第24話 ~ステータスの星印~

「トールさんも成長しているわけね。もう上限なんてすごいわ」

「上限? レベル0には制限なんてないって言っていたじゃないか」

「制限がないのは装備品やスキル、能力の上昇上限よ」

「だから、今回のは上昇上限だろう?」


 マリンの能力について言っていることが理解できない。

 一体俺の言っていることと何が違うのだろうか。


「あのね……今回星印が付いたのは、レベル0のランクが足らなくてそれ以上能力が上げられないってサインなの」

「ランク? レベル0にランクなんて存在するのか?」

「伝えていなかったけど、あるわ」

「お前…………」


 レベル0についての情報が後出しでどんどん追加されていく。

 ただ、モンスターの能力やスキルが使えるようになるのは強力だ。


(ここで逆上してマリンから説明を受けられない方が困る……落ち着くんだ俺……)


 深呼吸してから改めてマリンへ聞いた。


「説明を始めてもらっていいか? もうこのさい全部教えてくれ」


 マリンは笑顔でうなずく。


「もちろん、喜んで!! でも、全部って言われると私でも難しいわ……」

「難しい? レベル0を考えたのはお前だろう?」

「それはそうなんだけど……」


 あれだけ喋りたがっていたマリンが腕を組んで言い淀んでいる。


(もしかして……こいつも全部わかっていない……?)


 俺の疑問はどうやら的外れなものではなかったらしく、マリンは少し困ったような表情をしていた。

 ただ、わからずに言葉に詰まるというわけでもなく、どう伝えるか悩んでいるように感じる。


「〇◆▽■〇◆▽■が……ダメね。言葉にできないわ」

「なんなんだ?」


 マリンが理解できない言語を口から放っていた。

 天を仰いだマリンは諦めるというよりも、気に入らない相手を睨むような表情をする。


「まったく、私がガイド役だからって、攻略情報を口にできないって面倒ね……」


 マリンが独り言のように恨み節をブツブツと言っていた。

 俺はマリンの大きな独り言を聞き、ある可能性に気付く。


「俺へ伝えられるのはどんな内容なら大丈夫なんだ?」

「トールさんが【直面している問題】なら答えられるわ。気付いてくれるなんて流石トールさんね」


 機嫌を良くしたマリンは胸を張って答えた。

 マリンには何らかの事情があり、俺の抱えている問題に関する事柄は口にできるようだ。

 その情報を掴むことがでるだけでも助かる。


「それならまず、ステータスの星印について教えてもらえるか?」

「えぇ。トールさんがのレベル0にはランクが存在するの。それに伴って能力の上限が決まっているのよ」


 マリンが少し声のトーンを上げて言ってきた。

 なぜか得意気であり、不満そうにも見える。


「さっきも言っていたけどランクか……どうやって上げればいいんだ?」

「最初は全部の能力を上限の50にすればいいわ。次は〇◆▽■〇◆▽■」

「直面していないから言えないんだな」


 マリンが二段階目のランク解除について口にしようとしたら、妨害されてしまったらしい。

 邪魔をされて頬を膨らませているマリンは俺を睨んできた。


「他に聞きたいことはないの?」

「なんで俺に怒るんだよ……」

「いいから早く質問してよ!」


 なぜか怒られたまま次に聞きたいことを聞いていく。


「スキルのレベルが2までなのもランク上限だからでいいんだよな?」

「そうよ」

「他にスキル関係で気を付けることはあるか?」

「習得できるスキルに制限はないし……スキルについては特にないわ」

「……わかった」


 今のところ抱いている疑問はこれくらいだろう。

 他にマリンへ確認したい事について考えながら窓の外へ視線を投げる。


(未だ混乱中……だな。中央からの連絡はまだないみたいだ……ん? ということは……)


 オルトンの街を行き交う人々は少ないものの、皆が不安そうに空を見ていた。

 ただ、不要不急の外出が禁止されている様子は見受けられない。


(オルトンの街の街の統治者が判断を下せていない? …………そんなばかな)


 中央と通信するための魔道具があるのに、オルトンの街が外出禁止令を出さないはずがない。

 俺は嫌な予感を覚えつつ、マリンに向き合った。


「今【シナリオ】は何章だ?」

「チュートリアルクエストさえ終わっていなかったんだから【0章】よ」

(は?)


 マリンの答えを聞いてしまった俺は全身から汗が噴き出す。


(冷静に……冷静に……ここで事を荒立てても意味がない……)


 乾ききった口内にどうにか唾を飲み込みながら口を開く。


「……じゃあ最後の質問だ。あの魔方陣が出現してから何時間経った?」


 冷静に言おうとしたはずなのに口が若干震えてしまっていた。

 冷や汗が出る俺を見て、マリンも目を見開いて空に浮かぶ魔方陣へ視線を移す。


「え……嘘でしょ……トールさん……」


 顔を引きつらせている様子から、マリンも俺が何を言いたいのかわかったようだ。


(こういう時に話が早いと助かる……けど、俺もマリンも今思い出すのか……)


 睡眠不足と疲労でお互いに忘れてしまっていたらしい。

 焦りを抑えて、冷静な口調を心掛け俺はマリンへ伝える。


「そうだ。このままだとこの街は一度魔王によって【崩壊】する」


 チュートリアルクエストを放置してしまった場合、魔王によって鉱山の街オルトンは崩壊させられる。

 俺はその崩壊までの時間がどれくらい残されているのかマリンに質問したのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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