第17話 ~セイレンとの会話①~

「俺って死んだの? 大丈夫?」


 セイレンからさらっと死亡報告をされて情報が整理できずにいる。


「大丈夫ですよ? 先輩はあれでも優秀なので、必ず蘇生してくれるはずです」


 セイレンは俺の質問を別の意味で捉えたらしく、安心させるような笑顔で答えてくれる。

 しかし、俺が聞きたかったのはそういうことではないのだ。


「いや、そっちじゃなくてさ……えっと……」


 俺は言い淀んでしまう。


(……自分がどうやって死んだかを詳しく聞いてどうするんだ?)


 大丈夫だというのならそれ以上心配することなんてないはずだ。


(むしろ、余計なことを聞いてまた話が脱線してしまう方がまずいのではないだろうか?)


 そんなことを考えていると、セイレンの方から話を続けてきた。


「えっと……徹さんはスカルワーカーのツルハシで頭を貫かれて死んでしまいました」

「…………」

(聞くんじゃなかった……想像もしたくない……)


 頭を打ち抜かれた感触が蘇ってきて、吐き気が込み上げてくる。

 口元を手で押さえながら、必死に耐えた。


「……大丈夫ですか?」


 セイレンが心配そうに俺の顔を見上げている。

 俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、もう一度質問を投げかけた。


「ああ、なんとか……それで、ここはどこなんですか?」


 無理やり笑顔を作ってセイレンに質問する。

 これ以上変な空気になりたくなかったのだ。


「ここは魂の世界と呼ばれる場所です。ここで亡くなった方の行き先が決定されます」

「なるほど……ファンタジーですね」


 思わず素直な感想を口にしてしまった。

 その言葉を聞いたセイレンがニコッと笑う。


「ええ、そういう世界なんで」

「そうですよね。アポカリプスオンラインの世界ですもんね」

「はいっ!」


 セイレンの表情を見ているとなんだか癒される気がする。

 自然と俺も笑っていた。

 しばらく二人で笑っていると、不意に俺の頭上から光が溢れる。


「トールさん! トールさん! 聞こえる!? 聞こえたら返事をして!!」


 その光の中からマリンの声が聞こえてきた。

 慌てて上を見上げるが、眩しくて何も見えない。

 それでも必死になって呼びかけていることだけは分かった。


「トールさん! きっとちんまい女神と一緒にいるんでしょう!? 早くこっちに来なさい!!」


 ちんまい女神と言われて、セイレンさんが怒ったように少しだけ表情をムッとさせていた。

 しかしすぐに元の表情に戻ると、俺を見て口を開く。


「そろそろ時間切れみたいですね。復活おめでとうございます」


 立ち上がったセイレンさんがそう言ってぺこりと頭を下げた。

 つられて俺も頭を下げる。


「色々話をしていただき、ありがとうございました」


 俺の言葉にニコリと笑うと、セイレンは手を振った。


「いえいえ、これからも先輩をよろしくお願いいたします。それではお元気で!」


 すると次第に光が強くなり、視界を埋め尽くしていく──


◆◆◆


(光が……)


 瞼越しに感じる明るさに耐えていると、少しずつ眩しさが収まってきた。

 目を開けると鉱山ダンジョンの通路が見える。


「トールさん!! よがったぁ……」


 見上げると涙目になったマリンの顔があった。


「ただいま……」

「遅いわよ!! セイレンと何を話していたのよ!!」


 マリンは泣きながら怒ってきた。

 何度もポカポカと叩いてくるのだが、まったく痛くない。


「帰ってきただろう?」

「もう!」


 怒っているマリンを尻目に起き上がり、体のあちこちを動かしてみる。

 まだ頭がフラフラするが、体に異常はないようだ。


(これが死ぬってことなのか……あんまり実感ないな……)


 自分の両手をグーパーしながらそんなことを考える。


「まったく! 逃げるの大変だったんだからね!」


 プンスカ怒っているマリンは置いておいて、状況を確認する。

 ダンジョン内にいるにもかかわらず、モンスターの気配はない。

 そんな場所はダンジョン内において限られている。


「このダンジョンの【セーフエリア】をよく知っていたな」


 ダンジョン内で安全に休めるセーフエリア。

 マップにも載っていない場所で、実際にあるのを確かめた人だけが知っている場所だ。

 自分だけが使うために情報を漏洩する人が少なく、他人から詳しい場所を聞けることは稀であった。


「トールさんを蘇生できる場所を探していたら、たまたま見つけたのよ」

「助かったよ」


 素直にお礼を言うと、なぜか照れたようにそっぽを向くマリン。


「別にいいわよ! それよりこれからどうするの?」

「そうだな……とりあえず、ここから出るか」

「そうね。今日はもう帰りましょう」


 マリンは俺の提案を素直に聞き入れてくれた。

 懐から帰還札を取り出そうとしたら、視界の端に赤黒い通路が映る。


「ん? なんだ……?」


 何気なく近寄ってみると、それは鉄鉱石の鉱脈だった。

 奥まで続いており、どこまで続いているのか分からないほど長い鉱脈となっている。


「ねえ、トールさん……これって……」

「ああ……鉄鉱石の鉱脈だ……」

「そうよね!? これが全部鉄鉱石よね!? やったー!! 宝の山よ!!!!」


 興奮した様子のマリンが俺の肩をガクガクと揺さぶってくる。

 首がガックンガックンと揺れてとても痛い。


「ちょっ……ちょっと落ち着いてくれ……」

「あ……ごめんなさい……」


 我に返ったのか、申し訳なさそうにシュンとするマリンを見て、つい笑ってしまう。

 それを見たマリンが少し拗ねたような顔になる。


「なによ?」

「いや、なんでもない……それよりも……これはアンラッキーだったな」


 俺は鉄鉱石を掘り出すために手持ちの剣を鉄鉱石へ突き立てた。


カーン!


 鉄鉱石に打ち付けた剣から甲高い音が鳴り響く。


「ダメだな。掘れそうにない」


 せっかく鉱脈を見つけても、鉄鉱石を掘る手段がないのではどうしようもない。


(このセーフエリアをもう一度見つけられたらいいんだけどな……)


 闇雲に逃げていたマリンがマッピングなんてしているはずがないので、次にここに来れる保証もない。

 俺たちはこれだけの量の鉄鉱石を諦めるしかないのだ。


「マリン、勿体ないけど帰るぞ。俺たちには掘る手段がないだろう?」

「…………」


 俺が説得してもマリンは壁一面の鉄鉱石から目を離さないでいる。

 何かを考えているようだが、何を考えているのか俺には分からなかった。

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