第12話 絶壁恐怖症



「おい、起きろ犯罪者」



 ゲシッゲシッ



「熱湯でもぶっかけてやろうかの」



 ドスッドスッ



「このまま起きないようなら風呂釜にぶち込んで地獄の業火に抱かれ消える運命……待ち受けるのは絶望」



「……はっ! 絶壁!? 怖い!!」



 女風呂の覗き魔の正体こと、第8エリアの管理者、ビネーガが目を覚ます。もちろん手足は縛ってある。そのまま眠っててもらったほうが楽だったんだがな、お互いに。

覗き魔確保に協力してくれたウェスタさんには、フレイムと一緒に帰宅してもらった。おとり捜査に協力してくれたとはいえ、自分の裸を覗きに来たヤツのそばにはいたくないだろう。



「おうおうおう、それにしても管理者貴族様が覗きとは良い趣味をしておるのう。しかも巨乳のおなごが入っている時を見計らって覗きにくるとは、女の敵じゃ女の敵」



「ヒ、ヒイィッ……!」



「なあ、この国って警察とか自警団みたいな職業の奴らはいないのか?」



「騎士団の一部が警備隊として活動しておるはずじゃ。じゃが、やつらは王国直属じゃからのう」



「以前の警備隊は、まあ多少は貴族層を優遇しているフシがありましたが、それでもそれなりに機能していたのです。しかし国王が今のサイザー様に代わってからは我ら庶民に厳しくするばかり……」



「貴族や管理者にはお咎めなしってか……」



 マジで腐ってやがるなこの国は。いや、腐ってしまった、か……。貴族と国王サイザー、コイツらをはやく何とかしないと。



「で? ビネーガ、おぬしの覗き行為も上からの指示だったりするのかの?」



「えっいや、その……」



「ただの巨乳好きの変態だと思ったが、ダフマが言った通り、管理者からの監視ってこともあるか……おいどうなんだビネーガ」



「あの、その……」



「まさか本当に我の店にスパイが潜んでいたとは。てっきり路上暮らしの姑息な変態ゴミクソ覗き魔だとばかり……さあ真実を話せビネーガよ」



 …………。



「………………ただの趣味です」



 判決、死刑☆



 __ __



「いや違うんだ! 私の話を聞いてくれ!」



「とりあえずコイツの目と玉を潰すか」



「目玉じゃなくて目と玉?」



「そうじゃな、目と玉じゃな」



 その後コイツを国の外に放置して、サタンにデビルアイランドにいるデスベアーさんでも呼んでもらって食わせれば証拠隠滅も完ぺきだな。



「ま、待ってくれ! 私の話を聞いてくれ! 私は……“絶壁恐怖症”なんだ!」



「……は? 絶壁恐怖症?」



「なんじゃそれ」



「ああ、実は私の上司である、この第8エリアの管理責任者ピックルス様が、大の絶壁好きでな」



「絶壁好き?」



「あ、胸の平らな女の子が好きってことです」



「「…………」」



「それで、事あるごとに私に絶壁の良さを語ってきたり、私にも絶壁を好きになるよう強要してきたり、あれはもう絶壁ハラスメントだ。絶ハラ絶ハラ」



「へぇ……」



「しまいには貧乳の女の子店員専門のおさわり酒場に連れていかれてな。まったく、なにを触るってんだよ。無だよ無。虚無」



「ほぅ……」



「そんな日々のストレスが積み重なって、私は貧乳が受け付けなくなってしまったのだ。この精神的苦痛を癒すには巨乳を眺めるしか方法が無いわけだ」



「……じゃあ、巨乳専門のおさわり酒場に行けばよいのでは?」



「私だって行きたいさ! 思う存分おさわりしたいさ! “ちゃんとしたおっぱい”を! でもピックルス様にバレたらどうなってしまうか」



「……それで? 我の店に?」



「いやあ、しかしあのウェスタとかいう娘のおっぱいは素晴らしいな……以前ボウギャークを仕向けたときに見かけて以来あの巨乳が頭から離れなくてな。私の絶壁恐怖症を癒す女神……」



 …………。



「なるほどね、ビネーガ、お前の言いたいことはよーく分かったぜ」



「おお、分かってくれるかそこの……なんだ女か。貧乳過ぎて男かと思ったぞ」



「よし、殺そう」



「そうじゃな」



「我も異議なし」



「あれっ!? 何故だ!?」



「何故だ!? じゃねえんだよ!! お前の話、ひとかけらも同情の余地なしじゃねえか!! おら!! 貧乳を愛せこのやろう!!」



「うわあああ絶壁に囲まれて死ぬううううう!!」



「失礼な! 我は絶壁じゃないぞ!」



「ウェスタと比べたら拙者たちとそんな変わらんじゃろ」



 高尾山とエベレストを比べるんじゃねえよ。



「く、くそっ! こうなったら最終手段! ボウギャーク!!!!」



 ビネーガは胸元のポケットに入れていた小瓶を口で掴み、放り投げる、すると小瓶が近くにあったアップルサイダーのビンにぶつかり……



 バアアアアアアン!!



「ボウギャーーク!!!!」



「うわあ!! アップルサイダーが巨大化した!!」



「あ、ボウギャークってあんな感じで出現するんだ。プ〇キュア方式ね、理解理解」



「こらホワイト、分析しとる場合か!! 拙者たちも変身するぞ!!」



「えー……? やっぱやんなきゃだめ?」



「変身!? 変身とはなんですかホワイトさん!?」



 めちゃめちゃダフマに見られてるじゃん。



「ギャーッハッハッハ! 貧乳滅ぶべし!!」



「あの野郎調子に乗りやがって……はあ、まあしょうがねえか。いくぜサタン!」



「いくのじゃホワイト!」



「「プリデビ☆トランスフォーム!!」」

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