第18話 ~鉄鉱石の鉱脈~
(まあ、いいか……さっさと帰る準備をしよう)
俺は立ち尽くしているマリンから視線を離し、帰還札を取り出そうとした。
「あるわ!! 鉄鉱石を掘る方法を思いついたわ!!!!」
急に大声を上げたかと思うと、マリンは俺に向かってビシッと指を突きつけてきた。
俺はマリンの案に期待せず、帰還札を探しながら口を開く。
「教えてくれよ。どんな方法を思いついたんだ? ……えっと……札はどこだ?」
「帰還札を探すの止めなさいよ! 聞きたくないの!?」
「……聞いてほしいなら聞くよ」
仕方なく手を止めて話を聞くことにすると、マリンが得意げな顔で胸を張った。
そして腰に手を当てると、ふんっと鼻を鳴らす。
「スコップなら鉄鉱石を掘れるんじゃない!?」
剣よりもスコップの方がまだ採掘ができる可能性がある。
マリンは何もやらずにここを去るのがよほど嫌なようだ。
(俺をセーフエリアまで運んでくれたし、蘇生もしてくれたから、今はマリンの案に乗ってやろう)
俺は腕まくりをしながら、小さく頷く。
「わかった。サイモンさんに数本もらったやつがあったな、やってみるか」
俺の言葉にマリンの顔がパアッと明るくなる。
まるで子供のような無邪気な笑顔だ。
「数本? そんな少なくないわ。私は百本以上貰って来たわよ!」
ドヤ顔しながら自慢げに話すマリンだったが、正直そんなにいらないと思った。
(スコップで鉄鉱石を掘るのは大変そうだけどわかっているのか?)
だがここで反論するとまた話が拗れそうなので黙っておくことにした。
「じゃあ、試してみるか」
「鉄鉱石を掘り尽くしてやるわ!!」
マリンが声高らかに宣言すると、足元に十本以上のスコップが出現した。
(掘り尽くす気でいるのかこいつ!?)
ツッコミを我慢し、落ちているスコップを拾い上げる。
「さあ、行くわよ!」
マリンは鉱脈の前に立ち、意気揚々とスコップを勢いよく振り下ろした。
ガーン!
鈍い音とともにマリンのスコップが壁に突き刺さった。
しかし、刃先はわずかに突き刺さっただけで、それ以上進まなかった。
「硬いわね……けど、スコップは欠けていないわよ。トールさんも早く掘ってよ!」
マリンが振り返らず、もう一度スコップを振り上げながら俺に催促してくる。
ガーン! ガーン! ガーン!
俺のことを気にせず何度もスコップを振り下ろすマリン。
鉄鉱石を掘り取るべく一心不乱に掘削作業を続けている。
(俺も掘らないと……負けられないよな……)
俺は決意を固め、手に持ったスコップを握りしめた。
ガンッ! ガツンッ! ガンガンッ!
「あっ」
気合を入れてスコップを打ち付けていたら、ボーリングの玉ほどの鉄鉱石が地面に転がった。
それを見たマリンが動きを止めて振り返る。
「すごい! トールさん大きいの掘れたわね!! 重っ!?」
俺の足元に転がった鉄鉱石をマリンが拾い上げようとしたが、あまりの重さに顔を歪めた。
土木作業を軽々とこなしていたマリンでも重いと感じるのだから相当な重さなのだろう。
「バックに……入れて……おくわね……ほっと!」
マリンが軽い声を上げると、大きな鉄鉱石が手元から消えた。
(こいつって、攻撃スキルが使えないだけで相当優秀だよな)
マジックバッグそのものが珍しい物なので、持っているだけでも重宝される。
それに加えて支援スキルも充実しているため、パーティーを組もうとすれば引っ張りだこになるだろう。
(危険を顧みずに俺のことを蘇生するために走ってくれたし、攻撃スキルが使えないくらい些細な問題だな)
そんなことを思いながら、俺は再びスコップを振るった。
「さて、私も掘らなくちゃね」
マリンも再び鉄鉱石の前に陣取り、振り上げたスコップを勢いよく叩きつけていた。
◆◆◆
「すみません、鉄鉱石の買い取りお願いします」
「なっ…………」
鉄鉱石の採掘に熱中した俺とマリンは、二人で二十本以上のスコップを使い潰してしまった。
さすがにそれだけ掘れば満足だろうと帰還札を使って、鉱山ダンジョンの外に出ることにしたのだ。
受付で精算してもらうため、ダンさんの所へ行くと目を見開かれて絶句された。
「お前たち……生きていたのか!?」
どうやら俺たちが死んだと思っていて、戻ってきたことに驚いているようだ。
「はい、生きてますよ」
「……そうか……入り口から少し進んだところに大量の血溜まりがあったと聞いたから、お前たちが死んだものだと思っていたぞ」
「血溜まりですか?」
「ああ、それにダンジョンに入って帰ってこなかったのはお前たちだけだったんだ」
「ご心配をおかけしました」
どうやら俺がスカルワーカーに殺された時の血痕が残っていたために勘違いされていたらしい。
確かに脳天をかち割られたので、大量に血液が流出するはずだ。
死んだと思われてもおかしくはないだろう。
「帰ってきてよかったよ。ところで、鉄鉱石はどこにあるんだ? どこにもないようだが……」
ダンさんがこちら側に来て、俺とマリンの顔を交互に見てから不思議そうな顔で聞いてくる。
「マジックバックがあるのよ。どこに出せばいいの?」
「そうなんだね。ここに頼むよ」
ダンさんは受付の横に置かれていた、ベッドほど大きさのある金属板をポンポンと叩いた。
「わかったわ」
マリンががその指示に従い、マジックバックから鉄鉱石を次々と出していくと、ダンさんが真顔のまま固まった。
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