第7話 元王妃候補の愚痴はエグイ


 

 【悲報】喫茶ペチカの店主ウェスタさん、王城から追放された元王妃候補だった。



「それじゃあウェスタさんは、ここで店をやる前はお城で暮らしてたのか」



「そうなんです。しかし私が王城暮らしをしている間に両親が亡くなって、幼い妹だけをここに一人で残すわけにはいかないので、許可を頂いて、王城の部屋に二人で住んでいたんですけど……」



 妹も一緒に連れていくことに対して、快く承諾してくれた国王には良い印象を持っていたらしい。最初だけは。



「なんというか、城で国王……サイザー様とすれ違ったときに、彼が妹に向ける視線がちょっとこう、ねっとりしているというか、クソキショイというか……」



「クソキ……えっ?」



「王室に呼ばれた時も、妹も同席させるように言ってくるんです。行ったら行ったで私のことは放置で妹にお菓子あげたり耳を撫でたり……キモすぎてぶん殴ってやろうかと思いました」



「ウェスタ殿?」



「最終的にあのクソケモロリコン野郎、妹とお風呂に入ってモフモフしっぽで背中をゴシゴシしてほしいとか言い出したんで、さすがに生理的に無理になって思わずビンタしちゃいまして」



「OH……」



「フレイムはブラシじゃないよ」



「そうじゃの。フレイムはボディスポンジでもブラシでもないの。ヨシヨシじゃ」



「えへへ……」



 幼女と幼女のたわむれは尊いなあ……



「ちょっと話聞いてますかホワイトさん!」



「は、はい! 続きをどうぞ!」



「それでまあ、ビンタされたことなんてなかったのか、アイツしばらく放心して動かなくなったので、その隙に妹を連れて王室から逃げ出しました」



 その結果、ウェスタさんは王城からの追放処分。そのうえで妹のフレイムちゃんは残してけとか言われたので、それを拒否って夜中にコッソリ二人で抜け出してきたらしい。



「なるほど、それで二人はボウギャークに追われて……」



「まあそんな感じなんですが、ボウギャークを差し向けた管理者の方が言うには、私がビンタしたことはどうでも良いらしくて」



「そうなんですか?」



 なんか王様って、そういうのにめちゃくちゃ憤慨してそうなイメージなんだが。



「“あのモフモフが忘れられない。どうしても妹に会いたいのでどんな手を使ってでも城に連れてこい。姉はもう放置で構わない”と……」



「…………」



 うん。いやあ……それはキショいわ。



「というわけで、お尋ね者として逃げているというよりは、妹を魔の手から守るために隠しているのです」



「おぬしも変なのに付きまとわれて大変じゃのう。しかも王様じゃし」



「うん。サタンちゃんもかわいいから気を付けたほうがいいよ」



 __ __



「2階が宿屋時代に使っていた宿泊部屋なんです。今は喫茶店のみの営業なので、お好きな部屋にお泊りください。もちろん家賃などは頂きませんので」



「なんか悪いね」



「そんな、当たり前です。お二人は命の恩人ですから。まあ殺されるのは私だけで、妹は生け捕りにされると思いますけど」



「……」



「それではごゆっくりおくつろぎください。下の喫茶店で食事もご用意させていただくので、いつでもお声がけを」



 笑顔でお辞儀をして1階へ降りていくウェスタさん。王様に対して以外は基本穏やかな人なんだよな。



「それで、これからどうするんだ?」



「うむ、とりあえず国王がケモ耳幼女好きの変態ということしか情報が無いからの」



 大スクープだけどな、それ。



「それじゃあ作戦会議を始めるルナ!」



 姉妹がいなくなったからか、おとなしくぬいぐるみのフリをしていたルナが喋り出した。



「ルナよ、おぬしフレイムにガン見されてたし、多分めちゃめちゃ怪しまれておるぞ」



「そんなバカなルナ! ルナは魔王様直属の天才博士ルナ!」



 いやバカだろ。



「んで、これからどうしてくって話だっけ?」



「そうじゃの。最終的には国王を倒すか改心させて、以前のように魔族と友好関係を築いていく方向に持っていきたいのじゃ」



「その為には、国王の下で庶民を管理している貴族連中をどうにかしないとだな」



 国内の状況を教えてくれたドブネズミ……もといシャドーラットによると、庶民が住む下層部は8つの管理エリアに分けられており、それぞれ国王直属の貴族が管理している。

この貴族達を倒して8つの管理エリアを解放し、はぴねすエナジーを増やしつつ、最終的には王政そのものをどうにかするのが目標ってわけか。

やれやれ、俺が元のニチアサ大好き子供部屋引きニートマンに戻れるのはだいぶ先になりそうだぜ。



「まずはルナたちが今いる、この第8エリアの解放を目指すルナ。街に出現するボウギャークを倒したり、国民の悩みを解決したりしてはぴねすエナジーを増やすルナ!」



「なんか本格的にヒーロー活動って感じになってきたな。ちょっとモチベ上がるわ」



「おぬしは変身したら破廉恥になるがの」



「俺がスケベみたいに言うんじゃねえよ。開発者が悪いだろ」



「プリティ☆デビルの変身コスチュームはその人の心とかによって姿かたちが決まるルナ。マシュマロ林の心が破廉恥なんだルナ」



「なんだお前プレイボーイのロゴみたいな顔しやがって」



 コイツの場合、胸元にあるの蝶ネクタイじゃなくてガスマスクだけどな。



「ええいしょうもない言い争いはやめんか! そんなことよりじゃ! まずはプリティ☆デビルとして活動するために決めねばならぬことがあるじゃろうて」



「決めること? ……ああ、なるほどな」



「ほほう、マシュマロ林、いやホワイトよ。おぬしなら分かってくれると思うたわ」



 まあ、こちとらニチアサ変身ヒーローアニメ現役世代だからな。



「サタン様、決めることってなにルナ?」



「それはのう……」



 変身ヒーロー、ヒロインに必要な物、それは……



「名乗り口上じゃ!」

「ヒーローネームだな!」



「……どっちルナ?」



 あれ?

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