第28話 ~三人の自己紹介~
俺たちは簡単な自己紹介を終えたあと、これからの行動について話し合うことにした。
議題はもちろん【どうやって魔王軍を撃退するか】である。
「あのー……トールさん? その話の前に……ね。伝えることあるんだけど……」
「なんだよマリン? そういえばさっきもそんな顔していたな」
なぜか申し訳なさそうにチラチラこちらを見てくるマリンを見て、俺は首を傾げた。
マリンは何か言いたいことがあるようだが、なかなか切り出せないでいる。
「早く言え、時間がないぞ」
「わかったけど……怒らないで聞いてね」
「ああ、怒らないよ」
こう言わないとマリンが一向に話しそうにないので、仕方なく望んでいる返事をする。
俺が頷いたのを確認してからマリンが口を開いた。
「実はですね……この街にいる冒険者全員で魔王軍と戦うことになりました」
「…………はぁ!? なんでそうなるんだ!!」
俺は思わず椅子から立ち上がり声を荒げてしまった。
「お、怒らないって言ったじゃない!!」
「そ、そうだぞトール。怒ったらマリンさんも話ができないだろう」
リディアさんは怯えているマリンを庇うように前へ出て俺を諫めてくる。
マリンはリディアさんへ女神マリンに似ているだけと説明していたので、今のところ本物の女神だとは思われていない。
「いや、怒ってはいないです。ただ、なんでそうなったのか聞きたいだけです。言い方がきつかったのは謝ります」
俺は椅子に座りなおし、マリンとリディアさんに謝罪する。
リディアさんはホッとしたように胸を撫でおろし、マリンが事情を話し始めた。
「えっと……リディアがボロボロになっているのを見て、みんな奮起したというかなんというか……」
「本当にそれだけか? お前、余計な事言っていないよな?」
「えーっと……【たぶんの人は起きたら戦いに行くけど、あなたたちは逃げると良い】……なんて言ってみたり……」
「なんで煽ってんだよ!? 頭おかしいのか!?」
「だ、だって! みんなで協力したら魔王軍くらい倒せるかもしれないでしょう!?」
俺の抗議に反論するようにマリンが叫んだ。
やはり思った通り余計なことを言っていたようだ。
俺は額に手を当てて、軽くため息をついた。
「……な、なあ、トール。どうしてみんなで戦っちゃダメなんだ? 魔王を倒せるんじゃないか?」
咳払いをしながら俺とマリンの会話が終わるのを見計らってリディアさんが話しかけてきた。
まあ当然の疑問だろう。
リディアさん自身は命をかけようとしたのだから、その反応も仕方ないことだと思う。
俺は理由を説明するため、反論されないようにマリンの口を手で塞ぐ。
「まず最初に断っておきますが……この街を救うために魔王軍を撃退しましょうという提案は受け入れられません」
「ムグッ!!??」
「……やっぱりトールさんは魔王軍と戦うことには反対なんですか?」
「そうですね。単純に戦力が足りないです」
「足りない? この街にいる冒険者全員が戦おうとしているんだぞ?」
俺がそう言うと、リディアさんはキョトンとした顔で小首をかしげた。
どうやらディアさんはアポカリプスオンラインにあまり詳しくないらしい。
なので更に補足を加える。
「この街にいる冒険者は基本的に鉱山に入るためになっている人がほとんどです。一体どれだけの人がリディアさんくらい戦えると思いますか?」
この街の冒険者がすべて集まっても、魔王軍に勝てる可能性などほとんどゼロに等しいのだ。
「リディアさんは一般冒険者のレベルがどの程度なのかご存知ですか?」
「えっ……一般の冒険者?」
突然話題が変わったせいか、戸惑った表情になるリディアさんを見て、これは知らなさそうだと判断した。
コンコンコン! コンコンコン!
そんな時、またしてもドアがノックされる音が聞こえてきた。
今度は誰だろうかと思案する間も無く、ガチャっと扉が開く。
「失礼します。マリンさんはいらっしゃいますか?」
部屋に入ってきたのは冒険者ギルドで受付を担当している女性だった。
彼女は俺に向かってお辞儀したあと、真っ直ぐにマリンへと視線を移した。
「あっ!? いらっしゃった! もうみなさん準備を整えて待っていますよ!!」
「へっ? あ、あれー……? いやだなーまだ心の準備ができてないのになあー」
受付の女性から見つめられ、マリンは焦った様子で言い訳をするような表情になった。
その後、すぐに困ったように俺を見つめてくる。
(なんとなくだが嫌な予感がする)
そう思った瞬間、受付の女性が急かすようにマリンの傍まで近づいていき腕を掴んだ。
「ハイプリーストのマリンさんが一緒なら心強いとみんなが言っています。さあ!」
「ちょっ!? い、痛いって!! ひ、引っ張らないで!?」
抵抗するマリンをそのまま部屋から引きずり出そうとする受付の女性。
このままだと面倒な事態に巻き込まれる未来しかない。
(マリンを見捨てる……それは……)
チラッと横を見ると、リディアさんが不安そうに俺を見つめていた。
もちろん俺だって大事な相棒であるマリンを見捨てるなんて選択はしないし、そんなことしたくないと思っている。
(やるしかないか……ハイプリーストとヘビーナイトが仲間なら望みがある)
俺は覚悟を決めて椅子から立ち上がる。
「リディアさん、体調はどうですか?」
「……装備があればもう大丈夫よ」
少し逡巡してからリディアさんが答えた。
その顔は頬を赤らめてソワソワとしている。
(……なんで?)
リディアさんが紅くなっている理由がわからないが、今はマリンだ。
「ちょっと待っていただけますか?」
俺はマリンが廊下に追い出される前に、受付の女性を呼び止めた。
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