プロローグ④~女エルフの騎士からの忠告~
「そんな恰好で武器も持たずにこんなところへ来ちゃ駄目でしょう!!」
「恰好? ……なるほど」
俺は自分がどんな姿なのかを初めて認識した。
服装は白いシャツに紺色のパンツというシンプルなもので、現実世界で俺が着ていたものだ。
武器も特に所持していないため、アポカリプスオンラインの初期装備よりも貧相に見える。
そんな状態で街から出ているのだから、モンスターに襲われたらひとたまりもない。
おそらく、この注意は親切心から言ってくれているのだろう。
「……悪かったよ」
素直に謝罪の言葉を口にすると、彼女は俺の全身を見回した後に呆れたような表情を見せた。
「こうして見つけたのも何かの縁だから、街までついて行ってあげるわ」
「ありがとう助かるよ」
「ええ、これも仕事だからね」
そう言って微笑んだ彼女の表情は、とても美しかった。
彼女の横へ並ぶように追いつき、並んで歩き始める。
「それで、どうしてこんなところにいたの?」
歩きながら質問を投げかけられるが、正直に話すわけにもいかないので適当にごまかすことにした。
「ちょっと散策していたら夢中になって街から離れてしまったんだ……」
それを聞いた彼女の顔は呆れるように大きなため息をつく。
「まったく……それじゃあまるで子供じゃない……」
「申し訳ない」
「……まあいいわ、次からは気をつけるのよ」
どうやらこれ以上詮索されることはないらしい。
このまま話を逸らすことにしようと思う。
「そういえば自己紹介がまだだったな、俺は……トールだ」
そう言いながら右手を差し出すと、彼女も握り返してくれる。
「私はリディア・ルーデンスよ」
挨拶を終えると同時に手を放す。
ここがアポカリプスオンラインの世界だと考え、ゲーム内で使っていた【トール】という名前を使用した。
佐藤徹なんて名乗ったら世界観に合わず、怪しまれてしまう。
(リディアさんが案内係なのか? 都合良く表れてくれたが……)
ゲーム開始直前のことは数十年前のことなので記憶がおぼろげにしか残っていない。
この後俺は何をすれば良いのか考えていたら、ふと横にいるリディアさんと目が合う。
「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「い、いや! なんでもない!」
「そう? 街が近くなってきたけど、念のためにトールも周囲を警戒してよ?」
「あ、ああ。わかっているよ」
慌てて返事をすると、リディアさんは再び前を向いて歩き出す。
俺も周りに何もいないことを確認しつつ、リディアさんを追いかける。
(危ない危ない……って、なんで普通に会話ができているんだ?)
普通に話をしていたが、アポカリプスオンラインの世界は日本語とは別の言語が使用されているはずだ。
それなのに、俺にはリディアさんが日本語を使っているように聞こえている。
(渦に飲み込まれた時にあの女神が何かをしてくれた?)
青い渦に飲み込まれた時のことを思い出したら、最後に聞こえてきた言葉を思い出した。
(……〇×ゲームってなんだ?)
それも主神と呼ばれる存在の声色的に上機嫌で宣言していたような気がしてならない。
一向に尽きない疑問について考えていたら、リディアさんが立ち止まった。
「ほら着いたわよ」
リディアさんに促されて顔を上げると、そこには見慣れた景色があった。
街並みは中世ヨーロッパ風であり、石造りの建物が多く並んでいる。
大通りには店が立ち並び、多くの人たちが行き交っているのが見えた。
考え事をしながら歩いているうちに俺たちはクローラの街に到着したようだ。
「ここまで来ればもう大丈夫ね」
リディアさんは微笑みながらそう言った後、再び俺へ向き直った。
「それじゃここでお別れね。不用心に街から離れちゃ駄目よ?」
「わかった、気を付けるよ」
俺の言葉に満足したのか、リディアさんは手を振りながら立ち去ってしまった。
(本当に街に着いたら別れた。サポートキャラじゃなかったな)
リディアさんさんがサポート役なら街に入ってからも俺のことを気にかけてくれると思っていたのだが、当てが外れたみたいだ。
彼女は親切心から俺を街まで送ってくれたらしい。
(俺を見つけてくれたことに感謝しないとな。モンスターに襲われていたら危なかった)
ただ、サポート役がいないということは自分で考えて行動しなければならないということ。
「さてと、どうしたものか……」
独り言を呟きながら、とりあえず冒険者ギルドに向かうことにする。
そこで情報収集を行い、今後の方針を決めようと考えたからだ。
気を取り直して街中へ足を踏み入れると、街の活気ある雰囲気が伝わってくる。
街の人々は忙しそうに早足で歩いていたり、露店で買い物をしている人もいる。
道行く人たちの中には人間だけではなく、獣のような耳や尻尾を生やした亜人と思われる者たちもいた。
(これが異世界……すごいな……)
初めて見る光景に心を躍らせていると、突然俺を囲うように数人の男たちが立ちふさがってきた。
(盗賊か……? いや……さすがにこんな街中で堂々と襲わないだろう……)
男たちの姿はお世辞にも綺麗とは言えない格好だった。
薄汚れた布の服を着こんでいるが、彼らの持つ武器はしっかりと手入れされており、使い込まれているように見える。
全員屈強な体つきをしており、その中の一人がこちらへ歩み寄ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます