第16話 ~鉱山ダンジョン・第一階層グレイバット戦~

「おらぁ!」


ブンッ!


 剣を振り下ろし、グレイバットを切り伏せる。


「ギィィィイ!!」


 俺は次々とマリンへ襲いかかってくるグレイバットを切り伏せていく。

 相手は小さい上に動きが速いが、能力が向上したおかげで余裕を持って対応できる。

 それでもグレイバットの数が多く、マリンを襲う個体も増えている。


「もうっ! 離れてって言ってるでしょ!! トールさん!! 助けてよ!!」


 マリンは腕や足を噛みつかれており、服の一部が破れて血を流していた。

 噛みついている一匹を振り払っても、二匹三匹と次々に襲い掛かる。


「マリン! 動くなよ!!」

「ひっ!?」


 俺が声をかけると、マリンは小さく悲鳴を上げた。


(信用されていないのか? いや、今はそんなことを気にしている場合じゃないな……)


 マリンから見れば、俺が剣を振り上げて斬りかかろうとしているように見えたのだろう。


「このっ!!」


 剣をマリンに当たらないように振り、噛みついているグレイバットを切り裂く。


ザシュッ!!


 一匹を倒すと、また次の個体へ攻撃を加える。


ドシャッ!! ズシャッ!!


 噛みついて動かないグレイバットは的でしかなく、マリンを囮にして倒しているような感じだ。


「ギャウッ!!」


 最後の一匹がようやくマリンから牙を抜き、攻撃対象を俺に変えて飛びかかってきた。

 俺はタイミングを合わせて、その口の中に向けて剣を突き入れる。


ズブッ……


「ギャウッ!?」


 剣が喉の奥まで刺さったようで、グレイバットは口から血とうめき声を漏らす。

 突き刺したまま剣を動かして喉を裂く。


「ギュゥ……」


 地面に落ちたグレイバットの頭を踏み潰すと、ついに絶命したようだ。

 死体が光の粒子となって消えていく。


(ダンジョン内のモンスターが死ぬとゲームと同じように消えるんだな。ドロップアイテムはあるのか?)


 地面をよく観察してみると、小さな牙が数個落ちている。

 これが俗に言うドロップアイテムだ。


(回収する前にマリンの心配をしてやるか)


 俺はそのドロップ品を拾い集める前に、囮にしてしまったマリンの元へ駆け寄った。


「マリン、助けるのが遅くなってごめん。大丈夫か?」

「……ええ、平気よ」


 そう答えるものの、マリンの顔色は悪く息も荒い。

 傷はかなり深く、出血もかなり多いように見える。


「ヒールをかけるから待っていてね」


 マリンがそう言って立ち上がり、息を整えた。


「ヒール」


 手のひらを自分に向けながらスキルを発動させたマリンの体を淡い緑色の光が包み込む。

 すると、みるみる傷口が塞がっていった。


「ふぅー……これで大丈夫」


 傷が完全に癒えると、マリンは大きく息を吐いた。


「よかったよ、マリ──」


 俺が声をかけようとした瞬間、マリンの背後にある穴から黄色い光が二つ現れた。


(こんなところで!?)


 光は滅多に出ないと言われていたスカルワーカーの瞳から放たれていた。

 骸骨のような姿をしており、ボロボロのローブを纏っている。

 その手には錆びついたツルハシを持っており、俺たちを見つけるとニタァと笑ったような気がした。


(声をかけている暇なんてない!!)


 スカルワーカーはすでにツルハシを振り上げていた。

 一秒も満たない間にマリンへ振り下ろされてしまう。

 いくらレベル差があるといっても、脳天にツルハシを突き立てられたらただでは済まない。

 俺は反射的に黄色い光から守るようにマリンを抱き寄せる。


「ちょっとトールさん!? 急に──」

「こい!」


 腕の中で暴れようとするマリンを強く抱きしめ、体を入れ替えた。

 マリンを弾くように突き放す。


「キャッ!?」


シュッ!


 マリンの悲鳴と共に何かが風を切る音が耳に届く。

 次の瞬間、頭に衝撃が走った


「グッ!?」


 痛みで一瞬息ができなくなり、視界が真っ赤に染まった。

 体を動かすこともできず、そのまま地面に倒れ込んでしまい、意識が遠退いていく。


(マリンは……無事だな……あとは何とかしてくれ……)


 マリンが尻もちをつき、俺に向かって何かを叫んでいるのが見えたところで意識を失った──

◆◆◆


「…………ん? ここは?」


 目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

 天井もなく、壁もなく、ただ白い空間が広がっているだけの不思議な場所である。

 体を起こすと、俺は目の前の【モノ】を見て固まってしまった。


「徹さん、この度は大変申し訳ございませんでした」


 なぜか俺の前で小さな女の子が土下座をしていた。

 金色のショートヘアが地面に付く勢いで頭を下げている俺を天界へ誘ってくれた女神。

 セイレンと名乗っていた彼女が今、俺の目の前で土下座をしているのである。


(なんだこの状況は……?)


 状況がまったく理解できないまま固まっていると、セイレンが申し訳なさそうに顔を上げた。


「本来なら私が徹さんのガイド役としてお供をさせていただくはずだったのですが、私の不手際によりこんなことになってしまいまして……」

「不手際って……〇×ゲームですか?」


 主神と呼ばれた人からの声。

 マリンが現れたときの様子から考えると、ガイド役の選考方法は〇×ゲームによるものだろう。

 セイレンはマリンが勝ったことに対して、俺へ謝っているのだ。


「……はい……そうです……あの時〇を上げていればっ……」


 セイレンが悔しそうに唇を噛んでいる。

 どうやら相当悔しい思いをしているようだ。


(マリンの正確なら遊び感覚で楽しんだんだろうな……全力でガッツポーズしていたし……)


 俺の上に落ちてきたときの様子は衝撃的だった。

 あのときマリンは勝利宣言をして喜びまくっていたのだから間違いない。


(それはそうとして、俺は今どこにいるんだ?)


 ガイド役ではないと言っている女神のセイレンがいることで訳が分からなくなった。

 俺がキョロキョロしていると、セイレンが俺の疑問を察したかのように答えてくれた。


「あなたはスカルワーカーの攻撃を受けて死にました。今は先輩が安全な所へ運んでくれている最中です」

「…………は?」

「なので、生き返るまでの間私とおしゃべりしてください」


 セイレンはそう言ってニッコリ微笑んだのだった。

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