第4話 ~酒処・酔いどれ亭にて~

「……トールさんは変換したことのない飲み物を頼むんじゃなかったの?」

「……そうだな。ギルドには無い飲み物にしないといけないか」


 マリンに注意されて、俺は仕方なく別の飲み物を注文することにした。


「……じゃあ、これを頼むよ」


 俺が選んだものはリンゴジュースだ。

 これならギルドのメニューには無かったので問題なく変換できるだろう。

 飲み物を待っている間、料理に舌鼓を打とうとした。


「マリン、最後の一本は変換用で残してくれよ?」

「ングッ!?」


 マリンは俺がメニューを見ている隙に焼き鳥を口いっぱいに頬張っており、突然話しかけられたことに驚いてむせてしまったようだ。


「ゴホッ! ゲホォ! ……もうっ! いきなり話しかけるんじゃないわよ!」

「手に持っている一本をよこせよ。この店に来た目的は分かっているだろ?」

「わかっているわよ……はい!」


 俺が念を押すと、マリンは渋々といった様子で焼き鳥を差し出してくる。

 マリンから焼き鳥が刺さった串を受け取り、意識を集中させた。


------

名 称:焼き鳥(鳥肉)

効 果:筋力+1(1時間) 生命力+1(1時間)

詳 細:酒処・酔いどれ亭の看板メニューの一つ。

    秘伝のタレで味付けされ、炭火でじっくりと焼かれている。

所有者:トール

------

(よし、これは初めての料理だ)


 無事に料理を変換できることを確認して安堵する。

 効果をステータスへ変換してから、串に刺さっている焼き鳥にかぶりついた。

 パリッとした皮の中から肉汁が溢れ出す。


(うん、美味いな)


 鶏肉にしっかりと下味がついているのか、噛めば噛むほど口の中に旨味が広がっていく。

 タレも絶品で、肉の臭みを消してくれている。


(これは酒が進みそうだ……けど、俺の手元にはリンゴジュースか……)


 お酒好きの俺にとって、この組み合わせでは物足りないものがある。

 焼き鳥を飲み込みつつ、ジョッキに入ったリンゴジュースに視線を落とす。


------

名 称:リンゴジュース(果汁30%)

効 果:知力+1

詳 細:市販されているリンゴジュース。

    普通のリンゴを使用しているため酸味が強い。

所有者:トール

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(味も普通だな。こんなものか)


 リンゴジュースの効果を確認してから、能力の変換を実行した。


【名前】トール

【種族】人間族

【年齢】18歳

【レベル】0

【基礎能力値】

 体 力:51/51

 魔 力:30/30

 筋 力:7

 生命力:5

 敏捷性:2

 器用さ:3

 知 力:3

 幸 運:1

 スキル:なし


 効果が一時的なものや回復などでも、固定値として俺の能力に変換される。

 今回の場合は、焼き鳥で体力と筋力、リンゴジュースで魔力が上昇した。


「ふぅ……」


 俺は一息吐いてから、まだ能力の変換をしたことのない料理や飲み物を求めてメニュー表を手に取った。


◆◆◆


 食事を終えた俺たちは、そのまま冒険者ギルドの宿屋へ戻った。

 今のところこの街で一番安く泊まれるのがここだ。

 一つの部屋は狭いが、二床のベッドと一組のテーブルがあるだけましだろう。

 ほぼ荷物置き場になっているベッドの上で、マリンが寝転んでいた。


「ふぃー……食ったわー」


 満足そうに腹をさすっている姿を横目に見ながら、俺は椅子に座りながら今後の予定を考える。


(金はある程度確保できた……能力もルーキー級にはなっている……明日行くか)


 アポカリプスオンラインの世界に来てから一ヵ月。

 ようやくこの世界を冒険する準備が整った。


(実際にモンスターと戦うどんな感じなんだろう……楽しみだ)


 明日のことを考えるとワクワクしてくる。


「ねえ、トールさん? 明日はどうするの?」

「明日は忙しくなるぞ」

「なんで? 現場掛け持ちとか? それは疲れるからやめよーよー」


 返事をすると、マリンはベッドから身を起こし、頬を膨らませて抗議してきた。

 その仕草を見て苦笑しながら、俺は言葉を続ける。


「違うって。そろそろモンスターと戦いに行くってことさ」

「えっ!? 本当に!?」


 俺の言葉に驚いたようで、目を見開いてベッドから身を乗り出してきた。

 途端に目を輝かせるマリンを見つめながら、ニヤリと笑う。


「ああ、本当だよ。だから、明日は装備を整えよう」

「そうね! よし! そうと決まれば早く寝るわよ!」


 言うが早いか、マリンは自分のベッドに飛び込み毛布を被る。

 そして、すぐに寝息を立て始めた。


(まったく……現金なやつだな)


 そんな姿を見て苦笑すると、俺も自分のベッドで横になるのだった。

 翌朝、俺とマリンは街の中心部から離れた場所にある武具屋へ向かっていた。

 そこは初心者向けの武器を取り扱っている店であり、値段が安い代わりに性能が良い物が多いそうだ。

 冒険者になったばかりの人が行くお店のようで、受付のシャルさんが教えてくれた。


「トールさん! 見えてきたわ!」


 しばらく歩いていると、前を歩いていたマリンが振り返って声を上げた。

 視線の先にあるのは石造りの建物だ。


(あれがそうか)


 目的地である武具屋の外観を眺めて頷く。

 見た目は他の建物と同じ造りだが、入り口の上に看板が出ているのでわかりやすい。

【よろずや】という文字が書かれているので間違いないだろう。


「じゃあ入るぞ」


 扉を押し開けて中に入ると、様々な商品が陳列された棚が目に入った。

 壁には剣や槍などの武器が飾られている。

 店内をぐるりと見渡すと、数人の客がカウンターにいる店員と話しているのが見えた。

 どうやら購入するかどうか相談しているようだ。

 客の邪魔にならないようにしながら、俺たちは展示されている商品を見ていくことにした。

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