2話-5
「そ、そのヴィランを倒したのか」
背後からかけられた声に振り向くとそこには、周囲の人達の避難を終えて戻ってきたのだろう警官……叔父さんが、ピストルを構えて俺に照準を向けていた。
……明らかに警戒されている。
「……ああ、何とか。後は任せるから、今度は逃げないようにしっかり捕まえといてくれ」
「待つんだ!」
ガイストバックルは破壊してスピネは無力化できたし、俺の役目は終わりだ。
この場から立ち去るために歩き出した俺を、叔父さんが呼び止める。
「...何? 俺も暇じゃないんだけど」
「助けてくれたのは感謝するが、君にも事情を聴かないといけない。……俺と一緒に来てもらおうか」
……このまま何も言わずに立ち去らせてくれたらよかったけど、やっぱりそうくるよな。
それじゃあ、強行手段だ。
「悪い! 耳が遠くてよく聞こえなかった! それじゃあな!」
炎の壁を噴き上がらせて叔父さんの目をくらませると、圧縮されたバイクを取り出して即座に拡大して跨り、エンジンを回す。
「ま、待て!」
傍から見れば、俺も事情聴取されてしかるべき不審者。
警察からしてみれば今は自分達に味方していても、いつヴィランと化して悪事を働くかもわからない以上は拘束や身元の確認もするべきと考えているのだろう。
だけど、俺もはいそうですかと捕まる訳にもいかない。
警察から逃れるべく、バイクを加速させてこの場を後にした。
※
……スピネを倒し、バイクに乗って走り去る赤いマフラーを身に着けた男の後ろ姿を捉えた映像を眺める。
『……素晴らしい能力を持っている。スピネを失いましたが、彼の実力を測るだけの価値はあったみたいですね』
スピネの様な自分の身の程も弁えない人間は仮に今回逃げ延びたとしても、近いうちに力に溺れて身を滅ぼしていた。
いずれ失う駒と重要な情報を交換したと考えれば、スピネの犠牲も無意味ではない。
……炎を自在に操る、強力な超能力者。
必ずや、私たちの同志にすべき人材。
『……それにしても、あれほどの能力を持ちながら、なんでヒーローなんてしているのでしょう?』
暫しの間、彼がヒーローとして活動する理由について考えてみるが、答えはでない。
『……まあ、気にしても仕方ないですね。それよりも、どうやって彼を仲間にするかを考えなくては』
地位や金銭が目的でヒーローを行っているのなら、組織へ引き込む事も容易い。
そうでなければ少々面倒かもしれないが、その時はその時で考えれば良いだろう。
……もし彼が誘いを断るのなら、強引な手段をとる必要はありますが。
*
左の掌に付いている点火ボタンを押してみるが、点火装置が作動する事は無い。
「駄目だ。ここじゃ修理できない」
スピネとの戦いを終えて現場から離れた後、人気の無い路地裏でスーツの損傷具合を確認していた。
スピネの攻撃によって破損した左腕の 点火装置の修理を試みたものの、部品をほとんど丸ごと交換しなければ復元できない程に破壊されている。
「……修理するくらいならもっと頑丈に作り直すか?」
瓦礫による打撃に耐えられる素材へとカバーを変更することも考えるが、すぐに思い直す。
……こういう時、資金力や技術力があるヒーローなら悩む事もない。
しかし俺は、超能力者であるという事以外は普通の男子高校生。
自分で勉強してスーツの改造を行うにも、限界がある。
そもそも手持ちの資金がスーツの部品と、バイクの購入及び免許取得。
そして、バイクの外観を偽装するホログラム装置を取り付ける改造で尽きてしまった。
「またバイトでも……いや、ヴィランはこっちの事情なんてお構い無しだろうし、そんな暇はないな」
金が足りないからとバイトをすると、活動できる時間が少なくなってしまう。
その間、ヴィランたちを野放しにするわけにもいかない。
……ヒーローを目指すっていうのは、中々に大変だ。
「とりあえず、帰ってスーツを修理するか」
幸いな事に予備の部品はまだ残っているから、復元するだけなら家に帰ればなんとかなる。
そうと決まればこのまま帰る訳にはいかないし、まずは着替えよう。
「あ、あの! ちょっといいですか! ひょっとしてですけど、ここ最近この辺りで活躍している赤いマフラーのヒーローじゃ……え?」
制服へと着替える為にヘルメットを脱いだ瞬間、凄く聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
咄嗟にヘルメットを被りなおし、声のした方へと振り返る。
「え? しょ、ショウ……? ま、まさかお前が、赤いマフラーのヒーロー……?」
……視線の先で二郎が、呆気にとられた様子で立ち尽くしていた。
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