第47話〜シャンタルさんの沈黙〜
「頭領、どうされたでござるか?」
シャンタルさんの異変に気付いた半蔵さんが心配そうに声をかける。
半蔵さんはシャンタルさんを心配するものの、俺をギロリと睨んで牽制してきた。
「あっ、いえ、大丈夫よ……あの、トール? さん、一つお聞きしてもよろしいですか?」
ようやく口を開いたシャンタルさんが俺にそう声をかけてきた。
なぜか名前を疑問形で呼ばれている気がする。
俺がうなずくと同時に、シャンタルさんが言葉を重ねていく。
「その、ですね……あなたさまはもしかして……【攻略者ササッキー】なんですか?」
「ササッキーでござるか!?」
「全魔王攻略者……ササッキー……トールが?」
シャンタルさんの言葉に半蔵さんとリディアさんが驚いた声をあげた。
そして同時に俺を見てくる。
「ああ、俺がアポカリプスオンライン完全攻略者の【ササッキー】だ」
シャンタルさんの確認に応えるように俺が名乗ると、二人は大きく口を開けたまま固まるのだった。
シャンタルさんはそんな二人に苦笑いを浮かべつつ、困惑しながら言葉を続けた。
「お会いできて光栄です……人類の希望さま……しかし、あなたがササッキーさまなら、どうしてダミアーノなんかに苦戦されたのですか?」
なぜ俺が助けられたのか? それが理解できないと言いたげだ。
同じような視線を半蔵さんやリディアさんも向けてきていることから、本気でわからないのだろう。
逆に俺もなぜこんな質問をされるのかわからないので、正直に答える。
「俺はまだこの世界に来て日が浅いので、能力が上がっていないんです。レベル100オーバーの人には勝てませんよ」
「「「……え?」」」
俺の言葉が予想外だったのか、三人が固まったまま動かなくなってしまった。
俺以外の全員をが目を見開いて固まってしまっている。
「えっと、シャンタルさん?」
心配になって声をかけると、ビクッと体を震わせるシャンタルさん。
それからしばらくして、我に返ったのかぎこちない動きで俺へ顔を向けてくる。
「あ、はい、ごめんなさい。驚きすぎて思考が止まってしまいました」
「そうですか……そこまではセイレンさんに聞いていないんですか?」
俺の質問にコクンと頷くシャンタルさんだった。
やはり俺の実力に関しては何も聞かされていないようだ。
俺の質問はそこで終わったため、再び会話が途切れた。
そんな中で、先に口を開いたのはリディアさんだった。
「えっと、トール? 私はシャンタルさんと出会うまでずっと、転生者は全員ゲームでの能力を引き継いでいるものだと思っていたんだ」
「……………………は?」
リディアさんの言葉に今度は俺が言葉を失った。
信じられない事実を突きつけられ、頭が混乱する。
しかし、次の瞬間には元凶であるあの【クソ女神】の笑い声が脳裏に響き渡っていた。
『ハハハッ!! トールさんってば、クスクスクスッ』
笑うマリンの顔を叩き潰すようにテーブルに両手を打ち付けた。
「あのクソ女神が!!!!!!!!」
思わず立ち上がってそう叫んでしまったことで、三人の注目がまた集まる。
俺は慌てて取り繕った。
「いや、すいません。なんでもありません」
俺の言葉に怪訝そうな表情を浮かべる三人。
「いや……トール……知らなかったのか?」
心配そうに俺の顔を覗き込んでくるリディアさん。
リディアさんたちの反応から察するに、転生者は強い状態であることが普通だという。
俺にはなによりもそれが我慢ならなかった。
「知らない。俺は初期ステータスより低い状態からスタートだったんだ」
「そ、そうか……なんでだろうな?」
「さあな」
怒りのあまり、シャンタルさんへの言葉が投げやりになってしまう。
今の俺には他人を気遣う余裕なんてない。
「あ、そうだ。シャンタルさん、セイレンさんに理由を聞いてみてくださいよ」
そう提案するものの、シャンタルさんは首を横に振りながら困ったような笑みを浮かべただけだった。
「伝えられないとのことです……申し訳ありません」
「なるほど……そうですか。話は以上ですか?」
話せないというのなら仕方がない。
理由を知っている唯一の人物へ直接聞くしかない。
(マリン、待っていろよ)
俺が立ち去ろうとすると、突然シャンタルさんが立ち上がり頭を下げてきた。
「頭領!?」
「シャンタルさん!?」
突然のことに驚く半蔵さんとリディアさんを尻目に、頭を下げたままの姿勢でシャンタルさんが言葉を続ける。
「ササッキーさま、どうか私たちの仲間になってください!!」
シャンタルさんのいきなりの発言を受けて、半蔵さんがすぐに動いた。
「頭領! 今の彼に頭を下げるほどの力はありませぬ! 我々の長が軽々しく頭を下げないでください!」
「控えなさい半蔵!! これはセイレンさまの願いなのよ!!」
「セイレンさまの? 今のトール殿にそんな力が?」
リディアさんは唖然としてこのやり取りを見つめているだけで何も言わない。
俺がどう反応するのか待っているのかもしれない。
ただ、その期待を裏切るように俺は即座に言葉を返した。
「嫌です。今の俺はササッキーではなく、初心者冒険者のトールです」
俺の答えが予想外だったのか、頭を上げた後呆然とするシャンタルさん。
その表情が徐々に絶望に染まるのを見て、心が痛まないわけではないがそれでも断る以外の選択肢はなかった。
今、俺の頭の中はマリンをどのように殴るのかしか考えられない。
リディアさんは唖然としてこのやり取りを見つめているだけで何も言わなかった。
俺がどう反応するのか待っているのかもしれない。
帰り道を案内してくれない可能性もあるが、歩いていればいつかは出られる。
(シャンタルさんには悪いけど、今はそんなこと考えられない。道はわからないけど、いつか出るだろう)
この教会を出ようと踵を返す。
「お待ちください! トールさま! どうか話を聞いてください!!!!」
シャンタルさんの悲痛な声が俺を引き止めるのだった。
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