3話-2
「……実際に話を聞いても、まだ実感が湧いてこない。ショウが超能力者で、しかもヒーローとして活動してたなんて」
「別に信じなくてもいいけど、絶対に他言無用で頼む。特に、叔父さんと叔母さんには絶対に言うなよ。……心配させたくないんだ」
翌日の放課後。
カラオケボックスの個室で、先日の約束通り俺が何故ヒーローを目指して活動していたのか、そしてその経緯の説明を終えたところだ。
……俺が炎を操る超能力者である事。
世間では超能力者の立場が不安定になってきており、その状況に危機感を覚えていた事。
そして考えた末の結論が、少なくとも自分だけでも受け入れてもらえるように、高校に入学する少し前からヒーローを目指すべく活動していた事を、初めて自分以外に打ち明けた。
「誰にも言わないから安心しろ。それにしても、自分の立場の為に正体を隠してヒーローとして活動ねえ。随分と面倒くさいことをしてるんだな。火力発電所にでもいけば、立場も職も保証されそうなもんだけど」
……確かに、俺の超能力は火種さえ用意しておけば、あとは燃料無しでずっと燃やし続けることもできる。
俺への負荷を考えなければ。
「それも少し考えたけどさ、長時間能力を使いすぎると疲れるんだよ。精神が磨り減っちまう。あと、火力発電所なんて今時、殆んど稼働してないだろ」
超能力も無尽蔵に使用できる訳ではない。
使用しすぎると精神的な疲労が蓄積し、最後には気絶してしまう。
……そしてそもそもの話、核融合発電の実現によりエネルギー問題がある程度解決してから何年も経っているし、火力発電は時代遅れだ。
「それに、普段の生活くらいは平穏に生きたいんだ。俺の能力がバレたら面倒なことになるかもしれない。……ヒーローを目指しているのは、あくまで俺が超能力者という事がバレた時の保険だ」
「……ふーん」
説明を聞いた二郎は、訝し気に俺の事を見てくる。
なんというか、俺の言う事に納得していない様子だ。
「ど、どうしたんだよ? そんな目で見て」
「いや、何でもない」
そう言うと二郎は、いつもの様子に戻る。
……さっき二郎から感じた雰囲気は、俺の気のせいだったのか?
まあ、気のせいならそれでいい。
それより、こっちも話したい事がある。
「そういえば委員長の事だけど、驚いたよ。まさか、あんなに行動力があるタイプだとは思わなかった」
あまり委員長の事は知らないが、昨日みせた勇気ある……というか、蛮勇ともいえる行動はかなり意外だった。
きっと、近くにいた二郎も驚いただろう。
「委員長が行動力のあるタイプ……? 何かあったのか?」
しかし、委員長の事について話した二郎の反応は、思っていたものとは違っていた。
何で委員長の事を話しているのか分からない様子だ。
「委員長が助けてくれたんだよ。俺とスピネっていう奴が戦っている間に、拘束されていた警官達を解放してくれたんだよ。……そういえば、委員長が危険を顧みずに動いてくれていた時に、お前は何をやってたんだよ? 昨日は委員長達と一緒にいただろ?」
……二郎は駅前にいなくて、あとから俺の前に現れたな。
「ああ、その事か。委員長や多田さんとドーナツ屋でお茶をしながら少し話をしてから解散したんだ。二人はまだ少し用事があるらしくて、俺は先に帰ったんだよ。それに、俺が昨日の事を知ったのは一度家に帰った後の話。もしその場にいたら、委員長達と一緒に逃げてたと思うぜ」
二郎が昨日の件に巻き込まれていなかったのにホッとすると共に、意外と慎重に考えていた事に驚かされる。
普段の言動がうるさいので、興味があるなら危険な場所でも首を突っ込んでくるものと思っていた。
「……そういえば、委員長とはどうだったんだよ? 昨日の結果、教えろよ」
二郎の口ぶりからして、結構早い時間に別れたみたいだし、あまり芳しい結果ではないだろう。
本来なら触れない方が良いのだろうが、俺が二郎を焚きつけたのだ。
なら、最後まで見届ける義務がある。
「話自体は結構盛り上がったぜ。昨日はすぐに解散したけど連絡先も交換したし、次回以降も期待できそうだ」
「……マジかよ。やったじゃないか」
予想していなかった結果に思わず驚いてしまう。
そんな俺の反応を見た二郎は、にやりと口角をあげる。
「ただ、ある意味ではお前の方に脈があるかもな」
「……はぁ?」
あまりに突拍子も無い二郎のその言葉に、思わずドキリとしてしまう。
……俺と委員長が、脈あり?
