第36話 ハイドロの行きつけ



 第7エリア管理局、管理責任者室。



「え~? ハイドロちゃん逃がしちゃったの~?」



「も、申し訳ありませんモッツァレル様! 気づいたら牢の中の人が変わっていて……」



「なんで気付かないのよ~そんなことってあんの~?」



「その、ハイドロに面会に来た子をトイレに連れて行ってる間に工作されたようでして……」



「それで地下牢留守にしちゃったの~? さすがにギルティっしょ」



「いやしかし、女児がですね、おしっこ漏れそうって言うから仕方なくですね……」



「言い訳は聞きませーん」



「……チッ、ババアが」



「は? 今なんつった?」



「いえなんでも」



 …………。



「で? どうすんの? 逃がした責任大きいよ君?」



「そう言われましても……」



「じゃあ、はい。これ飲んで街に行ってきて」



「な、なんですかこの小瓶」



「ん? アバレールZだけど」



 __ __



「ハイドロちゃん、俺の懺悔聞いてくれよ~」



「お酒追加してくれたら聞いてあげますの」



「あ、じゃあアースクエイクをジョッキで」



「アースクエイクをジョッキで!?」



「かしこまりですの~」



 いやマジかよ度数40%くらいあるカクテルだぞ。



「はいどうぞ、アースクエイクですの。それで何を懺悔しますの?」



「この間、保育園ガールズバーに行ったらさあ……」



「あ、これ俺が聞いたらアカンやつや」



 ハイドロの懺悔サービスが話題になり、最近は夜のバータイムでもハイドロに悩みや他人には言えない懺悔を打ち明ける人が多くなった。



「それじゃあ、今度はサキュバス保母さんバーに……」



「そうですね、それが良いと思いますの」



「いやなんも良くねえだろ」



 でもこの懺悔サービスやった後にめっちゃはぴねすエナジーが増えるんだよな。終わってるからこの国。



「それにしてもホワイトさん、わたくしを助けに来ていただいたときとだいぶ話し方と言いますか、雰囲気が変わりましたの」



「ん、ああそう?」



 まああの時はちょっとガーリー感出してたからな。だいぶ不評だったけど。



「こっちが素の喋り方なんで、まあよろしく」



「ワイルドでカッコいいですの」



「ハイドロちゃ~ん、なんか向こうのお客さん急に寝ちゃったんだけど」



「アースクエイクをジョッキで飲みましたの」



「ええっ!? アースクエイクをジョッキで!?」



「それさっき俺もやりました」



 平和だ……このままボウギャークも現れず、静かな夜を過ごして……



 ピコン! ピコン!



「ボウギャーク出現! ボウギャーク出現!」



「…………」



「ホワイトさん、これ何のアラートですの?」



「ああー……ちょっとまあ、なんだろね」



 ピコン! ピコン!



「ボウギャーク出現! 第7エリア! ボウギャーク出現! 第7エリア!」



「第7エリア!? なにか出現したんですの!?」



「いやーやっぱ夜はね、不審者とか出現しますし……」



「ホワイトちゃん」



「はい。行ってきます」



 チクショウ。俺のチルいナイトタイムが……



 ……。



 …………。



「はい、というわけでね。再び第7エリアにやってきたわけなんですけども」



「ねむいのじゃ……」



「ワクワクですの」



 プリデビ☆チョーカーのアラートを頼りに第7エリアへとやってきた俺とサタン、そして面白そうだからなんか付いてきたハイドロ。

ハイドロさん、アンタこの街で賞金首になってるけどだいじょぶそ?



「さてと、ボウギャークは一体どこに……」



「ねむいのじゃ……」



 フレイムと一緒に寝てたサタンをこっそりたたき起こして来たのでだいぶ眠そうなサタン。ちなみにルナはフレイムに抱き着かれてぬいぐるみと化してたので放置してきた。



「で、なんでハイドロさんまで来たんすか」



「第7エリアといえばわたくしのシマですの」



「シマって言うな」



 893かよ。



「でもまあ確かに俺たち第7エリアの土地勘無いから助かるな」



「なにか悪そうなやつがいる所を探すのじゃ」



 3人で夜の街を徘徊してボウギャークを探す。今回のボウギャークはあまり巨大ではないようで、見上げても発見することができない。



「第7エリアで悪いやつがいる所といえばここですの」



「ここは……普通の飲み屋っぽいけど」



「地下が喧嘩場になってるですの。お金も賭けられますの」



「違法地下闘技場じゃねえか。第7エリアそんなのがあんのかよ」



 大教会がある信仰の厚いエリアなんじゃないのかよ。



「どうも~ですの」



「おう、ハイドロじゃねえか。どうだ、一発やってくか?」



「今は何が開催されてるんですの?」



「デス・アームレスリングだ」



「デス・アームレスリング?」



「机の両端に画びょうを置いてやる腕相撲ですの」



 いやヤバすぎだろ。学級崩壊してるクラスの遊びみてえだな。



「オッズはどうなってますの?」



「それがなあ、めちゃめちゃ強いやつがいてそいつが無双してんだよ。正直賭けにならねえぜ」



「なるほどですの。とりあえず見に行ってみますの」



「おう、地下でやってるぜ」



 入り口のおっさんに別れを告げて地下の闘技場に降りていく。



「ハイドロ、お前もしかしてここの常連なのか?」



「大教会も資金源は多い方が良いですの」



 いや違法賭博はダメだろ。



「あ、なんかやってるのじゃ」



 地下の闘技場では、酒を手にしたおっさん達に囲まれて小さなリングのようなものがあり、そこで二人のアームレスリング選手が戦っていた。



「ぐっ……うおおおおお!!」



「ボウボウ……ボウギャアアアアク!!」



 バタンッ! グサッ!



「うぎゃああああああ俺の手の甲がああああああ!!!!」



「ミスター・ボウの勝利!」



「アイツやべえな」



「これで7連勝だぜ」



「これじゃあオッズも1倍台で当たっても全然儲からねえよ」



 どうやら入り口のおっさんが言ってた無双してる選手があのミスター・ボウとかいうやつみたいだ。

顔に仮面を付けているので素顔は分からない。分からないが……



「ボーウ!! ギャーク!!」



「いや、アイツ……」



「そうじゃのう……」



 普通にボウギャークじゃねえか。

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