19 異色の冒険者パーティー その四

 戦闘中は必死だったが、よくよく考えたらやり過ぎてしまったことに気付く。

 ……というのも、再びエドが突っかかってきたからだ。


「お前ら、何なんだ? おかしいだろ? 俺たちで二匹だぞ。なのに五匹って……。何かズルをしたのか? あの試験官とグルだったとか、他に仲間がいるとか」


 他に仲間がいたからといって、ズルではないけど……

 そう言いたい気持ちは分かる。

 一人で三頭狩った者もいたが、三人でチームを組んでいたとはいえ五頭というのは一番の成績だった。それが、こんな子供なのだから疑いたくもなるだろう。

 こっちとしては、襲われたから仕方なく倒しただけなんだが……

 この結果に、あのデカイ試験官も、三人と手合わせしたいとか冗談を言ってきたほどだ。


「全部、ミミのおかげだよ」

「ミミってアレか。風猫人族フェルミアの……」

「そうそう。私たちはミミのサポートをする係。それがたまたま上手くいっただけだよ」


 たぶんこれが、一番無難に話を収める方法だろう。

 納得はしていないようだが、エドも風猫人族フェルミアならあり得るかもと思ったのだろう。

 険しい表情で私を睨むと、舌打ちを残して去っていった。


 ホッとしている場合ではない。

 ルナとミミに相談する。


「さっきの戦いで、私たちが普通じゃないかもって疑われてるみたい」

「じゃが、そうせねば、ワシらが危なかったからのう。仕方あるまい」

「私もそう思うんだけどね。終わったことは仕方がないから、あれは必死だったからとか、運が良かったってことにして……。この後の解体は、子供っぽくするように頑張ろう」


 ルナが顔を曇らせる。


「私、獣の解体なんて、分からないです」

「それが普通だから落ち込まないで。やっぱりこの場合、私たちがミミから教わりながらって感じがいいよね?」

「そうじゃな。それが無難じゃろう」


 こうして三人は、六歳児だと思われるように頑張ると、再び確認し合った。

 だけどこれが、合格するために頑張るぞ、という意志表示に見えたのか、他の受験者から「頑張れよ」などという、エールが飛んできて……


「あ、ありがとうございます」


 私も、少しは子供っぽく振る舞うのに慣れてきた……と思う。

 驚いても取り乱さず、とっさにお礼の言葉を口にして、子供っぽくぴょこんと元気に大きなお辞儀をした。


     ───◇◆◇───


 もともと、私は解体が得意だった。

 だけどそれは、大きな体格とパワーに頼ったものだったのだと知った。

 解体の知識があっても、それを行うための身体能力がなければ、なかなか上手くいかない。

 それに……


「冒険者たるもの、狩った得物は自分で捌くのが基本。獣は素材の宝庫だ、決して無駄にするな。余すことなく全てを利用しろ」


 試験官からそう言われ、私たちの前には五頭のシムルンウルフが並べられた。

 全て、私たちが倒したものだ。

 私の力では移動させるどころか、転がすだけでも大変なのに……


「早く作業を終えないと、死肉を狙って別の獣が寄って来るぞ」


 そんな言葉で、試験官が急げと尻を叩いてくる。

 こうなれば仕方がない。


「ごめん。時間がないみたいだから、役割分担をしよう。私とルナで洗うから、ミミは解体の準備をお願い」

「うむ、分かった」


 見た感じ、ギルドでしっかりと血抜き処理をしてくれたようだ。

 まずは試しに、一番小さなものオオカミから始める。

 牙や爪に気を付けながら、ルナに動かすのを手伝ってもらって、毛皮や口の中などの汚れを丁寧に水で洗い流していく。


 ここに受験者は九人しかいないのは、二人がリタイアしたからだ。

 いきなりあの状況に放り込まれたら、恐怖に負けてしまっても仕方がない。

 それにしても、一番小さなオオカミでも重い。


「やっぱり、私ひとりじゃ動かすだけでも大変だな」

「任せてください。こんな……感じですか?」


 ルナのパワーが羨ましい。


「洗い残しはなさそうだし、こんなもんかな……。ルナ、その台の上に乗せるよ」

「はい。それでは、いきますわよ? せーのっ!」


 ドンッと台の上に乗せて、こちらはミミにお任せする。


「ミミ、ひとりで大丈夫?」

「なあに、問題ない。内臓を抜くだけじゃからのう」


 まあ、それはそうなんだが、身体が小さくなると勝手が違う。

 そういえば、この台だけ、他の半分ぐらいの高さになっている。これもギルドのほうでわざわざ用意してくれたのだろうか……


「じゃあ次は、元気なうちに、一番大きいのをやってしまおうか」

