プロローグ②~女神マリン~

「この方は先輩女神のマリンさんでして……その……性格がちょっとあれなんですが……すごい方なんですよ」

「私はすごいのよ! 崇めなさい!」


 セイレンがフォローしようとしているが、マリンの態度や言葉で逆に心配になる。


(この女神は大丈夫なのだろうか?)


 そんなことを考えているとセイレンが心配そうにマリンを見つめる。


「先輩、どうしてここへ? 徹さんの対応は私がするんですよね?」

「この男が噂の男なのね?」

「もう! 話を聞いてください!」


 セイレンのことなどお構いなしに、マリンは俺を観察するようにグルグルと周りを回る。


「ふむふむ、普通の男にしか見えないけどねぇ」

「失礼ですよ! 普通が一番です!」


 必死になって俺のことを庇うセイレンの言葉が余計に俺を傷つけてくる。


(普通……普通か……)


 俺だってイケメンとまではいかないがそれなりに顔立ちはいい方だとは思う。

 髪だって染めてない黒髪だし、背は高いほうだ。


(だけど、普通なんだよな……)


 ゲームの中ではトッププレイヤーとして有名だが、現実世界では何の取柄も持たない一般人だ。


(そりゃ、この二人に比べられたらなぁ……)


 俺の周りにいる二人の女神は俺が会ったことも内容な美女だ。

 特にマリンに至っては人間離れした美しさを持っているので、誰も比較対象にもならない。


「それよりも先輩、こっちに来て大丈夫なんですか?」

「終わらせてきたから大丈夫よ! あんたと違って私は仕事が早いから」

「えっ!? あの人数の対応をもう終わらせたんですか!?」

「もちろんよ。崇めなさい」


 驚くセイレンに対して、なぜかドヤ顔のマリンが胸を張りながら答えている。

 そして、そのまま俺の方へ向き直ると、ビシッと指をさして宣言する。


「あんたも早くアポカリプスオンラインの世界に行きなさい!」

「あ、ああ……行けるなら行きたいが……」

「ほら、さっさと目を閉じて!」


 俺の返事を聞く前にマリンが強引に目を閉じさせようとしてくる。

 しかし、セイレンが両手を広げて通せんぼするように俺とマリンの間に立つ。


「せ、先輩ダメですよ! まだ説明が終わっていません!!」


 セイレンが俺からマリンを引き離すが、当の本人は頬を膨らませて不満そうだ。


「なによ! もう、いいじゃない! どうせこの男は行く気満々なんだから!!」

「ダメですって!! ちゃんと説明をしないと!」

「なによ、どうせ説明してもわからないでしょ!? いいから任せなさいよ!」


 二人が言い争いを始めてしまったため、俺は手持ち無沙汰になってしまう。


(さて、どうしたものか……)


 このままここにいても何も始まりそうにない。

 そもそも、なぜ俺はここにいるのか? ここはどこなのか? セイレンとマリンは何者なのか?


(わからないことだらけだな……)


 俺は自分の頬を自分で軽く叩き、気合を入れ直す。


(悩んでても仕方ない。ここは勇気を出して聞いてみるしかないな)


 意を決して、言い争っている二人に声をかけようとした。


「あのー」

「いい!? よく聞きなさい!!」

「──っ!?」


 俺が声をかけるよりも早く、マリンが声を張り上げる。

 思わず驚きで言葉を失ってしまうほどの声量だった。


(こ、これが女神の力なのか?)


 圧倒されていると、マリンの後ろでセイレンが申し訳なさそうに俺に頭を下げている。


「転生するにあたって、あなたはいくつかの特典が選べるわ」

「……はぁ」


 気の抜けた返事をすることしかできないまま、話が進んでいく。


「まず一つ目は隠し職業の開放よ」


 マリンが指を鳴らすと俺の目の前にウインドウ画面が表示された。


【シークレットジョブ:レベル0】


「オススメは私の考えたこの職業よ! 最強だから選択しないなんて有り得ないわ!」

「……なるほど」


 自慢げに胸を張るマリンだったが、いまいち凄さが伝わってこない。


(最強と言われてもよくわからないしな……職名も悪いし、とりあえず別のも見てみようかな)


 そう思い、別のページにスクロールしようとしたのだが──


「ちょっと待ちなさい! なんでスルーするのよ!」


 またもやマリンに止められてしまう。


「え?」

「なんで私のオススメを無視して他のを見ようとしているのよ!」

「いや、でも……最強とか言われてもよくわからないし……」


 俺の言葉にショックを受けたのか、マリンはガクッと肩を落とした後にブツブツと呟き始めた。


「まったく……これだから最近の若い子は困るのよね!」


 やれやれと肩をすくめる仕草を見せるマリンだが、見た目は完全に年下の少女にしか見えない。

 そんな姿を見ていると怒る気力すら湧かないというものだ。

 何やらぶつぶつと言っているようだが聞き取れない。

 しばらく待っているとようやく立ち直ったようで、咳払いをしてから話を再開する。


「ゴホンッ! そこまで聞きたいと言うのなら教えてあげるわ!」


 どうやら教えてくれるらしいので黙って聞いていることにする。


(機嫌を損ねられて何も教えてもらえないよりましだ)


 すると、マリンはどや顔で人差し指を立てて話し始めた。


「レベル0はね、アポカリプスの【すべての制限】を受けないのよ」

「すべての制限? 例えば?」


 聞き返すと待ってましたと言わんばかりにマリンが目を輝かせた。

 その後ろではセイレンが「あー……」と言いながら頭を抱えていた。

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