第11話 ~始まりの村からの新たな追手~
大きな足音とともに地響きが伝わってくる。
嫌な予感を覚えた俺は一瞬だけ振り返って後ろを確認した。
すると、視界に巨大な黒い影が映り込む。
「まずいな……マリン! もう本隊が現れた!!」
「嘘でしょっ!!?? 早すぎない!!??」
俺たちの後ろから追ってきていたのは大量のオークだった。
体長3メートルを超える人型の豚のようなモンスター。
頭には大きな角が生えており、口の周りに鋭い牙が生えているのが特徴だ。
手には棍棒のようなものを持っている。
力が強く動きも素早いため、駆け出し冒険者では歯が立たないほど強い。
それはあくまで単体の強さであり、パーティーを組んで戦う場合、それほど脅威ではなかった。
(あの数はやばい、絶対に魔王軍の本隊だ!!)
問題はその数が異常だということにある。
数え切れないくらい横一直線に広がったオークの集団がこちらに向かってきていた。
(これは逃げるしかない……魔王軍がこんなに早く現れるなんて!!)
いくら能力が上がったとはいえ、あの大群を相手にするのは難しい。
それに今は戦えないマリンを守りながら戦わなければならない状況なのだ。
(ここは一旦逃げて態勢を立て直さないと……)
そう思った矢先、前方からも別のオークの群れが姿を現した。
「「「「ブモォオオオオオオオオオ!!!!」」」」
俺たちの姿を捉えたオークの群れが雄叫びを上げながらこちらへ向かってくる。
「マリン! 支援をかけ直してくれ! 道を切り開く!! 突破するぞ!!!!」
「わかったわ!!」
俺は迫りくるオークたちを見据えながら剣を構えた。
「うぉおおおおお!!!」
マリンがすべての支援を終えると同時に加速する。
そして、そのまま先頭にいるオークへ向かって斬りかかる。
ガキィイイインッ!!!!
鈍い音を立てて、俺の剣がオークのこん棒によって受け止められた。
「くっ!?」
予想以上の衝撃に俺は顔をしかめる。
そこへ横からもう一体のオークが攻撃を仕掛けてきた。
ブォンッ!!
風を切るような音を立てながら、勢いよくこん棒が振り下ろされる。
「危ねぇえ!!!!」
俺は咄嗟に体を捻って回避した。
ブンッ!!
間一髪で攻撃を避けることに成功する。
「マリン! 今だ!! 駆け抜けろ!!!!」
「うわぁぁぁああああん!!」
群がってくるオークの攻撃を搔い潜り、包囲網を突破した。
マリンが涙目になりながら俺のすぐ後ろをついてくる。
「よしっ!」
包囲を抜けた俺たちは一気にスピードを上げた。
「「「「ブモォオオオオオオオオオ!!!!」」」」
背後から悔しがるような雄叫びが聞こえてくる。
(頼む……追いつかれないでくれ……)
だが、追いつかれる心配もあり、振り返れない。
「ごめんなさい、トールさん。私が戦えないからこんなことになっているのよね……」
何もないことを祈っている俺の横でマリンが申し訳なさそうに呟いた。
「今そんなことを話さなくてもいい! とりあえず走れ!」
こんな状況にもかかわらず、弱音を吐くマリンに対して苛立つ。
そんな俺にマリンは追い打ちをかけるように口を開いた。
「私、実は女神じゃなくて死神なのかもしれないわね……ハハハ……」
(こいつは何を言っているんだ?)
思わず横を見たら、そこには泣きそうな顔をしているマリンの姿があった。
一歩でも遠くに離れなければいけない今、できないことをクヨクヨと悩む余裕はない。
「俺はお前の支援のおかげで助かった! 今もそうだ!!」
「でも……」
それでもなお暗い顔をするマリンに向かって俺は叫んだ。
「お前がいなければ今頃死んでいたんだよ! 自信を持てよ! お前は俺を救ったんだぞ!!!」
自分でも驚くほど大きな声で叫んでいたことに驚く。
(こんなことを言うつもりはなかったんだけどな……)
言ってしまったことは仕方がないので後悔はしないことにした。
「…………そうよね!! トールさんは私が支援してあげないとダメよね!!」
俺の言葉にあからさまに良い気分になっているマリン。
(単純で助かったよ……これで少しはマシになるだろ……)
とにかく少しでも距離を稼ぎたい俺は再び前を向いて走り始めた。
◆◆◆
それからしばらく走り続けていると、ようやく前方に大きな街が見えてきた。
目的地であるクローラの街ではなく、大きな山が見えることから鉱山の街オルトンに着いたようだ。
「着いたぜ、マリン! ここまできたら魔王軍も追ってこないはずだ!」
「やっとなのね!! もうクタクタよ!!」
緊張の糸が切れたのか、疲れ切った様子のマリンを見て俺は安堵する。
ゲームでもこのクエストの生還方法は【他の街まで逃げる】という方法しか存在しないのだ。
最初のゴブリンくらいなら倒せても、その後は徐々にモンスターが強くなっていき、最後は魔王が現れる。
この段階で魔王を倒せるのが理想なのだが、今の俺たちではそれができないため、こうして命懸けで逃げていたのだ。
「何とかなったな……まずはこの街にある冒険者ギルドであの村の報告をしよう」
「そうね。情報提供のお礼を貰えるかしら?」
「ゲームではもらえたけど、どうだろうな」
「楽しみね!」
俺は足取りが軽くなったマリンを追いかけるようにオルトンの街へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます