第33話 シスター・ハイドロ


「ここが3番地下牢だ」



「あ、失礼します……」



 監視員に付き添いされながらハイドロが収容されている地下牢に入る。

元々は教会の施設として使われていた場所なので、あまり刑務所や牢屋のような雰囲気を感じない。



「ハイドロ、面会者だ」



「メンカイジャーですの?」



「いや誰だよ」



 新しい戦隊シリーズかよ。



「あら、あなた方は……」



「あ、わ~ハイドロ久しぶり。私よわたし、ホワイトよ」



 監視員に見えないようにクラウトさんから貰った『俺たちは協力者だぜバッジ』をチラ見せする。



「あ、あらあらホワイトさんではありませんか、お久しぶりです。ようこそ我が家へいらっしゃいましたの」



「いやここ地下牢だから」



 監視員も思わず突っ込んでしまう。なんだこのお嬢様風味のシスターは。天然ちゃんか?



「調子はどう? 最近」



「そうですねえ~毎日脱獄の機会を伺いながら過ごしていますの」



「いや脱獄するなよ。私の仕事が増えるだろうが」



 ごもっともです。



「ハイドロおねーちゃん、早くシャバに出てきてねなのじゃ」



「まあ、ありがとうですの……えっと、シャバってなんですの?」



「ほ、ほらさーちゃんもこう言ってるし、早く出所してねハイドロちゃん」



「……そうですね。綺麗な身体になってお月様を拝みたいですの」



「お天道様だろ」



 ……面会時間終了。



 __ __



「いや~、随分とクセの強い修道女じゃったの」



「俺たちが他人のこと言えねえけどな」



 牢屋の中なのに、どっかの貴族のお嬢様みたいな出で立ちだったな……仮に捕まってなかったとしてもシスターやってんだよな、あれが。えっあれが?



「それで、どうするルナ?」



「どうするってなにを」



「ルナたちの目的はハイドロさんをあの地下牢から連れ出すことルナ」



「そういえばそうじゃったの」



「すっかり忘れてたぜ」



 あの子を仲間にするのかあ……大丈夫かな。



「一応、また面会に来てもいいっていうふうに監視員の人からは許可貰ったけどな」



「拙者のおかげじゃな」



 サタンがウソ泣きをしつつ『ハイドロおねーちゃんにまた会いたい……』的な感じで監視員を骨抜きにした成果である。

この国の管理局の攻略法、分かってきたかもしれねえ。正直気付かないふりをしてたんだが。



「シャドーラットに侵入してもらってカギ開けるのはどうだ?」



「この間1匹捕まって駆除されたらしいルナ」



「話せんかったらただのドブネズミじゃからな」



「切ねえなオイ」



 ファンタジーな世界じゃねえのかよ。急に現実突きつけてくるじゃん。



「じゃあ次の面会の時にルナを差し入れてカギを開けてもらって……」



「事前の検査で色々調べられるらしいのじゃ」



「まあ、そりゃあ検査くらいはすると思うが……なんか問題あんのか? 別に武器とか持ってないだろ」



「中の綿とか抜いて武器とか隠してないか調べられるかもしれないのじゃ」



「そんなの嫌ルナ!」



「ちょっとくらい我慢しろって」



「じゃあマシュマロ林は綿を抜かれても平気ルナ? 人にされて嫌なことは他人にしちゃあいけないルナよ」



「小学校の道徳の授業かよ」



 俺が綿抜かれたらそれはもう雛見〇症候群なんだよなあ。



 ……。



 …………。



「それで、私に協力してほしいと?」



「あ、その、はい……」



「頼むのじゃシャーチクよ」



「シャーチクさんの力が必要ルナ」



 デビル☆サンデーに変身した俺は、必殺技『サンデーの、のーじょぶ☆制裁ストライク』を発動し、労働の神、シャーチクさんを召還していた。

なんでボウギャークのいないのにこんなことをしているのかというと、例のシスター・ハイドロ救出作戦の為である。



「次の面会でシャーチクさんを連れて行って、どうにかして面会中に監視員を離席させるから、その隙にハイドロと入れ替わってほしいんだ」



「おぬしはいつもこう、なんか異空間的なやつでいつも行き来しておるし、どこにいても自力で帰れるじゃろう?」



「まあ、確かに私なら可能ですが……さすがに業務外が過ぎるのでは?」



 それはそう。そもそもボウギャークを倒すための召還神だしな、シャーチクさん。



「そ、そこをなんとか……シャーチクさんにしか頼めないんですよ」



「お願いルナ」



「しかしですね……」



 シャーチクさんはなかなか首を縦に振ってくれない。仕方がない、ここは奥の手を使うか。



「……労働基準法」



「……いまなんと?」



「ハイドロが捕まっている留置所は労働基準法に違反しているんです。不当に逮捕されているハイドロ達を助けるのは労働の神の役目じゃないですか」



「労働の神の、役割……」



「お願いじゃシャーチクよ、拙者たちは真面目に教会で働いていた清貧なシスターを救いたいだけなんじゃ」



「たのんます!! シャーチクさん!! 仲間を救いてえんだ!!」



 ドン!! とSEが付く勢いで頭を下げる。海賊王に、俺はなる。腕は伸びねえ。



「……はあ、仕方ありませんね。この間下着も買ってもらいましたし、それのお礼ということで今回は手を貸しましょう」



「あ、ありがとうございます!!」



「恩に着るのじゃ!」



 これで後は次の面会日を待つだけとなった。



「よーし、絶対成功させるのじゃ!」



「でもシャーチクさんとハイドロさんは全然身長が違うルナ」



「シャーチクさん、身長縮ませたりできません?」



「できません」



「じゃあハイドロの身長を伸ばすのじゃ」



「いや無理だろ」



「一時的には可能ルナ。ルナにお任せルナ」



 なんか、不安しかねえな……。

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