第16話 おっさんの愚痴を聞く仕事



「すごいすごい! 二人がお店に出てくれてから売り上げマシマシよ!」



「はぴねすエナジーもマシマシルナ! すごいルナ!」



「いやラーメン屋ムーブはもういいって」



 喫茶ペチカで働き始めてからはや1週間。あれからビネーガやボウギャークが街に出現することもなく、俺とサタンは変身ヒロインウェイトレスとして平和な日々を過ごしていた。

いやなんで敵が来ないのに変身しないといけないんだよ。はやく制服作ってくれないかな……



「そっか、ルナちゃんは魔族だからはぴねすエナジーが必要なのよね」



「そうルナ。王国がデビルアイランドへの入園を禁止してるから、魔族ははぴねすエナジーが足りなくて大変なんだルナ」



 ウェスタさんとフレイムに、ここ最近の魔族たちとデビルアイランドの状況を説明する。

俺とサタンはそんなルナに賛同して、王国がまた魔族と仲良くできるよう働きかける活動をしている、という設定にしておいた。

この姿だし、サタンが魔王ってのは置いといて、俺が異世界人の元男性とか言っても信じてもらえないだろうしな。



「この調子ではぴねすエナジーを溜めていけば、必殺技も使えるようになるかもしれないルナ!」



 変身解除するのにはぴねすエナジーを消費してるから、普通のウェイトレスの制服着てたらもっと溜まってるはずなんだけどな。



「この感じでお客さんが来てくれるなら、少し営業時間を延ばしてバータイムもやりたいわね」



「ウェスタさん、結構商魂たくましいんですね……」



「あら、バータイムは私とホワイトさんでやるのよ。フレイムとサタンちゃんは子供だからお休みタイムだもの」



「へ?」



「頑張るのじゃぞホワイト」



「ましゅまろばやし、ふぁいと!」



「酔っ払いおっさんのセクハラ絡みに耐えてこその社会人ルナ!」



「最後のは炎上もんだろオイ」



 セクハラされたらプリデビパワーでぶっ飛ばしちゃるからな。



 __ __



 それから数日後、喫茶ペチカでは週に2、3日ほどバータイムを始めた。

夜は俺とウェスタさんだけなので、カウンターのみの営業だ。



「ウヘヘ、ウェスタちゃん相変わらず良い身体してんね~」



「ララちゃんを思い出しちゃうぜ」



「それお前が惚れ込んでたデビルアイランドのサッキュバスじゃねえか」



「ララちゃん、元気にしてるかな……うう、会いたい、会いたすぎて震えるぜ」



 それはアルコール中毒だろ。それか西野〇ナ。



「もう、二人ともセクハラで管理局に通報しますよ~」



「ひえ~おっかねえぜ、なあ兄ちゃん?」



「えっ?」



「おい、お前よく見ろって、サンデーちゃんは女の子だろうが」



「ん~? あっそうだった! おっぱいが全然ねえから男かと思ったぜ! すまんすまん!」



 こ、この野郎……確かに男っちゃ男だけどよお。



「おいオッサン……月の見えない夜には気を付けるんだな」



「あ、あれ、サンデーちゃんなんか昼間と違くない?」



「すんませんねえ。ちょっと酔っちゃったみたいで本性が」



「がっはっは! いいねえ~俺はそんくらいクールな方が好みだぜえ!」



 バータイムはほとんど酔っぱらったオッサンの話し相手って感じだな。昼より気使わなくていいから意外と楽だ。



「そういやサンデーちゃん聞いたかい? ここ最近、第8エリアの飲食店に露出狂が出没するらしいんだよ」



「え? ろ、露出狂……?」



 おいおいおい、くっそ面白そうな話持ってるじゃねえかオッサン。



「ああ、しかも客の入りが良いランチタイムにいきなり現れるらしくてな。なんでも、頭に壺みたいなかぶり物をしたロングコートの男らしい」



「メシ時にそんなもん見せられたらたまったもんじゃねえなあ」



 そんなことされたら、せっかく美味しいごはんを食べてハッピーな気分になっているお客さん達がテンション下げ下げになってしまう。



「それこそ管理局に通報しないと……」



「被害に遭った店が通報してるはずなんだが、一向に捕まる気配が無いらしい。周辺の警備にも人を回してくれないそうだ」



「それはなんだかちょっとおかしいわね。最近の管理局は以前より締め付けが厳しくなったけど、それでも犯罪者に対しては厳しく取り締まってたのに」



 なんか……ダフマの店の時と同じような雰囲気を感じるのは気のせいか……? 気のせいだと願いたいぜ……



「ウェスタちゃんも気を付けろよ。最近はペチカもサンデーちゃんとサタデーちゃんがきて賑やかになったからな。そろそろこの店がヤツのターゲットになるかもしれないぜ」



「ちょっとそれは、フレイムとサタデーちゃんには見せられないわねえ」



「ウェスタさん、俺は?」



「サンデーちゃんはそういうの平気そうだし、むしろドロップキックで撃退してくれそうだもの」



 むしろ同じ男として、アソコに蹴りはさすがに犯罪者でも遠慮しちゃうかもしれないけどな。



「ウェスタちゃんが露出してくれるんなら大歓迎なんだけどな!」



「がっはっは! そしたらはぴねすエナジードッパドパよドッパドパ!」



「サンデーちゃん、悪いんだけどこの二人のお財布だけここに置いて、残りは抹消してくれる?」



「オーケーボス」



「「すいませんでした」」



 それにしても、全然捕まらない露出狂か……嫌な予感しかしねえな……。

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