第32話 大教会
「で、第7エリアに来たわけなんだが……」
「なんというか、第8エリアよりも更に住民が陰気じゃの」
「陰気とか言うなってお前」
「3色チーズ牛串の焼き卵付きを食べてそうルナ」
なんだよその知ってそうで聞いたことない料理。ワンオペ串焼き屋台か?
「なんだお前ら、第7エリアは初めてか? 気力抜けよ」
そんな感じで第7エリアをウロウロしていたら、知らないおっさんに話しかけられた。
「いやおっさん誰だよ」
あと気力は抜かない方が良いだろ。
「ここはエール王国の第7エリアだ。特徴としては庶民エリア最大の大教会が設置されていることだな」
「ほう、大教会とな」
あれだ、とおっさんが指を差した先には、大きな時計のようなものが付いた立派な建物が見えた。
確かに、第8エリアにある教会と比べたらコンビニとメガドン〇ホーテくらいの差があるな。
「じゃあアレか。ここは敬虔な信者が多いから物静かな人が多いって感じなのか」
「いや実はな、今現在、大教会は本来の使われ方をしてねえんだ」
「どういうことじゃ?」
「元々エール王国の教会が信仰しているのは“ハーピィエルフ”っていう伝説上の人物なんだがな、今の国王様になってからこのハーピィエルフを信仰するのを禁止しちまったんだ」
「ハーピィエルフ?」
「ハーピィという魔族と、エルフのハーフじゃな。見た目は人なんじゃが、耳が長くて、両手が翼になっており、コカトリスのように強靭な足をしている、とされておる」
この世界、ウィーケンドには人間族と魔族の他にエルフという種族が住んでいると昔から噂されているが、このエルフはいわゆる未確認生物、UMA的な扱いらしく、実際にエルフと会ったことがある人というのは存在しないことになっているらしい。
「まあ拙者はエルフに会ったことあるがの」
「マジかよ、伝説の未確認生物なんじゃねえの」
「デビルアイランドでポップコーン食ってたのじゃ」
UMAがテーマパーク楽しんでんじゃねえよ。
「で、教会じゃそのハーピィエルフ様を信仰してたけど、王様が魔族嫌いなせいで禁止になってしまったと」
「まあそういうこった。他のエリアの教会なんかはマルチスペースとして活用されているらしいが」
教会の中にあるハーピィエルフの像を破壊したうえでな、とおっさんは説明する。
「大教会はどうなっておるんじゃ?」
「今は罪人の牢として使われてるぜ」
「……牢?」
「大教会は特に信仰心の強いやつらが多かったからな。教会を守るために管理者に歯向かった司祭やシスターが反逆者として捕まって、そのまま大教会を牢屋にして閉じ込めてんだ」
他のエリアにいた教会で反対運動をしていた人たちも、捕まったら第7エリアの大教会ビフォーアフター牢に入れられているらしい。
「じゃあ、クラウトに言われてたシスターがいるっていうのは……」
「おそらく、そこじゃろうな」
とりあえず大教会を目指してみるか。刑務所的な感じになってるなら簡単には入れねえかもしれんが。
「おっさん、説明してくれて色々ありがとうな」
「良いってことさ。……クラウト様によろしくな」
「おっさん、おぬし……」
こちらを振り向かず、片手を挙げて去っていくおっさん。か、かっけえ……
「俺もあんな漢になりてえもんだぜ」
「なんか村の入り口とかにいるNPCみたいじゃったの」
「そういうこと言うなよ」
モブおっさんだって需要はあるんだよ。一部界隈で。
__ __
「と、いうわけで本日は第7エリアの大教会にやってきたのじゃ!」
「観光レポーターかアンタは」
おっさんと別れてから俺たちは大教会へと向かった。教会には背の高い時計塔が付いていたので、それを目印にしばらく歩けば簡単にたどり着くことができた。
「つっても、これからどうするんだ? 牢屋なんて捕まらねえと入れねえぞ」
「それじゃあ本末転倒ルナ」
「マミー取りがマミーになってしまうのじゃ」
いやマミー取りってなんだよ、ミイラじゃねえのかよ。
「そういや刑務所とかだと家族が面会とかできたりするし、その捕まってるシスターの友達って設定でとりあえず会えたりしねえかな」
「うむ、それはナイスアイディーアじゃホワイト!」
「なんでちょっとネイティブなんだよ……それで、俺そのシスターの名前知らねえんだけど」
「クラウトさんから聞いた話によると、“ハイドロ”っていう女の子らしいルナ」
「ハイドロねえ……」
カー〇ィのエアライドのマシンみてえな名前だな。エンジンチャージするとくっそ早いんだよな。あんまし曲がれないけど。
「ドラグーンの方が強いよな」
「名前に強いも何もないじゃろ」
「女の子ルナ」
……。
…………。
「なに? 収容されている人に面会したい?」
「あ、はい……友達がその、ここの牢に入ってるらしくてえ」
「心配なのじゃ」
「じゃあ君たちももしかして、ハーピィエルフ信仰者ってことか? もしそうなら共犯者として話を」
「いや、俺……じゃなかった、わたし達は特に信じてたりはしてないんですけどお」
「心配なのじゃ」
「その面会したいって子の名前は分かるか?」
「あ、はい……ハイドラ……じゃなかった、ハイドロちゃんって子なんですけどお」
「心配なのじゃ」
おいなんでコイツさっきから心配なのじゃBOTになってんだよ。
「ハイドロ、ハイドロっと……ああ、3番地下牢に同じ名前のやつがいるな」
「あ、本当ですかあ? それじゃあもしかして面会したり……」
「そうだな……あまりそういうのは受け付けてないんだが、1つ条件がある」
「じ、条件ですかあ?」
「そっちの君」
「……む、なんじ……なあに?」
「『中に入らせて、お兄さん』と言ってごらん」
「…………」
「面会はなかったことに」
「ああ待ってくださいい!! ほらさーちゃん、お願い!」
「……中にはいらせてえ~おにーさんっ」
「よし、通れ」
スタスタスタ……ガチャン。
「あ、はぴねすエナジーが増えたルナ」
やっぱ終わってんなこの国。
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