第39話 炊き出しヒーロー(自腹)



「……にいちゃん腹減ったよう」



「この前貰ったパン、うまかったな……ん?」



「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 喫茶ペチカの美味しいホットサンド! 今回は特別にお値段のほう無料とさせていただきます!」



「ほれそこのはらぺこキッズたちよ! 無配じゃぞ無配! 早い者勝ちじゃから並んだ並んだ!」



「えっ? あ、ああ……」



 喫茶ペチカの定休日。俺たちは食材を買い込み、第7エリアの広場で料理の炊き出しを実施していた。

ちなみに材料費諸々は俺が負担した。正直中々の出費だったけど、これで飢えに苦しむキッズ達が減ってくれれば安いもんさ。

コンビニで買い物したお釣りをレジ横の募金箱にぶち込むのと変わんねえ。



「にいちゃん、教会でもないのに食べ物の無料配布は普通に怪しいよ」



「毒とか入ってねえよな……? 浮浪孤児一斉排除作戦とか……」



「管理局ならやりかねないよ……」



 いやクソほど疑われてるじゃねえか。管理局も管理局で毒盛りそうとかさすがにイメージ悪すぎだろ。



「おうお前ら、ウチの料理に毒だのなんだの失礼じゃねえか」



「あっこの前のねーちゃん!」



「ねーちゃんがやってるの?」



「ああ、まあな。それに……」



「皆様にハーピィエルフ様のご加護を……あ、どうも。第7エリア大教会のシスターハイドロです。ここのお料理はとても清らかです。最後の晩餐に相応しい……」



「さ、最後!? やっぱりこれを食べたら強制的に最後の晩餐になっちゃうんだ!」



「ならないならない」



「それはさておきあなたはハーピィエルフ様を信じますか?」



「信じてたからアンタ捕まってたんだろうが少しは自重しろ」



 料理に毒が盛られてるんじゃないかと訝しむ二人の前で俺が毒味をすることでようやく信じてくれた。人を信じられなくなった捨て犬に餌をあげてる気分だぜ……



「それにしてもホワイトさん、身銭を切って苦労されてる民草のためにお恵みを与えるとは……わたくしは感激いたしましたの。あなたが神か……えっもしかしてハーピィエルフ様ですか?」



「どう見ても違うだろうが」



 ちなみに今回は正々堂々第7エリアと第8エリアをつなぐ門から入ってきている。

普通なら一般庶民がここを通ることはできないのだが、今回は食材を調達してくれた商人ご一行を引き連れて炊き出しをやる旨を伝えて特例で許可が下りたのだ。

まさか管理局に抵抗する謎のボウギャークハンターだとは思ってもみなかったのだろう。



「もぐもぐ……お、おいしい……!!」



「うふふ、それはよかったわ。今度来るときは他のお料理も作るわね。材料費はホワイトさん持ちだし」



「うむ、腹が減っては戦は出来ぬからの。どんどん食って強くなるのだぞ。食費はホワイトが払うのじゃ」



「人の金だからってやりたい放題言いたい放題ですねあなたたちは」



 俺の金で食う炊き出しは美味いか? 美味いなら良いんだ。腹いっぱい食えよ。



「もぐもぐ……シスターのお姉ちゃんはハーピィエルフみたことあるの?」



「ええ、ありますの」



「えっあんの!? だって伝説上のアレなんじゃねえの?」



「ええ、あれはわたくしがまだ小さかった頃のお話になりますの……」



「あー長くなるやつだこれ」



 そう、あれはわたくしがまだ小さかった頃……ちょうど今のサタンさんくらいの時の話ですの。

エール王国から北へ進んだ先にあるエルフの森……ああ、そう呼ばれてるだけでエルフが住んでるわけではないですの。

で、そのエルフの森へキノコ狩りに両親と来ていたんですの。そしたら運悪く野生のデスベアーと遭遇してしまいまして……そのあとは皆さんご想像の通りですの。



「デ、デスベアー……やっぱりあいつら人間族を襲って……」



「いえ、デスベアーに驚いた両親はそのままわたくしを置いてどこかへ逃げ去ってしまいましたの。わたくしは身代わりですの」



「ごめん全然想像出来てなかったわ。滅ぶべきは人間族だなおい」



 そしてその場にはデスベアーはわたくしだけに……恐怖で声も出せずにただ立ち尽くすわたくし。そんな時でした。

いきなり空から羽の生えた人間っぽいなにかがわたくしとデスベアーの前に降り立ったのです。

そしてデスベアーの耳元でなにかをささやくとデスベアーは慌てて逃げていきました。

そう、あの方こそが伝説のハーピィエルフ様……



「それで、そのあとはどうなったの?」



「助けていただいた後、緊張の糸が切れたわたくしは気を失ってしまいましたの。その後、王国の入り口付近に倒れていたわたくしを門番の方が見つけて助けてくれたのです」



「なるほど、それで両親は戻らず、教会でシスターになったと」



「ええ、その通りですの。そして今ではわたくしがお姉さん。少年たちに布教するのはもちろんハーピィエルフ教。なぜなら彼らもまた特別な」



「おいそのヴェルター〇オリジナルみたいなやつやめろや」



 こうして俺が資金提供をして開催された第7エリア炊き出し会はたくさんの人たちに感謝されて終了した。

まあ、はぴねすエナジーを増やす一環で行ったことだから偽善っちゃあ偽善なんだけど、喜んでもらえてよかったわ。

いつか日本に帰ることが出来たらボランティアでもやってみようかな。



 …………。



 ズシン……ズシン……



「ボウギャアアアアク……」

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