「これですね。そちらの足を持って……、せーのっ!」


 内臓モツ抜きの次は、皮剥ぎだ。

 流水にさらしてあるオオカミを引き上げて、三人で毛皮を剥ぎ、首を切り落とし、肉を各部位に切り分けていく。


「こういうの、ルナは平気なの?」

「こう見えて、お料理は得意なんですよ」

「そうなんだ。でも、トドメを刺すの、怖がってなかった?」

「いえ、そんなことはないですよ?」


 私の問いに、なぜかルナは不思議そうな表情を浮かべる。


「でも、戦いが終わった時、震えてなかった?」

「あっ、あれは……」


 なぜか口ごもると、頬を赤く染めて目を逸らした。

 言いたくないのなら無理に聞き出すこともないのだろうが、パーティーメンバーとしては、何に怯えていたのかを知っておく必要がある。


「何を怖がってたの?」

「それは……、ユキちゃんが怪我をしたから……」

「私? 私のことを心配してくれたの?」


 コクリとルナがうなずく。

 あの後、ギルドの霊法術士が治療してくれたので、包帯は取れたし、傷跡も残っていない。

 それに、あの程度なら、放っておいても数日で治っていただろう。

 でも、私が怪我をしたことでショックを受けたってことは……


「そっか、原因は私だったか……」


 ユークリットは、彼女を助ける為に命を落としたことになっている。

 たぶん、私の負傷を見て、ユークリットの記憶を重ねてしまったのだろう。


「頼りなくて、ごめん。もっと強くなるから」

「いいえ、私が強くなりますわ。今度は私がユキちゃんを守ってあげますからね」

「一緒に強くなろう」

「はい」


 そんな、いい雰囲気の中……


「では、次、いきますわよ。……せーのっ!」


 二人で最後のオオカミを水から引き上げ、台の上にドンと置いた。


     ───◇◆◇───


 台の上をキレイに掃除して、解体した素材を並べる。

 どうやら最後にはならなかったようなので、少し安心した。

 合否判定の基準が分からないが、及第点は超えていると思う。


「よう、終わったようだな」

「はい、なんとか」


 使った道具を洗っていると、試験官バーンズがやってきた。


「ああ、こっちは気にしなくていいぞ。勝手に検品するから、そのまま最後まで作業を続けてくれ」

「はい。よろしくお願いします」


 つまり、道具の片付けも作業のうち、というわけだ。

 たぶん、これも査定に入っているのだろう。

 手を抜いたつもりはないけど、もう一度しっかりと確認しておく。

 洗い物が苦手なミミを二人で手伝い、最後に長靴と手袋を洗って……


「こんなものかな」


 よし、完璧だ!


「よし、終わったな。なら次は、料理の時間だ。この肉を持って係員について行ってくれ」

「おお、料理とな? ちと腹が減ったからのう。肉料理、楽しみじゃな」

「お前たちで作るんだぞ?」

「へっ?」


 嘘でしょ? ……って感じで表情を曇らせる。

 ミミのリアクションが面白かったのか、試験官バーンズは愉快そうに笑い声を上げた。

 この反応を見るに、私たちの印象は、それほど悪いわけではなさそうだ。

 できれば評価のほうも悪くなければいいんだが……


「ほら、これを持っていけ」

「はい、ありがとうございます」


 うっ、結構重い……


「私が持ちますわ」

「ありがと、ルナ」


 結局のところ、試験は解体までだった。

 料理はいわば余興で、ご褒美のようなものらしい。

 そこでは、ルナの独壇場だった。

 さすが、料理が得意と言っていただけのことはある。


「私、身体が弱かったので、体調の良かった日は、よくお料理をしてましたのよ」


 料理なら私もそこそこ作れるが、ルナの料理は店で出せるレベルの美味しさで、私もミミも大満足だった。ついでに試験官や受験者、ギルドの職員たちにも大好評だった。


 自分で仕留めた獲物を捌き、料理して食べる。

 試験官バーンズは、試験を通じで、冒険者の基本、生き残る術を体験させたかったのだろう。

 結局、試験を最後まで乗り切った九名全員が合格した。

 そして……


「三人とも合格できたのね。本当によかったわ」

「ありがとうございます、ルベイラさん。よろしくお願いします」


 ウサギ耳が無ければルナと同じほどの身長の、軽兎人族イルクスの受付嬢ルベイラさんが、私たちの担当になった。

 そして、ユキ、ルナ、ミミの三人は無事にFランク冒険者となり、三人の六歳児で結成された「花鳥風月」がパーティとして登録された。

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