第26話 ~ボロボロの女騎士~

「この方はこんなになになるまでなにがあったんですか?」


 エルフの女騎士を運んでくれた男女に話を聞こうとしたら、二人は涙をこらえるように唇を嚙み、声を震わせる。


「この人はモンスターの大群相手に独りで戦い続けていたんだ……」

「見たこともない強そうなモンスターばかりで怖くて……私たちには戦いを見ていることしかできなかったわ……」


 気を失ったエルフの女騎士の横に跪いているマリンは納得いかなそうに口を尖らした。


「それならどうやってこの人を助け出したの? 見ているだけで精一杯だったんでしょう?」


 普段のマリンを知らない人からすれば、今のこいつは頼りがいのある印象しかないだろう。


(なぜこいつは俺以外と話す時はしっかりしているんだ? いつもポンコツなのに……)


 俺が聞きたかったことをマリンが的確に質問してくれている。

 この人たちは別に特別なスキルを持っているわけではないことは確認した。


「それが……なぁ……」

「ええ……」


 マリンの質問に煮え切らない返事をする男女。

 エルフの女騎士を連れて帰ってきたのだから何か大事な情報があるはずだ。

 二人は困ったようにお互いを見ており、言い渋っている様子だった。


「ねぇ、何をそんなに黙ってるのかしら? やましいことでもあるわけ?」


 この人が倒れているのにあんたは何を言っているのよ! トールさん!」

 黙っている二人を見て我慢できなくなったのか、マリンが睨みつける。

 マリンにジッと睨みつけられた男女は観念したのか、女性がゆっくりと口を開いた。


「…………この人が倒れたら、モンスターたちが退却していったのよ」

「はぁ? 撤退?」


 女の回答にマリンが納得のいかない表情を浮かべる。

 周りに集まっている人たちもざわざわと話し始め、女性の言葉を疑っているようだ。


「本当なんだ! 信じてくれよ! 俺たちはその隙にこの人を助け出してきたんだ!!」


 男性が周りの人たちからの視線に耐えられずに必死に言い訳している。

 自分でも信じていないようなものだから、これほどまでに発言の切れがないのだろう。


(話を信じるのなら……この人が転生者である可能性は高い。けど、どうして……)


 俺は床に転がっているエルフの女騎士の装備へ視線を向けた。

 防具が見るに堪えないまでボロボロになるまで戦った理由が俺には全く理解ができない。


(この人はなんで魔王軍と戦ったんだ? 転生者なら、破滅モードの存在も知っているはずなのに)


 女騎士さんへ聞きたいことが多すぎるが、まだ目を覚ましそうになかった。

 ハイプリーストのマリンが必死に治癒スキルを使用しているにも関わらずだ。


「マリン、どうだ?」


 俺は心配そうに顔を覗き込んでいるマリンの横まで近づき声をかけた。

 マリンは首を縦に振り、小さく笑う。


「もう傷や体力は回復したわ。後は寝かせるだけね」

「それなら俺がベッドまで運ぶ。マリンは【例の件】を伝えてくれるか?」


 女騎士を抱きかかえながらマリンに伝言を頼んだ。

 マリンは自信満々に胸を張りながら親指を立てる。


「任せなさい! この街が壊滅するって話よね? ちゃんと言っておくわ!」


 マリンの言葉にざわついていた人たちが一斉に静まり返った。

 ギルド職員たちまでもが唖然としながらこちらを見ている。


「マリン、ちゃんと説明してくれよ。じゃあな」

(マリン……声が大きすぎだ……)


 エルフの女騎士を抱えていた腕に力を込め、逃げるようにその場を去った。


「えっ!? ちょっと!? トールさん!?」

「ねえ!! どういうことなの!? この街が壊滅する!?」

「なあ、プリーストのねーちゃん! 知っていることを教えてくれよ!」


 離れていく俺の背を追いかけるように、周りから様々な声が飛んできた。


(マリン、俺と話をしていない状態のお前なら大丈夫だよな)


 ギルド内は騒然としており、収集がつくのか怪しい状態だった。

 それでもマリンなら何とかしてくれると信じ、俺は女騎士さんを抱えて自分が眠っていた部屋へ向かった。


「これでよし……っと」


 ベッドの上にエルフの女騎士さんを寝かしつけ、静かに一息つく。

 規則正しく呼吸しているエルフの女騎士さんの顔色は悪くない。


(……なんだこれ……凄い高レベルだ……)


 状態を確認するために女騎士を注視してしまった俺の目に、彼女のステータスが飛び込んできた。


【名前】リディア・ルーデンス

【種族】エルフ族

【年齢】20歳

【職業】ヘビーナイト

【レベル】67

【基礎能力値】

 体 力:8,363/8,363

 魔 力:391/391

 筋 力:60(職業による補正+10)

 生命力:70(職業による補正+10)

 敏捷性:20

 器用さ:30

 知 力:10

 幸 運:10

 スキル:剣熟練度Lv10(剣使用時攻撃力10%増加)

     オーラソードLv10(防御力無視の追加ダメージ100)

     イグニッションデストロイLv10(物理攻撃力2000%ダメージ)

     …………

 装備品:ミスリルの剣:攻撃力0(大破損:攻撃力ー50)

     ミスリルの胸当て:防御力0(大破損:防御力ー100)

     ミスリルの肘あて:防御力0(大破損:防御力ー40)

 状 態:なし 


(マリンと同じ、二次転職している高レベル冒険者だ……スキルも強力なのがたくさんあるし、かなり強いぞ……この人……)


 リディアさんの能力の高さに驚かされた。

 スキルは俺の目では追えないくらい多い。

 装備もミスリル製の武具で揃えている。

 これなら魔王軍を半壊させることも可能だろう。


「……う、うう……」


 呻き声とともに、リディアさんの閉じられていた瞼がうっすらと開く。

 リディアさんはぼーっと天井を見上げたまま動かなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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