月光ゲーム Yの悲劇'88

 今回は高校生時代にハマった有栖川有栖ありすがわありす氏(以下、著者)の『月光ゲーム Yの悲劇’88』について感想をつらつらと書きます。本書は私が執筆したいと思った原点でもあります。


 本書は本格推理小説です。よくミステリーでは「冒頭に死体を転がせ」と言われます。ミステリーは他のジャンルと違って、事件が起きる=一つの山場が来るまでにかなり読み進める必要があります。読者の関心を引くには冒頭が大事です。冒頭が面白くなかったら、すぐに読むのを止めてしまいます。これはカクヨムなどのWeb小説で顕著だと思います。

 本書では冒頭に死体を転がしません。その代わりに「」。かなり変わった冒頭です。これにより読者は「ミステリーで火山が爆発? どんな小説なんだろう」と興味を惹くことに成功しています。


 さて、本書は冒頭の火山の爆発により「本書はクローズド・サークルのミステリーです」と読者に明示します。こんな冒頭であれば、ミステリー好きとしては読まずにはいられません。本書の構成は火山の爆発、主人公の有栖川有栖が探偵役の江神二郎と出会うまで、山での殺人事件、読者への挑戦、解決となっています。


 本書の探偵役の江神二郎ですが、かなり魅力的です。ミステリアスでありかつカッコイイです。これ以上書くと長くなるのでここでやめにします。

 登場人物は大学生です。彼らのわちゃわちゃした青春を読むだけでも楽しいです。私の場合は「こんな青春を送りたかった」となりました。


 さて、本書は本格推理小説ですが、単に殺人が起きて解決して終わりではありません。途中で「マーダー・ゲーム」なるエピソードがあります。端的に言えば「誰が犯人か当てるクイズ」です。これが本作を重厚にしている一つの要素です。このゲームがあることで、実際に起きた殺人事件の重大さ、深刻さが際立ちます。


 そして何より本書には「読者への挑戦」があります。つまり「読者が自身の推理で解決することもできる」のです。これは最近のミステリーにはほぼ存在しません。もちろん、自分で推理しなくても解決パートを読めば真相は分かります。でも、「読者への挑戦」があるとどうしても自分で謎を解き明かしたくなります。これも本書の魅力の一つです。


 また、本作品はパラレルワールドになっています。学生の有栖川有栖が「作家アリスシリーズ」を執筆し、作家の有栖川有栖が「学生アリスシリーズ」を執筆しているという設定です。「作家アリスシリーズ」も併せて読むことで、より面白さが増すかもしれません。


 以上、本書の感想でした。

 著者の名前・有栖川有栖はかなり印象的で面白いと思います。この名前のおかげで他の作家より名前を覚えやすいです。本シリーズは長編五作で完結予定です。五作目が出版されるのを首を長くして待っています。


 今回はこの辺で。

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