22 花冠に感謝を込めて そのニ
今日の配達依頼も、何とか騒ぎを起こさずに達成することができた。
それに、この仕事のおかげで、知り合いも少しずつ増えている。
「冒険者の新人さんに、こういった雑用の依頼を受けていただくのは、このルシルの町のことをよく知ってもらうためです。それに、新人さんのお披露目と、新人さんにお店のことを紹介することも兼ねています」
それが、
ついでに……
「町の人と仲良くなれば、何か起こった時に町を守ってもらえるかもっていう打算もありますけど、花鳥風月のみなさんは危なくなったら逃げて下さいね」
そんなことまで教えてくれた。
もちろん半分以上は冗談だろう。でも、魔族や害獣、賊の類や自然災害など、危険なことはいくらでもある。
そんな非常時に冒険者が率先して協力すれば、ギルドの存在価値が上がる。
それでも、私たちに逃げて欲しいと言ったのは……
深読みすれば、動員した子供に被害が出れば評判が落ちるだとか、不慣れな子供は足手まといだとか、いろいろと考えられるが、あのルベイラさんだけに、純粋に私たちのことを心配してくれているのだろう。
「ただいま」
アパートの部屋に入り、フードを外す。
「おかえりなさい、ユキちゃん」
「ユキ、無事じゃったか。遅かったのう」
この様子だと、二人の依頼も無事に終わったようだ。
「ごめん、ごめん。ちょっと武器屋で剣を見せてもらってた」
「ほう、剣じゃと? じゃが、使えぬと言うておったではないか?」
「私でも使える剣を探そうと……って、これ、なに?」
キッチンのテーブルに、荷物が山のように積まれていた。
しかも、テーブルに乗り切らなかったのか、横の床でも山が築かれている。
「いや、参った。小腹が空いたからと、途中で団子を買うたのじゃが、そしたら気付かれてしもうてのう」
「騒ぎになっていたので、見に行ったら、私まで巻き込まれて……」
「心配せずとも、ユキの分も預かっておるぞ」
ほれ、ほれ……と、ミミが満面の笑みでホットドッグを見せてくる。
「いや、別に、私の分のことは心配してないけど。二人とも無事でよかった」
「いつもは、ほれ、仕事が忙しいんじゃろう思うて遠慮してくれておったのじゃが、買い物中なら構わぬじゃろうと……結果、こうなってしもうた」
「えっ? それって……」
「ふむ、ワシらのことに気付いても見ぬフリをしてくれておったようじゃぞ。じゃから、たまにはこうやって交流を深めるの良いかもしれぬのう」
焦れた末にタガが外れた結果こうなった。ならば、普段から適度に交流しておいたほうが、騒ぎが大きくならなくて済むってことなのだろう。
だが……
「さすがにコレって変じゃない? 疑ってるわけじゃないけど、魅了は使ってないよね?」
「無論じゃ。普段がコレじゃから、恐ろしゅうて使えぬよ。どうやって使えば良いのかも分からぬ」
ミミからは普段から人を惹き付ける力を感じるので大人気なのは分かるけど、ルナも同じようなことを言っていたし、私も心当たりがあり過ぎる。三人ともとなると、さすがに何かあるのではと勘繰りたくなる。
それに対する答えは……
「三人はヴァンパイアにゃ。ヴァンパイアは美形と相場が決まってるにゃ。魅了を使わなくても、人を惹き付ける力があるにゃ」
不意に現れた
たしかに二人は美形だと思う。それにヴァンパイアだからと言われたら、納得するしかない。
「デメリットがないヴァンパイアって、恐ろしいな……」
「何を言っておる。ユキよ、お主がその親玉なのじゃぞ?」
「そうだった……」
別に忘れていたわけではないが、私はヴァンパイアシードと契約して真祖というものになった……らしい。
古代の遺物で作られた、仮初めのヴァンパイアなのは分かっているが、何を思って古代の人たちは、こんなものを生み出したのか……
まあ、なってしまったものは仕方がない。
それで命を救われたのは事実だし、この力でルナが幸せに過ごせるのなら文句は無い。欲を言えばこれからも、三人で楽しく過ごしていければと思うが。
「ユキちゃん。剣を買うのです?」
ルナと目が合うと、そんな質問が飛んできた。
そういえば、その話の途中だった。
「いやいや、買えないって」
「いや、十分買えるじゃろ?」
ミミから十分な資金を受け取っているので、それを使えば余裕で全ての装備を新調することができる。だが、そういう意味ではない。
「こんな子供が、大金をポンと払って買い物したら、怪しまれるよ」
「なんじゃ、そういうことか。であれば、ルゥを同行させれば良かろう。もうすぐ来る頃じゃし、頼んでみよう」
