第19話 ~鉄鉱石採掘作業の成果~

 金属板の上には鉄鉱石が俺の背丈以上に積み上がっている。


(そりゃそうだろうな……これだけの量を掘ってきたなんて俺でも信じられない)


 俺がそんなことを考えていると、ダンさんがハッとしたように動き出した。


「ま……まだあるのか?」

「えーっと……そうね……これで最後よ」


 マリンが最後の鉄鉱石を取り出し終えると、金属板の上が鉄鉱石で山盛りになった。


(この量を運ぶとなると大変そうだな)


 盛に盛られた鉄鉱石を眺めながらダンさんが大きく息を吐いた。


「間違いなくこれはすべて鉄鉱石だな……計測をしてくるから待っておれ」


 ダンさんは受付カウンターへ戻り、何かを操作するように手を動かし始める。


(何をやっているんだろう?)


 しばらく眺めていると、ダンさんがこちらに顔を向けてきた。


「終わったぞ……これが計量証明書だ。ギルドへ持っていけば換金してくれる」


 カウンター越しに渡されたのは一枚の紙だった。


「ありがとうございます」

「どれどれ? 何キロになったの?」


 紙を受け取るとマリンが覗き込むように顔を近づけてくる。


(近いんだよ!)


 思わず一歩下がると、マリンが少しムッとする。


「何でイジワルするのよ! 私にも見せてよ!」


 俺は無言で紙を裏返して見せると、マリンの表情がパアッと明るくなった。

 そして俺からひったくるように書類を手に取り、食い入るように見つめた。


「すごーい! いちじゅうひゃく……750キロも採掘できたのね!! やったー!!」


 嬉しそうにはしゃぐマリンは喜びのあまり俺の横でピョンピョン跳ねている。

 そんな姿を鉱山ダンジョンに入ってきた人たちが見て、ざわつき始めた。


「おい見ろよあれ……あんな量の鉄鉱石見たことないぜ……」

「あれが全部鉄鉱石だとしたらいくらになるんだろうな……」

「あの姉ちゃんすげー可愛いな……」


 周囲の反応を見る限りではかなりの大金になりそうだ。


(こんな時間にダンジョンへ? 今何時なんだ?)


 最初は人がほとんどいなかったが、今は多くの人が集まってきている。

 おそらくこれからダンジョンへ入るのか、ツルハシを持って空のリヤカーを引いている人たちが多い。

 その中には冒険者風の人も混ざっており、鎧を身に着けていない軽装の男性もいる。

 彼らは俺たちをジロジロ見ながら通り過ぎていくので居心地が悪い。


「マリン、もう行こう」


 これ以上注目される前にこの場を離れようと提案すると、マリンが満面の笑みで頷いた。


「ええ、早くギルドで換金しないとね!」


 俺たちはダンさんへ挨拶をした後、鉱山ダンジョンを後にした。


「は? 朝日?」


 ダンジョンから一歩外に出ると、東から太陽が上がり始めていた。

 つまり俺とマリンは夜通しスコップを振るっていたことになる。


「あー……なんかすごく疲れたわねー、歳かしら?」

「いや、歳じゃなくて普通に疲労じゃないか?」

「んー?  そうなの? なんだか眠くなってきたわ」


 大きくあくびをしたマリンが目を擦る。

 時間を意識した途端、疲労が全身を襲ってきた。

 おそらく、マリンも俺も鉄鉱石を掘るのに夢中になりすぎて、眠気など感じていなかったのだ。

 その反動で今はすごく眠いし疲れている。


(一刻も早くベッドで横になりたい……)


 そんなことを思いながらフラフラ歩いていると、ようやく冒険者ギルドに到着した。


「ひ……人が多すぎる……」

「なにこれ……」


 証明書を換金しようと思ったが、ギルド内が昨日とは違って人でごった返している。

 俺は眠い目を何とか開けながら、同じようにしんどそうなマリンへ話しかけた。


「ダメだな……マリン、先に宿へ行って部屋を確保しておいてくれ……」

「いいの? 先に寝ちゃうかもしれないわよ?」

「問題ない。宿の受付の人に俺のことを伝え忘れないでくれ」

「はーい……」


 俺の言葉に頷くと、マリンはそのまま併設されている宿屋に向かっていった。


(頼むから俺の分を忘れるなよ……)


 正直不安だが、それよりもまずは目の前の人だかりだ。


(なんでこんなに人がいるんだ!? 昨日の静けさはどこに!?)


 今更後悔しても遅いのだが、ここまで混んでいるとは思っていなかった。

 長い列ができており、受付の職員たちが対応に追われている。

 並んでいる最中に暇なので数えてみたら、およそ五十人ほどが並んでいた。


(これってどのくらいかかるんだ?)


 そもそも徹夜明けでこんな長蛇の列に並ぶ気力がない。

 すでに意識が飛びそうだ。


(このままベッドで寝たら気持ちいいだろうな……)


 そんなことを考えながらボーっとしていると、長蛇の列が徐々に短くなっていく。

 手慣れている様子で書類の処理をしていく職員は五十人以上いた人たちを次々と捌いていた。


「次の方どうぞー」


 どうやら俺の番が来たようだ。

 半分寝ているような状態で窓口まで向かうと、眼鏡をかけた女性職員が笑顔で迎えてくれた。


「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「これをお願いします」

「計量証明書ですね。お預かりします!」


 元気の良い声で話しかけてきた女性は、俺が渡した証明書を確認していく。


「はい、確認しました。こちらが鉄鉱石の代金になります!」


 そう言って渡された布袋の中には金貨や銀貨が入っていた。


(重っ! 流石、75万ゴールドだ!!)


 受け取った瞬間、ズシッとくる重さを感じる。 

 これでしばらくお金に困ることはない。

 布袋の重みで眠気が多少マシになった。


「ご用命は以上ですか?」


 お金を受け取った俺へ、女性が微笑みながら話しかけてきた。


「はい、そうで──」


グラッ、グラッ、グラッ、グラッ!


(疲労で体が揺れる……世界が揺れているな……)


 急に視界が揺れ始めてしまい、倒れそうになってしまう。

 こんなに疲れていたのかと自分でも驚いてしまうほどだ。


「キャーッ!?」

「なんだなんだ!?」

「地面がこんなに揺れるなんて生まれて初めてだ!!」


 どうやら揺れているのは俺だけではなかったようだ。

 周りにいる人もふらついているようで、中には転んでしまっている人もいる。


ズシーン!!!!


 さらに大きな揺れが発生し、立っていられなくなった俺は床に手をついてしまう。


ゴゴゴッ!!


 床が激しく揺れて地震かと思ったら、ギルドの建物全体が揺れていた。

 ギルド内の至る所で物が倒れる音がする中、女性の悲鳴が聞こえてくる。


「空がおかしいわ!!?? 世界が終わってしまうの!!??」


 その声で窓の外へ目を向けると、確かにおかしい。

 空は赤く染まり、黒い雲が渦を巻きながら上空へ駆けあがっていた。

 そして雲の隙間から覗く、身に覚えのある光景に俺は言葉を失う。


(誰が……やったんだ……)


 空に巨大な魔法陣が出現してしまっていた。

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