プロローグ③~レベル0~
「そうねぇ~たとえば、職業による制限がないわ」
「制限が!? それってすごいじゃないか!?」
思わず聞き返した俺にマリンが自慢げに頷く。
それもそのはずだ、アポカリプスオンラインには非常に厳しい職業の制限がある。
例えば、弓使いが剣を使用した場合1割ほどの能力しか発揮できない。
これはスキルや魔法にも適応されるため、制限がないということはすべての能力が使えるということだ。
つまり、レベル0を選択すれば、俺は縛るあらゆる制約から解放されるということになる。
「ふふん♪ そうでしょう? すごいでしょう!?」
「ああ、最高だ! ぜひそれで頼む!!」
興奮して即答してしまった俺に対して、セイレンが何かを言いたそうにしていたが結局何も言わなかった。
俺の返事を聞いたマリンはとても満足そうに頷くと、さらに説明を続ける。
「他にはステータスの上限もないわ! 当然よね! だって最強なんだから!!」
「おお! それは助かるな!」
職業ごとに決まっているステータスの上限まで突破できるとは思いもしなかった。
まさに俺が求める最高の職業であると言えるだろう。
(装備もスキルも魔法もステータスも自由なんて、夢のような職業だ!)
期待に胸を膨らませていると、突然横から声をかけられた。
「徹さん! 名前の由来も聞いてあげてください!」
声の主はセイレンだった。
セイレンはなぜか必死の形相で訴えかけているように見える。
(そういえば名前の意味を聞くところだったな……)
確かに俺も職名については気になっていたところだ。
せっかくなので聞いてみることにしようとしたら、なぜか少しずつ二人から離されている。
体が引っ張られる方向を見ると、青い渦巻が俺を吸い込もうとしていた。
「お、おい!? なんだこれ!? 離れられないんだけど!!」
必死に抵抗を試みるが、徐々に渦へと近づいてしまう。
「ほら、早く選択するって言いなさいよ! ここにいられる時間が切れるわ! 吸い込まれたら特典は無しよ!!」
マリンが急かすように話しかけてくる。
もうすでに腰のあたりまで飲み込まれてしまっている状態だ。
特典を選べないのはまずいと思い、慌てて口を開く。
「わかった!! 特典はレベル0を選択する!!」
「よろしい。では、女神マリンが特典を授けましょう」
マリンが大きく手を広げながら何かを唱え始める。
マリンが何も言えなくなる隙を狙ってか、そこでセイレンが俺に接近して右腕を掴んできた。
「徹さん! 一人ぼっちの異世界は寂しくありませんか!?」
「え? いや、まあ……」
突然のことに戸惑っていると、セイレンはさらに言葉を続ける。
「優秀なガイド役が必要ですよね!? 必要って言ってください!!」
頭と右腕以外は渦に飲み込まれているため、時間がないのだろう。
俺は考えることをせず、セイレンの勢いにつられて答えた。
「必要です。俺にはアポカリプスオンラインのことを熟知しているガイド役が必要です!」
その言葉を聞くと、セイレンの表情がパッと明るくなる。
「わかりました! 主神さま!! お願いします!!」
セイレンの言葉に呼応するように、マリンの背後から光の柱が立ち昇った。
その眩しさに思わず目を瞑るとセイレンに手を離され、次の瞬間には俺は完全に渦に吸い込まれる。
「それでは、佐々木徹のサポートの座をかけて〇×ゲームを行います」
光の柱から放たれた神秘的な声とは裏腹に、発言の内容はとても俗物的なものだった。
「ちょっ──」
言いかけた言葉を最後まで言う前に俺は完全に渦へ吸い込まれてしまった。
◆◆◆
「いった!?」
尻餅をつくような形で地面に着地し、辺りを見回すとそこは草原のようだった。
「ここは?」
見渡す限り一面に草が広がっているだけで何もない。
既視感のある光景だと思ったら、よく考えたらゲームスタートのエリアに似ている気がする。
(もしかして……あった……)
恐る恐る後ろを向くと、そこに広がる景色もまた見覚えのあるものだった。
「やっぱり……」
間違いない、俺が最初に降り立った場所は、【中心の街クローラ】だ。
しかし、ゲームとは違い、案内をしてくれるNPCの姿がない。
「そこはゲームとは違うのか? でも、あの子がサポート役うんぬんって言ってたよな……?」
セイレンがあれだけ必死に俺へ訴えかけてきたものだから、用意してくれているものだと思っていたがそうではないようだ。
(まあ、この街のことならよく知っている。大丈夫だろう)
まずは街の中を見て回ろうと歩き出したところで、不意に後ろから声をかけられた。
「そこのあなた! 止まりなさい!」
振り返るとそこには鎧を着た女性が立っていた。
身長は俺より少し低いくらいだろうか? 腰まである長い赤髪が風に揺れている。
そして何より目を引くのが──
「耳長っ!?」
そう、彼女の耳が異様に長かったのだ。
(まさかこの世界に来て初めて出会った種族がエルフとはな……)
感動のあまりしばらく見とれていたが、彼女が訝しげな視線を向けてきた。
「あなた田舎者? エルフ珍しいわけ?」
「いや、そんなことはないけど……えっと、俺に何か用なのか?」
「あっ!」
そう返すと彼女は思い出したかのように眉を吊り上げ、注意をするように人差し指を俺へ向けてきた。
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