3話-4

「おい、大丈夫か?」


 バックヤード入り口の扉を開き、人質の安否を確認する。

 俺の目の前には二人の店員と、偶然居合わせて巻き込まれてしまったであろう二人の客が床に転がされていた。

 皆一様に手足を拘束バンドで縛られて身動きが取れず、口もガムテープで塞がれており声を上げる事も出来ないようだ。

 ……そして、客の一人が知り合いであることに気付く。

 いつもの制服姿ではなく白衣を着ており、眼鏡までかけているせいで最初は誰か気付かなかったが、こんなところで多田さんに会うとは。


「知り合いが巻き込まれてるなんて……。いや、今はそんなことを言ってる場合じゃないか。大丈夫か? 助けにきたぞ!」


 気を取り直してもう一度声をかけてみても、反応が無い。

 人質たちに慌てて近寄り安否を確かめると呼吸はしており、外傷も見当たらない。

 多分、気絶しているだけだろうし一安心か。 

 ……さて、これから彼らを安全な場所まで連れていく必要があるが、一度に全員を運ぶ事はできない。


「ム……ム、ムガ!? ム、ムムガガガ!?」


 どうしたものかと考えていると呻き声が聞こえたので視線を向けると、多田さんが目を覚ましていた。

 彼女はすぐに起き上がろうとするが、拘束されているので当然身動きはとれないし、喋ることもできない。


「目が覚めたか。手短に説明するけど、俺は君たちを助けにきた。これから解放するけど、まだ君達を襲った奴が近くにいるからパニックになって逃げ出したり、騒いだりしないでくれよ」


 人質を助けていることがフレーダーにバレてしまうかもしれないが、目を覚ました多田さんを子のままにしておくわけにもいかない。

 とりあえず喋れるように、口に貼りついているガムテープを慎重に剥がす。


「ハァ、ハァ……た、助かったよ。突然化け物に襲われて、意識を失った時はどうなるかと……キ、キミは確か、この間の!」


 息を切らし落ち着きのない様子だが、俺の言う通り大きな声を出すことなく、多田さんは言葉を紡いでいく。

 ……どうやらスピネと戦っていた俺のことを覚えたていたようだ。


「時間は無いから詳しく説明できないけど、俺の言う通りにしてくれ」


 俺の事を覚えていて、敵意を持ってない様子なのは好都合。

 近くの机に置いてあったハサミを手に取り、多田さんの手足に巻かれている結束バンドを切ってやる。


「あの野郎、出てこないから倒したかと思えば、どこに行きやがった!」


 ……ドアの向こうからフレーダーの怒声が響く。

 どうやら、俺がこっそり移動していた事に気が付いたらしい。


「た……き、君に頼みがある。こいつで他の人を解放して、一緒に裏口から逃げるんだ」


 うっかり多田さんの名前を呼びそうになりながら、解放した彼女にハサミを差し出し、入ってきた扉に向けて歩きだす。


「ま、待ってくれ! キミはどうするつもりだ? あんな化け物を相手にしたらタダじゃ済まないし、ボク達と一緒に逃げたほうが良いんじゃないのか?」


 多田さんは俺を呼び止め、何をするつもりなのか問いかけてくる。

 確かに、フレーダーの超能力は厄介だし、パワーもスピードもガイストバックルの力で増している。

 ……彼女の言う通り、本当は逃げたほうが良いのかもしれない。


「誰かがアイツを足止めすれば、他の人は安全に逃げられる。今、この場でそれができるのは俺だけ。それに、この間も化け物は倒した。やられるつもりで戦う気はない」


「……キミの言葉、信じても良いのかい? すぐには気付けなかったけど、結構ボロボロだよ?」


 心配させないように振る舞ってはみたが、先程までの攻撃でダメージを受けていたことを見透かされてしまった。

 ヒーローを目指しているのに、助けるべき人に心配されるとは情けない。

 ……だが、上等。


「俺からは信じてほしいとしか言えないけど、他人の心配できるくらい冷静なら、安心して他の人を君に任せられる。後は頼んだ!」


 多田さんに後の事を任せると、勢いよく扉を開きフレーダーの元へと一気に駆け抜けていく。


「!? そこにいた――」


「これでもくらえ!」


 先手必勝。

 大きく振りかぶった腕を振り抜きながら、肘に付けた点火口からのジェット噴射で更にスピードを上げ、フレーダーの腹部……ガイストバックル目掛けて炎を灯した拳を叩きこむ。

 スピネと同じなら、ガイストバックルを破壊すれば元の姿に戻る筈だ。


「ぐおっ……」


 しかし、残念なことにガイストバックルを守るべく、攻撃を咄嗟に掌で受け止めるフレーダー。

 だがその表情は苦痛で歪み、呻き声をあげる。

 不意打ちの一撃なんだから、少しは効いてくれてないと困る。


「こ、この野郎!」


 瞳を憎悪でギラつかせながら、掴みかかろうと伸ばされたフレーダーの腕を、一歩下がってギリギリのところで躱す。

 狭い店内なら近づいたまま戦えるし、懐に潜り込んでいれば超音波を使われる前に攻撃できる。

 ……だけど、それはできない。


「こっちだ! ウスノロ!」


 フレーダーを挑発し、店の出口へ走り出す。

 このまま店内で戦うと、逃げ出す多田さん達に気付かれてしまうかもしれないし、それだけは避けないと。


「ウスノロだと! 嘗めやがって!」


 怒りで声を荒げるフレーダーが、俺目掛けて一直線に突っ込んでくる。

 ……あんな安っぽい挑発に引っかかるとは、想像以上に気が短いらしい。

 ただ、こっちとしては好都合だ。

 フレーダーの突撃をサラリと躱し、背中を蹴り飛ばして店外へと追い出す。


「やっぱりウスノロじゃないか」


「この――ぐえっ!?」


 背後から蹴り飛ばされた事でバランスを崩したフレーダーが何か言おうとするが、殴りつけて黙らせる。

 店の外に追い出せたし、これで多田さんたちは大丈夫。

 後はこのままガイストバックルを破壊して、フレーダーを倒すだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る