第6話 ~サイモンさんからの忠告~
「トール、危なくなったらすぐに退くんだぞ? 命あっての物種だ」
どうやら心配してくれているようだが、俺は首を横に振る。
「大丈夫ですよ。こいつと一緒に行動しますから」
そう言ってマリンを見ると、マリンも大きくうなずいてくれた。
「私は強いからね!! 任せておきなさい!!」
自信たっぷりに言い放つマリンを見ていると、なんだか大丈夫そうな気がしてくるから不思議である。
ただ、サイモンさんは苦笑しながら肩を竦めていた。
「お前たちはまだ初心者なんだからな。絶対に油断するなよ?」
念を押すように言ってくるサイモンさんに、俺ではなくマリンが答える。
「大丈夫よ! 私たちならどんなモンスターでも楽勝だわ!」
「だと良いんだけどな……何かあったら相談してくれよ?」
心配そうに言うサイモンさんと別れて、俺たちは冒険者ギルドへ向かったのだった。
◆◆◆
「朝の時間を過ぎるとこんなものなのね」
冒険者ギルドに入って開口一番でマリンが失礼なことを言い出した。
たしかに朝一に比べると人は非常に少ない。
この世界では朝の時間帯にクエスト受注のために訪れる人が多いのだろう。
(夜に働きたい人なんていないだろうし……こうなるのもわかる)
夜勤のクエストはないこともないが、労力の割に報酬が良くないことが多い。
そのため、日中に仕事をする冒険者が大半を占めている。
(まあ、昼の方が安全だしな)
夜はモンスターが活性化し、昼間よりも凶暴になる習性がある。
そんな危険な時間にわざわざ外に出る者などほとんどいないのだ。
(モンスターの習性はマリンが決めたのか?)
アポカリプスオンラインのほとんどを作ったというマリンがこの習性を知らないとは思えない。
ふと気になったので聞いてみることにした。
「なあ、モンスターってなんで夜に活発になるんだ?」
「え? そりゃあ、モンスターだって夜寝ている時に邪魔者が来たら怒るでしょ? トールさんは怒らないの?」
【何当たり前のことを聞いているの?】と言わんばかりの顔で答えられてしまった。
(そうか、言われてみればそうだよな)
確かに寝る前に虫などの邪魔によって眠れなかったらイラッとする。
現実に近い世界だからこそ理解できる話だ。
「……なるほどな」
納得して頷くと、今度は逆にマリンから質問される。
「ねえ、それよりモンスター討伐の受付カウンターはどこかしら?」
「あっちだ」
俺の指差す先にあるのは、さらに人が少ない窓口だ。
さっさと受付を済ませてしまおうと思いそちらへ向かう。
「こんにちは! あれ? トールさんとマリンさん? 今日はお休みだったんじゃ……」
元気よく挨拶をしてきたのはシャルさんだった。
朝は土木作業などのクエストを受注してくれる窓口にいるのだが、今の時間は討伐窓口の担当のようだ。
シャルさんも俺とマリンが今日土木作業を休んでいることを知っているらしい。
「実は今日から討伐クエストを受けたいと思いまして」
「そうなんですか!? えっと……大丈夫ですか?」
シャルさんは表情を曇らせて尋ねてくる。
おそらく、俺の能力を考慮してのことだろう。
いつもの笑顔が消えてしまっているシャルさんに、俺は力強く頷いてみせた。
「もちろんです。装備も揃えましたし、挑戦してみます」
俺の言葉に続いて、マリンも笑顔で頷いてみせる。
「心配無用よ! 私がいれば怖いものなしだから!!」
自信満々に宣言すると、シャルさんは少し安心したように微笑んでくれた。
「わかりました。では、お二人が受注可能なクエストがこちらになります」
差し出されたリストに目を通していくと、そこには様々な依頼内容が書かれていた。
・街周辺の調査(ランク:F)
・街周辺生息モンスター駆除(推奨ランク:E)
・討伐許可のみ(依頼ランク:なし)
他にもいくつかあったが、基本的には危険度の低いものばかりだ。
重要度もそれほど高いものはなく、初心者向けのクエストになっていることがわかる。
(さて、どれにしようかな……)
今回は俺がどの程度戦えるのか確かめるために来たので、比較的簡単なものが望ましいだろう。
どの依頼を受けようか考えていると、隣にいたマリンが俺の袖を引っ張ってきた。
「ねえ、これなんかどうかしら?」
「は? これを選んだのか?」
「ええ、そうよ!」
マリンが差し出してきた紙には『ゴブリン退治』と書かれている。
俺は思わず頭を抱えてしまった。
(おいおい、初心者殺しのクエストをいきなり受けるやつがどこにいるんだよ……)
ゴブリンとは人型の魔物であり、繁殖力が非常に高く、知能は低いとされている。
戦闘能力も低いが、集団で戦ったり、奇襲をしかけてくるため、初心者が殺されやすい相手でもあるのだ。
しかし、それはあくまでもゲームの話であって、実際は違うかもしれない。
「うーん……さすがにこいつはやめておいた方が良いんじゃないか?」
「えーっ!? なんでよ!?」
不満そうに口を尖らせるマリンだったが、俺は諭すように言う。
「お前も俺も戦闘経験が少ないだろ? 最初は安全なクエストを選んでおくべきだと思うんだが」
「でもでも! これは街の畑を荒らすはぐれゴブリン数体の退治よ?」
「数体でもゴブリンだぞ? お前も良く知っているだろう?」
説明を試みるものの、マリンはなかなか納得してくれない。
それどころか、さらに食い下がってくる始末である。
「知っているけど……でも……でも……」
なんとか反論しようと試みているようだが、なかなか言葉が出てこないようだ。
「まあまあ、お二人とも落ち着いてください!」
そんな様子を見かねたのか、シャルさんが俺たちの間に割って入ってきた。
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