「でも、ルゥさんも忙しいのでは? 宅配の仕事とか……」
「済まぬ。あれは嘘じゃ。ルゥはワシの世話係じゃから、心配せずとも良い」
まあ、そうだろうな……
保護者になってもらった時から、なんとなくそんな気がしていた。
だから、驚きはない。
「その武器屋さんに来週も行くんだけど、もしよかったらルナも一緒に行く?」
「はい。ぜひ、お願いします」
「ミミも行くよね?」
「無論じゃ」
「じゃあ、仕事が重ならなかったら、ルゥさんを入れて四人で行くって、武器屋さんに伝えておくよ」
メッセージを投げてルゥリアさんに事情を説明してもいいけど、もうすぐ来るならその時でもいいだろう。直接話したほうが誤解が生まれにくい。
で……
「……コレ、どうしよう?」
プレゼントの山を指差す。
「せっかくの好意なのじゃから、有効活用せねばな」
食べ物が多いが、
服やアクセサリーなど、高価そうなものもあるし、中にはどこかの民芸品のような木彫りの馬なんてものもある。
これを一人で整理するとなったら気が滅入るだろうけど、三人で中身を確認しながらプレゼントの山を崩していくのは、思いのほか楽しかった。
せっかくだからとホットドッグを頬張りつつ、笑い合いながら作業を進めた。
───◇◆◇───
なぜこの様なことに……
それは突然現れました。
ワタクシにトゲを刺し、霊力を吸い取り始めました。
何度も何度も振り払いましたが、それでもしつこく迫り、張り付き、果ては巻き付いて、執拗に霊力を奪い続けました。
このままでは、この地の霊力が全て奪われてしまいます。
そうなれば、この地の植物は枯れ、命が失われ、死の荒野となり果てます。
せめて、このモノが解き放たれないようにと押さえ込んでおりましたが、そろそろ限界が近いようです。
ワタクシはこのまま消えるでしょう。
そうなれば、この地は荒野となり、このモノは新たな餌食を求めて彷徨い始めるでしょう。
それだけは、何としても阻止しなければ……
誰か……
このモノを滅してください……
命に満ちた、この大地を守ってください……
誰か……
誰か…………
───◇◆◇───
「ルナ? どうかした?」
「いえ……」
開封の手を止め、いきなり周りに視線を走らせたルナの様子が気になって、声を掛ける。
それでもしばらく不思議そうに視線を彷徨わせた後、小さく首を傾げた。
「なにか……聞こえたような気がしたのですが、気のせいでしょうか……」
「何かって?」
「滅ぼせ……とか、誰か、命、大地……あと、守って? よくわかりませんね」
「滅ぼせって、怖いな……。幻聴……じゃなかったら、虫の知らせとか?」
なんにせよ、意味が分からない。
「ワシも何やらゾワゾワしておったが、声は聞こえなんだのう。ルナが聞いた言葉も、滅ぼせと言ったり、守れと言ったり、よく分からぬな」
「幽霊……でしょうか?」
「隣の部屋で、凄惨な殺人が行われたからのう」
冗談だとは分かっていても、私の立場では笑えない。
ユークリットの部屋で、王女を暗殺しに来た刺客が、貴猫姫さまに惨殺された。
その幽霊が、この部屋を彷徨っていると考えたらゾッとする。
だけど、私よりもルナのほうが心配だ。
「大丈夫だから、ルナ、落ち着いて。幽霊なんていないから……」
その直後、三人が一斉に身体を強張らせる。
来客を告げる音が鳴り、
たぶん、三人の
それが可笑しくて、顔を寄せて笑い合う。
入って来たルゥリアさんは、目を輝かせて私たちを見つめる。
「みなさま、何やら楽しそうですね」
「ルゥよ、見事なタイミングじゃったぞ」
「……? 何がですか?」
不思議そうにしているルゥリアさんの疑問に答えないまま、ミミは何やら不可解なことを言い始める。
「まあ良い。して、ルゥよ、準備は整ったかの?」
「はい。全て
「そうか、ご苦労じゃった。コレを終えれば模様替えじゃな」
模様替え?
「ミミ、何をするの?」
「なんじゃ、言っておらなんだか?」
私とルナは顔を見合わせて、何の事かと首を傾げ合う。
「ルゥはワシらの保護者じゃからな。今日から、ここで一緒に暮らすのじゃよ」
「「ええ~っ!?」」
なぜか、衝撃発言をしたミミ自身も、声を合わせて驚いたフリをする。
「なんでミミちゃんまで……」
そこまで言って、ルナがくすくすと笑い出し……
ひとしきり笑った後はルゥリアさんを歓迎し、みんなで模様替えを頑張った。
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