第27話 ~リディアさんの目的~
「気が付きましたか?」
リディアさんに呼びかけてみると、虚ろな瞳でこちらを見てきた。
「…………ここは?」
「ここはオルトンの街の冒険者ギルドに併設された宿です。あなたはモンスターと戦い──」
俺の話を聞きながら、リディアさんの顔がどんどん険しくなっていった。
眉間に皺を寄せ、唇を嚙んで何かを考えるようにじっとこちらを見つめる。
「見知らぬ方、助けて頂きありがとうございます。ですが、私はもう行かねばなりません」
リディアさんはゆっくりと上体を起こし、ベッドから立ち上がろうとしていた。
マリンのスキルで体力は回復できても、体の疲労までは取り除けない。
そんな満身創痍の状態にもかかわらず、リディアさんはまだ戦おうとしている。
(やっぱりこの人は……)
ふらつきながら立ち上がったリディアさんは、壁に手をつきながら部屋から出ていこうとする。
「魔王を倒さないとこの街が壊滅するから……ですか?」
「どうしてそれを? ……あなたも転生者なの?」
俺の言葉にリディアさんが立ち止まり振り返った。
その瞳には俺へ助けを求め、すがるような色があったような気がした。
「そうですね。俺はアポカリプスオンラインの知識を持っています」
「それならお願い! 私と一緒にこの街を救って!」
突然俺に詰め寄り懇願してくるリディアさんの表情は必死そのものだった。
だが、俺は自分の命を懸けてまでこの街を救う理由がない。
第一、こんな状況にした張本人はリディアさんだ。
「どうしてこのタイミングで魔王軍と戦ったんですか? 意味ないですよね?」
「それは……そうなんだけど……」
俺が冷静に言葉をかけると、リディアさんは苦しそうな表情で言葉に詰まる。
(俺にできるのはここまでだ)
リディアさんの目が覚めたことで前の恩は返せただろう。
いつ魔王軍が襲ってくるのかわからない今、何も言わない人にかまっている時間はない。
「では失礼します。魔王軍と戦うのならご武運をお祈りしています」
「待って! もう少しだけ話を聞いて!」
部屋を出ていこうとすると、リディアさんが呼び止めてくる。
俺は振り返りもせずに背中越しに声をかけた。
「……なんですか?」
「私は……その……英雄に……なりたかったの……」
声を絞り出すように発せられたその言葉は、まるで叱られた子供が泣きながら謝るようだった。
しかしその声は小さく聞き取りにくいもので、辛うじて俺に届いた。
リディアさんの告白を聞いた俺は静かに深呼吸をした。
(理解はできる……だけどな……)
自分の知っているゲームの世界に来ることができて舞い上がったのだろう。
強くなり、俺のように困っている人を助けていたら、自分が特別だと思うのも無理はない。
俺だって同じような目標に向かってこの世界で頑張っている最中なのだから。
(さて、どうしたものか……)
正直言ってリディアさんに付き合う気はなかった。
ただ、このまま話を終わらせて街を出ていきたいのだが、リディアさんを放置していいか迷うところだ。
英雄願望を持つリディアさんを野放しにしていたら何をされるかわからない。
(けど……この人と一緒に行動するのはなぁ……)
俺の命を守るためにはここで突き放すしかない。
(ないんだけどな……)
ふと視線を感じ顔を上げると、そこには不安そうな表情で俺を見つめるリディアさんの姿があった。
俺は溜息をつき、リディアさんに向き直って口を開く。
「もう無謀なことはしない。そう約束してくれるのなら協力します」
「ありがとう! とても心強いわ!」
リディアさんの顔に笑顔が戻り、嬉しそうに俺の手を握りしめてきた。
そのままブンブンと握手するように腕を上下に振り続ける。
彼女の笑顔からは嬉しさが溢れ出ているようだった。
(ああ……本当に困ったことになった……まあ仕方がないか……これも俺の運命なのだろうな……)
コンコンコン
そんなことを考えていると、部屋の扉が控え目にノックされた。
「あ、すいません……」
リディアさんが名残惜しそうに手を離してくれるので、扉の方へ歩いていく。
そして扉を開け、部屋の外を窺う。
「はい、なんでしょう?」
「やっほー……エルフさんは起きた?」
「起きたけど……どうしたんだ? 入れよ」
扉の外にいたのはマリンだったが、部屋の中に入ってこない。
それに、俺が協力すると言う前のリディアさんと同じような顔をしていた。
「いやー……なんというか……」
マリンが言いづらそうに口ごもるのを見て、リディアさんも扉の外の様子を窺ったようだ。
リディアさんはマリンの顔を見て、絶句している。
「あの……その方は……女神さま……ですよね?」
「いやー……なんというか……」
マリンとリディアさんはお互いを見ながら、言葉を探そうと必死だった。
「とりあえず、マリンはこっちへこい」
「きゃっ!?」
二人に黙られたら話が進まないので、マリンの手を強引に引いて部屋へ入れる。
ベッドへ放り投げるように手を離すと、マリンはよろけながらベッドの上に座った。
「ちょっと!! レディをもっと丁寧に扱えないわけ!?」
「そ、そうですよ! この方は女神さまなんですから、もっと敬わないと失礼ですよ!」
二人の抗議を無視して、俺は椅子に腰かける。
「まずはお互いの自己紹介からしようか」
それから三人で話し合いを始めたのだった。
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