任務、拙者とホワイトで請け負ってもよいぞ」



「そうだな、俺も同じことを考えていたところだ。ダフマ、どうだ? 俺たちに任せてくれないか?」



「そ、そんな、ホワイトさん自ら、我の為に……? えっ、すき……」



「いやお前の為ってか、俺含め女性客の為だけど」



「まあ良いではないかホワイトよ。ダフマの為に一肌脱いでやるのじゃ」



「調査の手間賃も払いますし、お風呂にも自由に入りに来てもらって構いません。是非ともよろしくお願いします。さあスパイめ、これで貴様はもう既に死んだも同然……社会的に」



「ま、調査は俺たちに任せてダフマは安心して働いてくれ」



 ポンポン、と彼女のおかっぱ頭を軽く撫でる。



「はぅ……っ!!」



「ダフマちゃん、のぼせてる?」



「なんで!?」



 というわけで、明日からヘル&レイブンでスパイ捜索をすることになったのであった。



 ……。



 …………。



「ダフマ、面白いやつだったな。それに風呂も気持ちよかった」



「そうじゃの。それにしてもおぬし……結構やるではないか。この女泣かせが」



「は? なにが?」



「拙者も気を付けんといかんかもしれんのう。あー怖い怖い、無自覚イケメン女さんは怖いのう」



 ちょっと何言ってるか分からないんですけど。



「二人ともやっと帰ってきたルナ。遅かったじゃないかルナ」



「すまんすまん、風呂が気持ちよくてつい長居してしもうたわ。それに、はぴねすエナジー解放活動の1発目が決まったのじゃ」



「それは本当ですかルナ!」



 ルナに湯浴み屋での話を伝える。



「なるほどルナ、湯浴み屋の監視スパイ……それはどうにかして見つけて捕まえなくちゃルナ。女の敵ルナ」



「ってか、ルナって性別とかあんの?」



 元々ウサギの着ぐるみみたいな恰好してたけど……今は完全にぬいぐるみだし。



「元々はルナもオスのはずじゃが、今はどうなんじゃ?」



「んー多分女の子……な気がするルナ。なんというか、心が乙女というか、可愛がってもらえると嬉しいというか……って、ちょっとマシュマロ林! ルナの服をめくるのをやめるルナ!」



「なんも付いてねえや」



 なんならパンツも穿いてない。裸白衣にガスマスク。



「マシュマロ林のエッチ! ルナ!」



 ガチャッ



「サタンちゃーん! あーそーぼ……」



「…………」



「あ、フレイムちゃんいらっしゃい」



「よく来たのじゃ」



「……今、ルナちゃんしゃべってなかった?」



「き、気のせいじゃない?」



「ほ、ほれ、拙者たちと遊びに来たのじゃろ? 何をするんじゃ?」



「あ、そうだった! えーとね、ロウソクの火の根本を指でつまんで消すゲーム! つまむ位置を上げていって、先に熱いって言った方が負けね」



「えっ怖!! やりたくねえ!!」



 異世界のキッズの遊び、闇のゲームすぎるだろ。

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