そして誰もいなくなった

 今回はアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』です。クローズド・サークルで、かつ見立て殺人です。みなさん、結末は知っているとは思いますが、念のため空白を作ります。

























 かなり空白を設けました。十分でしょう。再読でしたから、犯人の行動に焦点を当てて読みました。見事に他の9人を誘導しています。すぐさまに場を仕切ることで、主導権を握っています。判事という立場を活かして、です。判事ゆえに突然の出来事に対して理路整然としていても、誰も不自然に思わないのです。そして、読者からすると、探偵役のようにも見えるのです。



 そして、見立て殺人なのですが、ただ見立てるだけではありません。テーブルの上に置かれた人形を残りの人数に合わせることで、恐怖心を煽る。読者もその場にいるような没入感を与える。



 見立て殺人ですから、次にどうやって殺されるかは明白です。読者はページを戻して、童謡の箇所を見ればいいのですから。でも、当事者はそうもいかない。パニック状態ですから。



 そして、人数が減るごとに当然ですが視点も減ります。視点の移り変わりが早くなります。これにより、緊迫感が増す。



 何もかもが完璧に構成されています。




 この感想文では欠点は書かない、と最初に決意表明しています。しかし、この作品については書かせてください。



 人により感じ方は違うと思いますが、私は最後の首吊り自殺のシーンだけしっくりこないのです。運に頼りすぎているのです。果たして、人殺しをしたあとに自殺用のロープを吊るすだけでうまくいくのでしょうか。



 残りが完璧すぎるが故に、ほんの少しの、たった少しの部分が目立つのです。どうしても、作者の操り人形のように見えてしまうのです。



 まあ、私にはこんな作品書けないので、言える立場ではないのですが。




 何はともあれ、時間を忘れて勢いで読みました。面白すぎてページをめくる手が止まらず、五時間もしないうちに読み終わりました。さすが、クリスティーとしか言いようがない。



 今回はこの辺で。

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