3話-5

「お、オレを嘗めるなぁ!」


 フレーダーが怯んでいる隙に、ガイストバックル目掛けて拳を振るうが、寸でのところで立ち直ったフレーダーに受け止められてしまう。


「離せ! この野郎!」


 すぐさま受け止められた拳を引き抜こうとするが、フレーダーに捕まれた腕はビクともしない。


「腕一本、貰った!」


 そして、逃げる事のできない俺の腕に目掛けて、フレーダーの手が振り下ろされた。


「させるか!」


 空いている方の手でフレーダーを受け止めるが、お互いに両手が使えない状態になってしまい、どちらも離そうとしないが故に膠着状態に陥ってしまう。

 ……いや、フレーダーには超音波がある。

 基本的には手が空いていないと点火装置が使えない俺と違って、奴は叫ぶだけで超能力を使用できる。


「腕一本で済ませておいたほうが、よかったかもな!」


 俺がその事に気付いたタイミングで、フレーダーの口が大きく開くと、次の瞬間には凄まじい衝撃が俺に襲いかかる。

 先ほど自ら受けた時とは違い、至近距離で拳を掴まれているために逃げる事はおろか、衝撃を逸らすこともできず、ただ耐える事しかできない。


「くっ……」


 口を閉じたフレーダーが俺の手を離すが、俺はまともに立つことができずにその場でふらついてしまう。


「俺に勝てるとでも思ったのか? 馬鹿がよ!」


「ぐあっ!?」


 何とか立ち直ろうとするが、フレーダーに腹部を蹴り飛ばされ、地面を転がる。

 ……一瞬意識を失いそうになるが、この程度で寝ている場合じゃない。

 ふらつきながらも気力を振り絞って痛みを堪え、何とか立ち上がる。


「まだ起き上がってくるか。大人しくしとけばいいのによ」


「……勝てると思ったかだって? その言葉、そっくりそのまま返すぜ。勝つのは、俺だ」


 ……超音波をモロに受けた影響で、躰も頭も酷く痛む。

 だけど、この程度の痛みでヴィランに屈しているようじゃ、ヒーローになる資格はない。


「減らず口を叩く元気があるなら、もっと痛めつけてやる!」


 足元の覚束ない俺に、フレーダーは何度も拳を振るってくる。

 当然、俺だってただ攻撃をくらうわけにもいかないし受け止めようとするが、足元の覚束ない状態ではそれすらままならない。

 ……最初の数回は何とか受け止めたものの、一度攻撃を受けてからは数分に渡りフレーダーに殴られ続け、当然の結果として地面に膝をついてしまう。


「これが最後の勧告だ。オレたちの仲間になるというのなら、これ以上は――」

「……断る!」


 懲りずに勧誘してくるフレーダーへの返事代わりに右腕を振りぬくが、繰り出せたのは足腰に力が入っていない、へなちょこパンチ。

 啖呵を切っておきながら、あっさりと受け止められてしまう。


「そうか。そういう態度なら、もっと立場をわからせてやるよ!」


 フレーダーの蹴りが鳩尾にはいり、そのまま地面に倒れこんでしまう。


「ま、まだ――ぐっ!?」


 ……痛む体に鞭を打って立ち上がろうとするが、それよりも早く近づいてきたフレーダーに胸倉を掴まれて無理やり立たされた。


「……これからお前をボスの元に連れていくが、その前にお前の顔でも拝ませてもらおうか。そんで、一生消えない傷痕を残してやる」


 醜い顔をニヤリと歪ませながらヘルメットに手をかけ、素顔を暴こうとする。

 ……余計なことをしなければ良かったのに、馬鹿な奴!


「うおっ!?」


 突如として燃え上がった俺の頭部に動揺したフレーダーが、俺の胸倉からを手を放した。

 ヘルメットには二郎と通話する為のマイクやスピーカーが仕込んであり、その電源は腕に組み込んである点火装置から、スーツの裏地に這わせた配線を伸ばし、スーツの首裏の辺りに取り付けたコネクタを介して供給されている。

 つまりヘルメットを脱ぐ時に、同時に外れたコネクタから僅かだが火花が散るわけだ。

 小さな火花だか、俺の超能力をもってすれば逆転の一手になるには充分。

 ……火傷しないとはいえ、熱さは感じるし滅茶苦茶ツラいからあまり使いたくない手段だったが、ああしなければどうしようもなかったし仕方ない。


「油断したな! 」


 ヘルメットを被りなおし、頭部を覆う炎を消して体勢を整える。

 さあ、ここから反撃開始だ。


「はあぁぁぁっ!」


 これ以上ないであろう、絶好のチャンス。

 ダメージを受けた身体を鼓舞するために声を張り上げながら立ち上がり、拳に炎を灯す。


「喰らえ!」


 フレーダーの腹部にあてがわれたガイストバックルへ、炎の拳を叩き込んでやる。


「ぐうッ――」


 ガイストバックルを庇うように両手で腹部を抑えながら、その場でふらつくフレーダー。


「まだまだぁ!」


 すぐさま追撃を仕掛けて無防備なフレーダーを殴りつけ、後方へ吹き飛んだフレーダーだが、まだ意識はあるようで起き上がろうとしてくる。

 だけど、俺の方が早い!


「こいつでとどめ――!?」


 トドメをさすべくフレーダーの元へ走り出そうとしたその瞬間、足元の地面が砕け散った事で思わず足を止める。


「な、何だ!? どこから攻撃された!?」

 砕け散った面積自体は大したこと無ないが、舗装された地面を砕く威力に思わず背筋が凍るような感覚に襲われる。

 一体、何が起きたと言うんだ?


『そこまでです』


 頭上から響いてきた声に反応して視線を上げるとそこには、黒い装甲服と身に付け、ヘルメットで素顔を隠した怪しい人影が宙に浮いて此方を見下ろしていた。

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