委員長との接点なんて、クラスメイトだという事くらいしかないし、俺なんかじゃ彼女には全然釣り合わない。
少しばかり動揺する俺を他所に、二郎は笑いながら話を続ける。
「予想通り驚いてるな。冴えない自分が委員長みたいな才色兼備の美少女と脈があるって言われたら、そりゃ驚くよな」
「……色々と突っ込みたいけど、今はやめておいてやる。それで、どういうことだ? 思い当たる節が無いぞ」
相変わらず、妙にムカつくニヤケ面を浮かべている二郎を問い詰める。
「俺のスクラップブックの中身を見ながら、ヒーローについて話してたんだよ。驚くことに、委員長もそれなりにヒーローの事を知っていたんだ。それで話がそれなりに盛り上がってたんだけど、お前の活躍を集めてたページになると、それまでよりも食いつきがよくなったんだよ」
「……ああ。普段の俺じゃなくて、ヒーローとしての俺に興味があるって事か」
少し驚いたが、それなら納得できる。
この数ヶ月、結構な数の犯罪者を相手にしてきたからか、最近は俺の活躍も記事になったりしているし、ファンが付く事もあるだろう。
故に、がっかりなんてしていない……筈だ。
「なあショウ、これはチャンスじゃないか?」
「チャンス? 何がだ?」
また変な事を言い出したな。
……いや、コイツが普段からアホな言動をしているからといって、今回も同じようにアホな事を考えているとは限らない。
ちゃんと話を聞いてから判断しよう。
「委員長の事に決まってるだろ。委員長はお前の事が好きなんだから、上手いことやればお付き合いできるかもしれないだろ?」
うん、こいつはやっぱりアホだ。
「……委員長が好きなのはクラスメイトの俺じゃなくて、この町でヒーローを目指して活動している俺だろ? むやみやたらに正体を明かす気はない。それに好意といっても憧れとか、そういう類の感情だろ?」
「今はそうだったとしても、お前がヒーローだって事を教えてやればだな――お、俺が悪かったから、そんな目で見るなよ」
案の定、アホな事を言い始めた二郎を思い切り睨みつけると、俺の視線に気づいてすぐに謝罪し始めた。
こうなるのはわかっているだろうに、黙っていればいいものを。
「そ、それよりも話の続きだ。別に正体を明かさなくても、お前がヒーローと知り合いとでも言っておけば、委員長と仲良くなれるかもしれないだろ?」
……まだこの話を続けるつもりとは、我が友人ながら真性のアホか。
「嘘をついてまで仲良くなるとか、馬鹿ばかしすぎる。そんな目的の為にヒーローを目指してないんだよ。……それに、今は恋愛とか興味ないから」
女の子にもてる為とか、そんなふざけた理由でヒーローを目指している訳ではないのだ。
……そりゃ俺だって、モテないよりはモテる方が良いとは思うけど。
「というか二郎、お前がヒーロー知り合いだって言って、委員長に近づけばいいじゃないか。嘘は言ってないだろ? ……正体さえ話さなきゃ、構わないぜ」
「それじゃあお前をダシにしてるみたいで気が引けるから、遠慮しとくよ」
……アホの癖に、妙な所で真面目な奴だな。
「そうか。とにかく、俺がヒーローをやっている事は誰にも言うなよ」
「わかってるよ。で? これからどうする?」
「どうするって……そろそろ退出時間だし、俺はこれからパトロールに行く。昨日みたいにヴィランが暴れまわるかもしれないからな。お前は気を付けて帰れよ」
もう話すことは無いし、今日の仕事をこなすべく立ち上がる。
とりあえず、二郎への口止めは完了した。
コイツはお調子者でいい加減だが、信頼はできる奴だ。
自分から誰かに喋る事は、多分無い。
……うっかり口を滑らせたりしないか、不安になってきたな。
「そうじゃなくてさ、俺は何をやればいいんだ?」
……こいつ、なんで俺にそんなことを聞く?
そんなの、自分で決めればいいだろうに。
「いや、さっさと帰ればいいだろ? それ以外にする事なんて――」
「お前のサポートだよ。一人で動くよりも、二人のほうが捗るだろ?」
二郎の言葉を聞いて、思わず頭を抱えそうになるのを何とか堪える。
……随分と面倒な事を考えてやがった。
「気持ちだけ受け取っておく。俺は今まで一人でやってきたし、何の能力もない一般人のお前にできる事なんて限られてるだろ? 何より、危険だ」
よし、今の断り方なら角が立たない筈だ。
そもそも俺自身の保身でヒーローを目指しているわけだし、他人を巻き込むのは御免被る。
「俺の事が心配なのはわかるが安心しろ。俺だって危険な事に首を突っ込む気はない」
そんな俺の思いを無視して、二郎は首を突っ込む気満々の様子。
……面倒なことになったな。
「別にお前の心配をしてる訳じゃない。……というか、どうやってサポートするつもりなんだ? パトロール中に俺の近くにいたら、どうやっても危険な目にあうぞ。」
「俺が一緒に戦うわけじゃない。さっきの話を聞く限り、自分で事件の情報を集めてから現場に向かってるんだろ?」
……そういえば先程、根掘り葉掘り聞かれた時に、そんな事も話した気がする。
「情報を集めるのも時間がかかるし、ヴィランどもと戦っている間は情報収集できなくて効率悪いだろ? だから俺が代わりに情報をお前に伝えるんだよ。そうすれば、ヒーローとしてもっと効率よく活躍できると思わないか?」
二郎の言う通り、情報を集めながらヴィランと戦うのには、少し無理があると感じていた。
それに、情報を精査する時間がなくて慌てて駆けつけたら誤報で徒労に終わったことも、何度か覚えがある。
……考えてみれば、一理あるかもしれない。
「もしも役に立てなかったら、すぐに辞めさせてくれて構わない。だから手伝わせてくれよ」
そうせがんでくる二郎の様子は普段のおちゃらけた物とは違い、真剣そのものだった。
「……わかった。そこまで言うならサポートしてもらおうじゃないか。ただし、俺が辞めろといったらすぐに――」
「よっしゃぁ!」
俺の言葉を聞き終えるより早く、二郎はガッツポーズを作り短い、雄叫びを上げる。
そこまで喜ぶようなことかよ?
「お、おい。人の話を最後まで――」
「まずはお前といつでもすぐに連絡できる必要があるな! 少し時間がかかるから、今日は一人でパトロールしといてくれ! それじゃあ、また学校でな!」
二郎が話を聞かずに部屋から飛び出していき、俺はその背中を呆然と見送るほかない。
……アイツ、支払いを俺に任せるつもりなのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます